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【社会】

相模原殺傷5カ月 献花台きょう撤去 障害を特別視しない社会に

献花後、空を見上げる鈴木哲夫さん=26日、相模原市緑区の津久井やまゆり園前で

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 入所者十九人が刺殺され、二十七人が重軽傷を負った相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」の事件で、七月の発生直後から正門前に設置されていた献花台が、二十六日午後四時に撤去される。事件は多くの人に共生社会のあり方を問い掛けてきた。自らも家族に障害者がいて「かつては引け目があった」と話す地元の男性はこの日朝、自戒と再発防止への願いを込めて献花台を訪れた。 (井上靖史)

 「身内に障害者がいることを知られたくない思いがあった。特別視せず、普通に声を掛け合える社会にしたい」。二十六日午前九時、やまゆり園の近くに住む鈴木哲夫さん(70)は献花台に花を手向け、静かに祈った。

 山形県出身で八人きょうだいの末っ子。十六歳で就職のため上京し、一九八七年に緑区内に自宅を構えた。

 七年前に八十歳で亡くなった一番上の姉は二十代後半に腕が上がらなくなる難病を発症し、全身の機能も不自由になり歩くのも困難な重度障害者だった。盆や正月などで実家に家族と帰省すると、「姉について妻はどう思うかな」と不安だった。「どこかで触れてほしくないという思いがあった」

 しかし、事件で逮捕された元施設職員の植松聖(さとし)容疑者(26)が「障害者は不幸しかつくらない」と供述したとの報道に触れ、自身の胸の内を問い直すきっかけになった。姉への不安は「結局、自分も障害者を軽く見るような差別意識があったからではないか」。

 触れてほしくないという自分の経験もあって、散歩中や駅などで障害者を見掛けても素通りしてきた。事件に関する新聞記事や書籍を取り寄せて自分なりに考え、意識して行動を変えた。日常生活で出会う障害者や家族に「こんにちは」「こんばんは」とあいさつするようにした。

 やってみると、「気持ちが通じ合えた気がした」。障害の子を連れた人、駅で白杖(はくじょう)を使っている人らに自然と、手伝いを申し出る言葉も出せた。「大丈夫だったら相手も大丈夫と言う。余計なお世話になっても良いじゃない」

 十月からは、地元住民ら約二十人が事件について考えを述べ合う「共に生きる社会を考える集い」に参加を続けてきた。今の場所での建て替えを計画しているやまゆり園の再生や、共生社会の実現に、地元に生きる者として何ができるかを話し合っている。

 献花台は撤去されるが、「節目ではないし、決して忘れてはいけない事件」。鈴木さんは今、思いを強める。「地道だけど、障害者に普通に手を差し伸べられる人を一人でも多く増やしていくしかない」

<相模原殺傷事件> 7月26日、相模原市緑区の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者が次々と刃物で刺され19人が死亡、職員3人を含む27人が負傷した。神奈川県警が逮捕した元施設職員植松聖容疑者(26)は「障害者なんていなくなればいい」と供述。事件前の2月、施設襲撃を予告する手紙を持って衆院議長公邸を訪れていた。精神状態を詳しく調べるため、横浜地検が9月21日から来年1月23日まで約4カ月間の鑑定留置を実施している。

 

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