(クック英提督が豪州初上陸を果たしたエンデバー号のレプリカ。出所はパブリックドメイン画像)
1月14日にはオーストラリアを訪問中の安倍首相とターンブル豪首相との間で首脳会談が開催される予定です。
しかし、「ターンブル氏ってどんな人?」と訊かれても、日本人の多くは答えられず、知名度はさほど高くないので、こういう時でないと、なかなか同氏について知る機会はあまりないのかもしれません。
そこで、今回はターンブル氏の人物像や最近のオーストラリア情勢が分かるニュースなどを紹介してみます。
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オーストラリアのターンブル首相の経歴とは?
オーストラリア自由党を党首として率いるマルコム・ターンブル豪首相は1954年にシドニーで生まれました(62歳、誕生日は10/24)。
シドニー大学では人文科学と法学を学び、その後、オックスフォード大学に留学(法学専攻)しています。
1975年~79年まではジャーナリストを務め、80年以降は弁護士として働きました(88年頃まで)。
企業経営にも携わり、ターンブル&パートナーズ社社長(87~97年)、オズeメール社会長(94~99年)、FTRホールディングス社取締役(95~04年)ゴールドマン・サックス・オーストラリア会長兼社長(97~01年)、ゴールドマン・サックス社パートナー(98~01年)と手広く活躍しています。
(※企業経営や投資等を通じて自力で1億3300万ドルの財産を築いたとも報じられている)
豪新首相にターンブル氏、財産1569億ウォンの大富豪
http://japanese.donga.com/List/3/all/27/429392/1
政治家になる前は弁護士や投資に関わる企業経営をしていたわけです。
そして、2004年の10月に、シドニー東部のウェントワース選挙区にて下院議員(オーストラリア自由党)に選ばれます(その後、07年、10年、13年の三回の選挙で再選)。
第4次ハワード内閣では環境・水資源を担当し、首相付政務次官(06年1月~)、環境・水資源大臣(07年1月~)を務めました。
自由党が下野した後、財務や通信・ブロードバンド等を担当し、08年~09年には党首を務めていました(09年にアボット前首相に党首選で敗北)。
現政権では通信大臣(13年~15年)を務め、15年にアボット首相の支持率が下がると、ターンブルはアボット首相に退陣を迫り、党首選挙の実施を要求しました。
15年には中国を震源とした世界的な不況により、資源を中国に輸出したオーストラリアは打撃を受け、アボット首相の支持率が低下し、ターンブル氏にとって替わられたのです。
16年9月の選挙では54対44で勝利し、自由党党首となり、同月15日に首相がターンブル氏に交代しました。これはアボット首相との信頼関係を深めてきた安倍首相にとってはショッキングな出来事だったのです。
リベラル派の政治家・ターンブル氏
保守政党の党首を率いながらも、ターンブル氏はリベラル派です。
アボット前首相が復活させた「ナイト」と「デイム」の称号を時代遅れと見なして授与廃止を表明。同性婚支持や、オーストラリアの英連邦脱退(女王のいない共和制への移行)等を主張しています。
特に共和政論は若い頃からの持論で、昨年12月17には、超党派のロビー活動の集会で「オーストラリア共和制推進運動(ARM)の大義はオーストラリアのための大義だ」と主張し、エリザベス女王死後の共和政移行を訴えたことが報じられています(AFP通信「豪で君主制廃止論再燃? 首相「女王退位後に共和制移行を」2016/12/19)
※この記事によればオーストラリア人1400人のうち51%が現状維持を希望、共和制移行を支持したのは42%。
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オーストラリアの親中外交の行方
各紙ではターンブル氏は親中派として報じられています。
中国との貿易が緊密なオーストラリアでは反中外交は取りがたいのですが、前任者のアボット首相は中国と自由貿易協定を結びながらも、南シナ海問題では日米と連携し、安倍首相と同じく「法の支配」を訴えていました。
一方、ターンブル氏は戦後70年の講演で、中国をオーストラリアと共に日本と戦った同盟者と位置付けたり、日本からの潜水艦購入を見送る(フランスからの購入に決定)など、中国寄りの動きが見られます。
2016年4月14~15日には1000人の随行団を率いての大規模訪中も行われました。
(フォーサイト「初訪中に『1000人随行団』:豪ターンブル政権の危うい『親中』姿勢」村上政俊 2016年4月21日)
(ターンブル首相は)「G20サミットに出席見込みであるにもかかわらず、それから約5カ月前にわざわざ首相就任後初となる訪中を敢行。外交上、国際会議出席による相手国訪問と2国間訪問では、後者が格上とされることから、今回の訪中で中国重視を打ち出した。また、約1000人の企業関係者が随行し、同政権の経済重視の姿勢が示された格好だ」
(オーストラリアの)「ダーウィン港の、中国企業への「租借」が決まったこともあり、安全保障上の不安が懸念される」
「2015年10月、北部準州(Northern Territory)政府は、商業用港湾施設の99年間の使用権を、山東省に本拠を置く「嵐橋集団」に約5億豪ドルで与えた。創業者である葉成は、兪正声(中国共産党序列4位)が主席を務める中国人民政治協商会議全国委員会の委員で、ダーウィンへの投資は、習近平が打ち出している「一帯一路」の一環であるとしている」
日本で言えば、民主党への政権交代直後の小沢訪中団によく似た行脚が行われています。
オーストラリアではハワード首相⇒ラッド首相、アボット首相⇒ターンブル首相と、日米寄りと親中派の首相がたびたび交替しています。
同国の主たる資源輸出先が中国であるため、オーストラリアは親中派が根強いため、日米寄り外交が続かないのが現状のようです。
16年2月~3月の世論調査では、オーストラリア国民の親中度の高さが産経ニュースでも報じられていました(「アジアの親友は?」に中国トップ 豪の世論調査、若年層ほど親近感 「親中」鮮明に 日本は2位 2016.6.28)。
ローウィ国際政策研究所(シドニー)が2月26日~3月15日、18歳以上の1202人を対象に電話で実施し、(※世論調査の結果を)21日に発表した。
今回「親友」の3位はインドネシア(15%)、4位はシンガポール(12%)、5位はインド(6%)、6位は韓国(4%)だった。
もっとも「友好的な感情を抱く国」との調査では、日本の数値は70で10年前調査と比較すると6ポイント上昇。米国(68、同6ポイント上昇)、中国(58、同3ポイント下落)よりも高かった。
そして、国内の人口比率でも、中華系の比率が4%を超えたことが報じられていました(「人口の4%、高まる中華系の影響力 “強圧”中国政府との距離感悩ましく 対中依存の経済「転換が必要」とも」2016.7.1)
豪州は経済の中国依存に加え、国内の政治面でも中華系住民の影響力の拡大に直面している。中華系は2011年の推計で86万人(豪州生まれ含む)、人口の約4%を占め、現在は100万人を超すとの見方もある。
豪州の華人は必ずしも中国本土の共産党政権の政治路線を支持しているわけではないのですが、中国の影響力が強いのは事実です。
ターンブル訪日時の首脳会談の結果は?
ターンブル首相と安倍首相は何度か首脳会談を行っていますが、ターンブル首相は就任した15年の終わり頃に訪日しました。
その内容が外務省HP記事(「日豪首脳会談」平成27年12月18日)に報じられています。
経済分野では日豪EPAやTPP等を踏まえた経済の絆を強化やイノベーション分野でも協力深化、安全保障分野での共通の価値観と利益に基づく日豪協力を強化がうたわれ、豪州潜水艦計画への日本の協力に関しても意見交換が行われたのです。
しかし、結局は日本からの潜水艦採用はなく、2016年には米国のTPP脱退も固まったので、この合意の目玉となる二つの項目は、事実上、消滅しています。
アメリカのTPP脱退に伴い、トランプ当選後、米豪関係にも大きな変化が生じる可能性もあります。
安倍・ターンブル会談では、トランプ政権成立対策を共に考える場になるのかもしれません。
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