キネマ旬報が選ぶ2016年公開の日本映画ベスト10で、1位に輝いた「この世界の片隅に」の片淵須直監督と、松尾亮一郎プロデューサーが14日、大分市府内町のミニシアター「シネマ5bis」で舞台あいさつをした。「1位」発表後、全国で初の舞台あいさつとなった。【安部志帆子】
片淵監督は「アニメーションが実写映画と肩を並べられる時代になり、うれしい」と喜びを語った。同ベスト10でアニメ映画が1位になったのは、「となりのトトロ」以来、28年ぶり。アニメーションの監督が監督賞を受賞するのは初めて。
「この世界の片隅に」は、こうの史代さんの同名漫画が原作。戦争中に広島から呉に嫁入りした主人公「すず」の姿を、素朴な日々の生活を中心に描く。昨年11月から全国63館で公開された後、口コミで評判が広がり、14日現在、公開は194館に拡大している。
この日は150人を超える観客が館内を埋め、監督が「1位になっちゃいました」と報告すると、大きな拍手が送られた。
「こうした拍手をもらうのも今日が初めてなんですね。改めて感激しています」と監督は笑顔になった。
製作にあたり、70年前の広島や呉が目の前にあるように、自分がその場にいるように描けないか、と考えたという監督。当時を知る人に話を聞くよりも、当時の日記や新聞記事を読むことを重視したという。「戦後になって重ねられた記憶ではなく、当時どのように書かれたのかを大事にした」
バッグに猫や花を刺しゅうした絵を、女学生の絵日記に見つけ、戦争中にそんなことが許されたのか、と驚いたという。そのバッグを、映画の場面に反映させた。
当時、呉にいた人が映画を見て「これは私の見た呉の姿です」と言うのを聞き、「僕の知りたかった当時の生活は、本当にこうだったんだ」とうれしかったという片淵監督。「すずを通して、70年前の呉が、現在につながっていると感じてもらえたら」と話した。