今年は東南アジア諸国連合(ASEAN)設立から50周年である。

 バンコクでの設立宣言に集まったのは5カ国の閣僚だった。現在は10の加盟国を数える。

 経済発展や政治体制が多様な国々が着実に経済協力を進め、緩やかなまとまりをつくってきた。近年の欧州連合の変調に比べれば、ASEANの流儀は改めて評価できる点がある。

 1990年代後半からは日中韓が会合に呼ばれ、ASEANはアジア各国を結び付ける舞台となった。北朝鮮の外相が参加する定期会合もある。今後もASEANを軸とした地域協力の進展に期待したい。

 トランプ米次期政権の下で環太平洋経済連携協定(TPP)実現の見通しが失われた今、この地域ではASEANが提起した東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を進めるよりほかに現実的な選択肢はない。

 TPPで到達した高い水準の合意がRCEPに移植できる保証はなく、中国が主導権をとるのではないかと心配されている。問題は関税引き下げにとどまらない。例えば国有企業の特別扱いを禁じる規定を中国が受け入れるのは難しそうだ。

 しかし現在、貿易の伸び悩みや経済成長の鈍化といった課題は、中国を含め多くの国が直面している。守りの姿勢だけでは新たな発展はない。RCEPの論議をてこに、各国の国内改革へと踏み出すときだ。

 安全保障ではさらに困難が伴う。南シナ海では中国がスプラトリー(南沙)諸島で岩礁埋め立てと軍事拠点化を続け、地域の脅威となっている。ベトナムも岩礁埋め立てを進めている。

 自由に往来できた海域を自国の陸地の続きのように扱う考えは誤っている。南シナ海は東アジアのまん中に位置し、各国を結びつけるものだ。その平和を協調して守らねばならない。

 南シナ海での各国の活動を法的に規制する「行動規範」づくりに向け、ASEANと中国との間で協議が続いている。経済協力を基礎に、安全保障面でも中国を巻き込んだ秩序づくりを目指すべきだ。

 世界で強まる自国中心主義からは距離を置き、多様性を尊重し、地域協力のメリットを生かす道を探っていきたい。

 今年は「福田ドクトリン」40周年でもある。当時の福田赳夫首相が訪問先のマニラでの演説を通じて表明したのは、ASEANを支える良き協力者でありたいという姿勢だ。それは日本の役目としていっそう大切になっている。