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「開業時」を再現した銀座線特別車のこだわり

東洋経済オンライン 1/12(木) 6:00配信

 「アラフォー」世代以上の東京育ちの人なら、かつて地下鉄銀座線で車内の電気が消える瞬間があったことを覚えてはいないだろうか。駅に着く直前などに一瞬車内が真っ暗になり、窓の脇にある小さな明かりが灯る・・・・・・。今から30年ほど前の銀座線では、そんな光景が毎日展開されていた。

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 「電気が消える」旧型車両が銀座線から姿を消したのは今から24年前の1993年。その旧型車に代わって登場した車両も完全引退が迫るこの1月になって、なんと「電気が消える」車両が再び銀座線に姿を現した。

■木目の壁、緑の座席・・・90年前を再現

 といっても、昔の車両がそのまま復活したわけではない。今回登場したのは、2012年から銀座線に導入されている黄色の新型車両「1000系」の特別仕様車だ。日本初の地下鉄である銀座線が今年12月で開業90周年を迎えることから、イベントなどに使用できるよう、開業の際に走った「1000形」をイメージし、外観や内装を通常の車両から大きく変更。1月17日以降、通常のダイヤで銀座線を走り出す。

 懐かしの「電気が消える」様子を再現するのはイベントの際のみだが、特に鉄道に関心のない人でも、一歩足を踏み入れればこの車両が一般の銀座線と違うことは一目瞭然だ。木目の壁、深いグリーンのシート、そして金に輝く真鍮色の手すり・・・・・・。窓の横には、車内の照明が消えた際に点灯する小さな明かり「予備灯」もちゃんと取り付けられている。

 外観も、昔の電車らしい雰囲気の丸いヘッドライトや、旧型の車両で窓の上下を補強するために取り付けられていた「ウインドシル・ウインドヘッダー」と呼ばれる出っ張りを表現したラッピングなどが「昔の電車っぽさ」を醸し出す。

 「特注品ばかりです」。東京メトロ車両部設計課長の松本耕輔氏はそのこだわりを語る。

導入のきっかけは「ホームドア」

 特別仕様導入のきっかけとなったのは、実は銀座線のホームドア設置計画だという。同線では2012年から、従来走っていた銀色の01系車両に代わり、黄色い新型の1000系投入がスタート。当初の予定では、01系をすべて置き換えるのに必要な6両編成38本を製造し、これで終了の予定だった。

 だが、同線で現在進めている各駅へのホームドア設置が完了した後のダイヤを検討したところ、必要な車両数が従来より2本増えることになったという。そこで「せっかく2本追加で導入するのなら、同じ車両よりもさらに利用者に楽しんでもらえるものを」(松本氏)と、基本部分は一般の1000系と揃えつつ、イメージを変えた特別仕様車両を導入することになった。

 1000系はもともと開業時の1000形をイメージして作られており、利用者からもデザインが好評を呼んでいるという。銀座線で現在行っている駅や施設の大規模リニューアルのコンセプトは「伝統×先端の融合」。そこで、歴史ある1000形の「伝統」的イメージをさらに強調したデザインの特別仕様車両が生まれることになった。

■真鍮「風」の手すりにレトロ感が

 特別仕様車両の最大の特徴は、何といってもその内装だ。木目の壁面とダークグリーンの座席が特徴だが、松本氏によると、特に力が入っているのは真鍮風仕上げのパイプや金具類、濃いブロンズ色に染められた窓枠や荷棚の金属部分、そして「予備灯」だという。

 木目の壁などとともに、内装で印象的なのは手すりなどのパイプ類だ。一般車両では銀色のステンレス地だが、鈍い金色の輝きがレトロな雰囲気づくりに一役買っている。一見すると真鍮製に思えるこの手すり類、実はステンレス製だ。実際に真鍮を使うと、乗客の衣服などが汚れてしまう可能性があるためだという。

 真鍮のような質感は、ステンレス素材にバフ仕上げ(研磨)を行った上でメッキを施し、さらにその上から黒い塗料を手作業でハケ塗りし、最後にクリアの塗料でカバーするという手間をかけて再現したという。手すりだけでなく、点検用のフタにあるヒンジなど細部の金具もこの仕上げだ。また、窓枠や荷棚のフレームも一般車両ではアルミの銀色地となっているが、この車両では濃いブロンズ色のアルマイト処理を施している。真鍮風のパイプとともに「色合いの調整などで苦労した部分」(松本氏)だ。

 予備灯は、旧1000形の装備品を忠実に再現。松本氏によると、東京メトロ東西線・葛西駅高架下の「地下鉄博物館」に保存されている旧1000形の予備灯を3Dスキャナーを使ってスキャンした上で図面化し、新たに型を起こしたという。車端の壁にある、車両番号と製造年・メーカーを刻んだプレートもわざわざ右書きで「年八拾弐成平(平成28年)」としてあるなど、細部まで凝った造りだ。

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最終更新:1/12(木) 6:00

東洋経済オンライン

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