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未熟運転放置が原因 会社側を立件へ

15人が亡くなったスキーツアーバス事故から1年を前に、事故現場には多くの花束が献花されていた=長野県軽井沢町で2017年1月14日午後5時50分、猪飼健史撮影

 乗客・乗員15人が死亡、26人が重軽傷を負った長野県軽井沢町のスキーツアーバス事故から15日で1年になる。県警は、死亡した運転手の技術の未熟さが原因との見方を強め、バス会社側の教育・管理体制の甘さが事故を招いたと判断。社長ら2人の刑事責任を追及する方針を固め、捜査は大詰めを迎えている。一方、国は悪質な事業者をチェックする仕組みの強化を図る。遺族が望む再発防止は実現するのか。【川辺和将、安元久美子、内橋寿明】

 2016年1月の事故発生当初は「居眠り運転」「車両故障」が疑われたが、1年近い捜査を経てバスが転落するまでの状況が解明されていった。

 捜査関係者によると、現場約250メートル手前にあるカメラは、ブレーキランプ(制動灯)をともして猛スピードで坂を下る事故車両を捉えていた。道路に設置されたカメラの映像でバスの姿を確認できたのは現場約100メートル手前までだったが、映像をさらに解析し、カーブに入ってバスの姿が消えた後もガードレールが制御灯を約4秒間、反射し続けていることを確認。事故直前まで運転手がブレーキを踏み続けていたことが明らかになった。

 車両検証で、主要装置に異常はなかった。一方で、ギアはエンジンブレーキのかからないニュートラルの状態だった。県警捜査本部は事故現場と高速道路で、同型の大型バスを走らせ実証実験を実施。その結果、高速になった状態でギアを変える際、シフトチェンジの操作を誤るとニュートラルに入ることが判明。運転手の技術の未熟さが事故を引き起こした疑いが強まった。

 運行していた「イーエスピー」(東京都羽村市)の15年12月の採用面接で、土屋広運転手(当時65歳)は「大型バスの経験は少ない」などと話していたが、会社側は運転技術が十分かを確認せず、採用後の実車訓練も1回だけだった。

 技術の未熟さを認識しながら十分な研修を実施せず、これが事故につながったとして、捜査本部は社長(55)と運行管理者だった元社員(48)を業務上過失致死傷容疑で書類送検し、検察に起訴を求める「厳重処分」の意見を付ける見通しだ。

 土屋運転手も、容疑者死亡で自動車運転処罰法違反(過失致死傷)容疑で書類送検する。

 刑事過失論に詳しい明治大学法科大学院の大塚裕史教授は「運転技術の未熟さが事故を引き起こしたことと、社長が未熟さを知りながら運行管理者に教育を促すなどの対策を怠ったこと。この二つの確実な立証が求められるだろう」と語る。イーエスピーの広報担当者は「土屋運転手の運転が特に危険という認識はなかった」と話している。

再発防止策、実効性カギ

 国は昨年6月、バス会社のチェック体制強化を柱とした再発防止策をまとめ、改正道路運送法が昨年12月に施行した。同法に基づく新制度では4月以降、貸し切りバスの事業許可に更新制を採用する。これまでは一度事業許可を取れば無期限で有効だったが、国が安全面への投資ができているかなどを5年ごとにチェックし、「不適切」と判断した会社は事業を継続できない。

 バス会社を巡回・指導する民間機関も今夏、設立される。各社の負担金で運営され、全社を少なくとも年1回調査。問題が見つかれば、国がその会社を重点的に監査する。

 事故では、旅行会社とバス会社を仲介した業者が国の基準以下の価格でバス会社を手配した▽運転手が大型車に不慣れだった--なども問題化。国は、仲介業者を登録制とし、指導・監督ができるようにする。直近1年間に乗務しなかった車種を運転する運転手には最低20時間の実技訓練を受けさせるようバス会社に義務づけた。

 貸し切りバスを巡っては、00年の国の規制緩和後、約4500社に倍増。価格競争が激化して安全面への出資を怠る業者も多く、運転手の労働条件にもしわ寄せが及んだとされる。

 国は00年以降、参入規制の緩和は維持しつつ、大事故が起きる度に制度改正を重ねている。今回の国の対策について、関西大の安部誠治教授(交通政策論)は「安全意識の低い会社をなくす仕組みはある程度整った」と言う。

 軽井沢町の事故で次男を亡くし、再発防止策を提言してきた遺族会代表の田原義則さん(51)は「施行後もきちんと実行されているか、何度も振り返って確認しなければいけない」と指摘する。

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