“メディア”としてのトランプ新大統領に、メディアはどう対峙するのか

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01/15/2017 by kaztaira

“ツイッター大統領”としてのトランプ氏と、メディアはどう対峙していくのか。

トランプ氏が大統領選当選後では初となった11日の記者会見で、そんな疑問を象徴する場面を、世界中が目の当たりにした。

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その複線は会見の前日、CNNがトランプ氏に関する「不名誉な情報」を含む元英情報機関の諜報員による調査メモの存在を、そしてと米バズフィードがその全文を、報じたことにあった。

これについてトランプ氏は、会見前、そして会見後も、ツイッターで「偽ニュース」と連呼。会見場でも、CNNと米バズフィードを、それぞれ「偽ニュース」「ゴミの山」と強い調子で一方的に罵倒してみせた。

事前のツイッター、それを受けてのリアルの会見の問答と絵柄、さらにテレビやネットの反応までの、情報の流れがはっきりと意識された立ち振る舞いだ。

トランプ氏を、もはやこれまでのような大統領としてではなく、デジタルにも秀でた影響力ある“メディア”として捉えるべきではないか―。

テレビとネットを熟知したその手法に着目し、こう指摘する声も出ている。

●「偽ニュース」と非難する

無礼なことをするな。あなたに質問はさせない。質問はさせない。あなたたちは偽ニュースだ。

「私たちを攻撃するのであれば、質問をさせてもらえませんか。質問をさせて下さい」と会見場の最前列で、およそ10回にわたって質問の機会を求めるCNNのホワイトハイス担当、ジム・アコスタ記者を、トランプ氏が繰り返し遮る。

このやりとりの動画は、会見後、ネットやテレビで繰り返し流れた。

トランプ氏は約1時間の会見中、「偽ニュース」という言葉を7回も口にしている。

元英情報局秘密情報部(MI6)諜報員によるとされる、トランプ氏に関する「不名誉な情報」を含む調査メモが存在し、それが元諜報員から米連邦捜査局(FBI)にもわたっていることについて、すでに昨年10月末、マザー・ジョーンズのワシントン支局長、デイビッド・コーンさんが報じていた

CNNの今月10日の報道では、ロシア政府が米大統領選妨害とトランプ氏当選を目的にサイバー攻撃を行っていた、とする米情報当局によるレポートを6日、オバマ氏とトランプ氏に説明した際、元諜報員による調査メモの要約版も添付され、合わせて説明されていた、とした。

※参照:サイバー攻撃と偽ニュース:ロシアによる米大統領選妨害は、いかに行われたのか?

そして、このCNN報道の後、バズフィードは、「内容は確認されておらず、誤りも含まれる」とした上で、35枚にのぼる調査メモの全文を公開していた

「偽ニュース」は、クリントン氏を貶め、トランプ氏を支援する内容のデマが大量に流通したことからメディアで注目を集めた言葉だ。

その同じ言葉を逆手に取り、自らに批判的な報道をラベリングしている。

●大統領のツイートの攻撃先

トランプ氏のツイートによる攻撃先は、メディアだけではない

メディアばかりか、ゼネラル・モーターストヨタのメキシコでの生産、さらには下院共和党議会倫理局縮小案、さらにはトランプ氏をメディア有名人に押し上げた番組「セレブリティ・アプレンティス」の後継ホスト、アーノルド・シュワルツェネッガー氏いたるまで、矢継ぎ早のツイッター攻撃でも波紋を広げたトランプ氏。

特に企業は、トランプ氏のツイッター攻撃で名指しされるだけで、株価の下落に見舞われるため、声明の発表など、何らかの対応を迫られることなる。

●メディアから見たトランプ氏

ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、デイビッド・ブルックスさんは、トランプ氏のツイッター発信を指して「スナップチャット大統領」と、やや紛らわしい表現で評している。

ブルックスさんは、トランプ氏が、大統領としての自らの存在を、従来のように権力機構の一部としては考えていないだろう、と指摘。

彼はある部分で、テレビとメディアが造りあげた生き物だ。存在感の誇示が自己目的化しているのだ。彼は実際のところ、権力には関心がない。彼の生涯は、トランプというイメージを築き上げるための関心とステータスを獲得するめのものだった。彼の立ち振る舞いこそが、その商品性なのだ。

そして、トランプ氏のツイッターを過剰に解釈するのは間違いだと言う。

この数週間、私たちは次期大統領のコメントを、通常の新大統領による通常の政策声明として取り扱ってきた。トランプ氏jが何かを口にする、あるいはツイートするたびに、専門家集団があわてて動きだし、その意味するであろうことは何か、その意図することが米国の政策のどんな変化につながるか、を解釈しようとしてきた。

だがおそらくこれは、トランプ氏の理解の仕方としては間違っている。彼はもっとポストモダンだ。「もしこうなら、こうなる」というロジックでは動いていない。彼は、決断、実行、結果、というやり方ではないのだ。

彼の声明は、政策表明というよりは、もっとスナップチャットに近いものだ。関心を得るために瞬間的に存在するが、あとは消え去ってしまうのだ。

ブルックスさんのコラムは3日付のもの。トランプ氏のツイッターによる自動車業界への介入で生じた混乱を受けたものではない。

現時点では、ツイッター攻撃が陽炎のようにはかないものとは言いづらいが、従来の大統領とは違うロジックで動いているであろうことは、間違いなさそうだ。

●”メディア”としての新大統領

英ガーディアン出身で、コロンビア大学ジャーナリズムスクールのデジタルジャーナリズムセンター所長、エミリー・ベルさんは、トランプ氏をもはや”メディア”と捉えるべきだ、とコロンビア・ジャーナリズム・レビューの記事で述べている

トランプ氏の振る舞いは、”通常の”大統領のものではないし、一般的な政治家のものですらない。そうではなくて、騒々しく、競争心の強い、デジタルにも敏感な、ポピュリスト(大衆迎合)のメディア組織のものだ。トランプ氏にとっては、メディアはメッセージであるだけでなく、彼自身の執務室でもあるのだ。

それによって、メディアとの関係も違ってくるという。

トランプ氏を取材する報道機関にとって、混乱してしまう問題の一つが、トランプ氏には報道による解説や広報に依存することがない、という点だ。あらゆる意味で、トランプ氏は自身のことを、既存の報道機関と対立するというだけでなく、競合関係にあると見なしているのだ。

従来はテレビやラジオの朝の番組がその日の話題を決めてきた(モーニング・アジェンダ)が、トランプ氏は毎朝のツイッターで、それをもっとたやすく実行できる、とベルさんは言う。

では、メディアはトランプ氏のツイッターをどう扱うべきなのか。

トランプ氏のツイッターを政治報道はどう扱うべきか、について多くの議論が行われてきた。ツイッターは、大統領としての意図や考えとは別物だ、とか、ツイッターは無視して、新政権の本質に焦点を絞ることで、全く違う結果が得られるだろう、といった。だが、ツイッターと大統領とは、象徴的に結びついていくのだ。

ベルさんは、トランプ氏が極めて高度にツイッターを活用している、と指摘する。

トランプ氏は本能的に、ユーザーや他のメディアのバイオリズムに適合したスケジュールでツイートを行っている。彼は自らの意見や閣僚指名について、根気強くA/Bテストを繰り返し反応を確かめている。彼は現実の出来事とソーシャルメディア上の足跡、そして進行中のプロジェクトの、ネットとリアルメディアのサイクルの中での相互作用について、既存のニュースメディアの大半の役員よりも理解している。

そして、大統領とメディア機能が統合されることの危険性について、検証が必要だ、と。

トランプ氏をメディアと位置づけることは、トランプ政権の権力について報じる上での深刻さを過小評価することには、決してならない。その反対で、政治とメディアが完全なコンバージェンス(集中)を果たすことが、いかに有害なものになり得るかということを、検証していくことこそ重要なのだ。

そのためには、メディアの側も変化が求められるとベルさんは言う。

トランプ氏は、まさにエンゲージメントのルールを変えることによって、政治報道にメディアとテクノロジーの統合を強いる結果になっている。大統領選挙後の報道の大半を占めるのが、(従来のような)一杯になった投票箱や壊れた投票機の話題ではなく、偽ニュースやロシアによるサイバー攻撃であることが、その状況変化を端的に示している。そして、報道機関が最も苦手な2つの場所、周辺部の激戦区とサイバースペースこそが、有権者レベルでは主戦場となっているのだ。

ジャーナリズムにとって、ソーシャルなスキルは、読者とのエンゲージメントにとって重要だ、と言われてきた。だが、トランプ時代には、それこそが報道の主戦場になる――それをメディアが理解するには、少し時間がかかりそうだ。

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※このブログは「ハフィントン・ポスト」にも転載されています。

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