連載
西川善司の3DGE:「Nintendo Switch」のプレゼンテーションと体験会で分かったこと,まとめ
筆者もこのイベントへ参加したので,実機に触れ,また会場にいた関係者に話を聞いて分かったことを,筆者なりにまとめてみたいと思う。
中身は秘密ながら,“外身”は明らかになったSwitch
最初にお断りしておくと,今回のイベントで任天堂は「プロセッサの理論演算性能が○GFLOPS」とか,「搭載するカスタムTegraで採用するプロセス技術は○nm」といった話を行わなかった。なので筆者は,Switch向けのタイトルを開発中,もしくは開発を検討中のゲーム開発者複数名に聞いて回ったのだが,それによると,
- グラフィックス表現世代はPS4やXbox Oneと同じ
- ただし,PS4やXbox Oneのゲームタイトルをそのままの品質で持ってくることは難しい
とのことである。まあ,このあたりに驚きはないだろう。
そもそも任天堂は,「ニンテンドー ゲームキューブ」を最後に,ゲーム機における「性能競争」から下りてしまったし,公知の事実としてNVIDIAの組み込み機器向けSoC(System-on-a-Chip)「Tegra」をプロセッサとして採用した以上,「絶対性能」ではなく「消費電力対性能比」を重視したことは明かだからだ。
さて,筆者は,かつて「NX」という開発コードネームで呼ばれていたハードウェアにSwitchという名が与えられたときに,「ドック合体時と携帯モード時とで性能が変わるのではないか」と予測したが,それは,「ほぼ」的中した。
ただ,プレゼンテーションの内容を踏まえるに,「ドック合体時」というのは正確ではない。「『TVモード』では」と表現したほうがより正確だろう。
おさらいしておくと,Switchには,
- 専用のワイヤレスゲームパッド「Joy-Con」を本体の左右に取り付けて,モバイルゲーム機のように使う「携帯モード」(Handheld Mode)
- 本体のみを机上に置いて,「Joy-Con」をワイヤレスコントローラとして使う「テーブルモード」(Tabletop Mode)
- 本体を専用ドック「Nintendo Switch Dock」にセットのうえでテレビなど接続し,別途,製品ボックスに付属の「Joy-Conグリップ」にJoy-Conを取り付けた状態で操作する「TVモード」(TV Mode)
と,3つの動作モードがある。
言い換えると,ドック合体時と単体動作時で,Switch本体のハードウェア構成が大きく変わったりはしないのである。
しかし,Switch本体側の液晶パネルに映像を表示させる携帯モードおよびテーブルモードと,テレビなどのディスプレイデバイスと接続したTVモードとでは,ゲームの動作モードが若干変わる。
たとえば,「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」(以下,ゼルダ)の場合,携帯&テーブルモードだとゲームの解像度は1280
これはもちろん,Switch本体側にある6.2インチ液晶パネルの解像度が1280
つまりSwitchは,3つあるどの動作モードでも,ゼルダを1600
確かに,携帯ゲーム機と据え置き型ゲーム機の二面性を持つSwitchで,携帯ゲーム機としてプレイできる時間が短すぎると,そちら側の魅力が低下してしまう。その意味で1280
そう,Switchは携帯ゲーム機として史上初となる,アクティブクーリング機構搭載機なのである。まあ,「Switchは携帯(専用)ゲーム機ではない」ので,「携帯ゲーム機史上」という表現にはケチが付きそうだが。
ドック側にあるHDMI出力端子はフルHDの1920×1080ドット,60Hz(60fps)にまで対応。1600
ネットワーク機能としては,本体側でIEEE 802.11acに対応し,2.4GHz帯(11n相当まで)と5GHz帯の両方を利用できる。有線LAN接続には標準では未対応だが,USB接続タイプの有線LANアダプターは利用できるとのこと。具体的に何が使えるのか聞いてみたところ,「動作保証外だが,Wii Uで使えたものは基本的には使えるはず」とのことだった。Wii Uで使っているものは取っておいたほうがいいだろう。
側面側のUSB端子はUSB 2.0仕様で,当面は各種コントローラの充電もしくはUSB接続型LANアダプター用ということになるが,アーケードスティックやジョイスティックといった特殊コントローラが出てきた場合は,ここへつなぐことになると思われる。「Joy-Conや『Proコントローラー』は充電時にケーブルをつなぐことになるが,そのときもSwitchとの接続はワイヤレスか」と尋ねたところ,展示会場の説明員からは「そのとおり。基本的にUSBケーブルは充電用と聞いている」という返答が得られたこともお伝えしておきたい。
ドック側を利用したデジタルサウンド出力はHDMI経由のみで,光角形などの専用端子は持たない。
スロット関連だと,携帯モードで持ったときの本体上部右側にゲームカードスロットがあり,底面下部右側にはmicroSDXC対応のカードスロットがある。本体内蔵のストレージ容量は32GBで,ここに入らないユーザーデータを保存するためのスロットという使い方になるそうだ。
SIMスロットは持たないため,初期型PlayStation Vitaのような,携帯電話網を使ったインターネット接続には対応しない(※無線LAN経由ではもちろん対応する)。
コントローラにも秘密が満載!?
標準の入力インタフェースであるJoy-Conについては,今回,詳しい機能性が明らかになった。
左側コントローラだけが搭載するものは[キャプチャー]ボタンだ。これはプレイ中のゲーム画面を静止画,もしくは将来的に動画で保存できるようにするための機能ボタンで,簡単に言えば,PlayStation 4の純正ゲームパッド「DUALSHOCK 4」における[シェア]ボタンに相当するものである。
現在のところ,Switchが搭載するTegraの世代は前述のとおり明らかになっていないが,最低でも第2世代Maxwellを統合する「Tegra TX1」のはずだ。それを踏まえてNVIDIAが提供するLinux系ドライバリスト(※リンクをクリックすると,pdfファイルのダウンロードが始まります)をチェックする限り,H.265のエンコードとデコードが行えそうである。
性能面でPlayStation 4やXbox Oneに遅れを取るSwitchだが,ゲーム画面録画ではもしかすると初のH.265採用があるかもしれない。少なくとも,競合と同じH.264対応は確実だろう。
NFC機能は,アナログスティックの周辺あたりにあり,Wii U時代に普及が進んだフィギュア型データストレージ「amiibo」に対応している。
モーションIRカメラは,動きを検出したり,対象までの距離を測定できたりするだけでなく,コントローラの前に出したじゃんけんのグー・チョキ・パーの判別まで行えるという,なかなかに高度なものだ。
例によって任天堂はカメラの解像度など,詳細を明らかにしていないが,見る限りこのモーションIRカメラは,Microsoftの「Kinect」に似た,3D深度センサーになっているようだ。
この3D深度センサーがパターン照射型か,Time of Flight(以下,ToF)型かは不明。一般に「パターン照射型は安価,ToF型は高価」と言われるが,低解像度で照射範囲が狭く,かつ測定距離が短いものであればToF型でもそれほど高価ではない。実際,Kinectの登場以降,3D深度に対応したToF深度センサーの需要は高まっており,Xbox 360の時代にパターン照射型だったKinectのセンサーは,Xbox OneだとToF型になっている。
Joy-Conの左右両方で搭載するユニークな機能としては,「HD振動」も挙げられよう。
HD振動の「HD」は「High Definition」の略で,要するに高解像度ということだ。なのでHD振動は,高解像度な振動という意味になる。
4GamerのCEATEC 2016レポートでも紹介しているとおり,アルプス電気は,いくつかのデモを行っていたのだが,そのうちの1つが,まさに任天堂がJoy-ConのHD振動例として紹介した,グラスに液体を注ぐデモだったのである。
たとえば,160Hzと320Hzの振動が同時に発生したような振動表現を行おうとする場合,錘(おもり)を付けた回転モーターで実装するには,錘の大きさを変えた回転モーター振動子を複数用いる必要がある。Xbox One用のコントローラは周波数の異なる振動表現が可能だったが,まさにこの実装だった。
その点,ハプティックリアクタであれば,1個の振動生成デバイスで複数の周波数の振動を操れる。その点で画期的なのである。
Switchのちょっと未来を今から予測してみる
今回明らかにならなかった情報も,いずれ取材を進めていくことで分かってくるはずだ。
価格は2万9980円(税別)だが,これは2012年に発売されたWii Uのストレージ容量32GBモデルとほぼ同じ。競合だと,PlayStation 4が内蔵HDD容量500GBモデルでその価格である。
Wii Uのときはストレージ容量8GBの廉価モデルがあったので,今回もそういったモデルがあればよかったかもしれない。SwitchはmicroSDカードに対応するため,内蔵ストレージの容量が少なくてもそれほどは困らないからだ。
さて,最後の最後に,発売前から今後の展開を予測する,定番の「アレ」もやっておくとしよう(笑)。
中長期的な展開予測は,連載のバックナンバー「次世代機『Nintendo Switch』についての答え合わせをしつつ,追加でいろいろ想像してみる」でやっているから,本稿では比較的近未来を予測してみたい。
また,携帯&テーブルモードで,TVモードと同等のグラフィックス表現を行っても,十分なバッテリー駆動時間が得られるようになるというのも,夢物語ではない。
また,ドックを持たない携帯モード専用Switch,液晶パネルを持たないTVモード専用Switchといった,安価なバリエーションモデルが設定される可能性もゼロではないだろう。
「本家のコンセプトを否定するモデルが出るはずないでしょ」という指摘はごもっともだが,携帯ゲーム機の世界では「オリジナルのコンセプトを否定するバリエーションモデル」は結構出ているので,でたらめな予測とは言えまい。携帯ゲーム機から携帯機能を省いた「PlayStation Vita TV」や,3D立体視対応ゲーム機から3D立体視を省いた「Nintendo 2DS」が出てくる世界なのだから。
任天堂のSwitch公式情報ページ
(撮影:佐々山薫郁)
- 関連タイトル:
Nintendo Switch本体
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