台湾海峡をめぐる情勢がこのところ不穏である。

 昨年から中国と台湾との関係はやや緊張していた。台湾を不可分の領土とする中国に対し、独立志向を持つ蔡英文(ツァイインウェン)・民進党政権が台湾で発足したためだ。

 そこへ今度は、米国の政権交代という要因が加わった。トランプ次期米大統領は12月初めに蔡総統との電話会談という異例の行動に踏み切っただけでなく、台湾をめぐる中国の立場そのものに疑問を投げかけた。

 この時期に中国軍が南シナ海で米軍の無人潜水機を捕獲する騒動もおきた。年明けには中国の空母「遼寧」が台湾をぐるりと回るように航行した。

 中台関係は、重大な危機を招きかねない問題である。ことさら波風を立てるのは、誰の利益にもならない。どの当事者も、緊張を高めないよう冷静な行動をとるべきである。

 米国は中国との間で、安全保障に加え、自由と民主主義という基本理念でも潜在的な対立関係がある。台湾向けには武器の供給を続けている。その一方で米国は中国との間で、貿易と投資で強い補完関係にもある。

 そんな矛盾はあっても、互いに刺激せぬよう慎重に行動し、安定を図るのが、米中間で曲折を経ながら築かれてきた外交の作法だ。その理解がトランプ氏には欠けているようにみえる。

 過去の米政権では、発足時は中国に強硬な姿勢をみせつつ、途中から関係重視に転じることが繰り返されてきた。今回も、米中間のゲームに台湾が振り回されることになりかねない。

 米国の出方次第で中国も対抗策をとる。その矛先は米国よりも、台湾へと向かいがちだ。昨年末にアフリカのサントメ・プリンシペが台湾と断交し、中国と国交を結んだのはその一環と受け止められている。

 「遼寧」は米空母と比べれば性能がはるかに劣るうえ、戦闘機の発着艦が満足にできるか疑問視されている。それでも台湾社会には一定の威圧効果を与えた。習近平(シーチンピン)政権が台湾に向けて「同胞」と呼びかけながら、脅しに及ぶ行動は理解に苦しむ。

 台湾自身も、中国から距離を置く台湾意識の高まりと、経済上の密接な対中関係という矛盾を抱え、現状維持のほかに当面の選択肢はない。蔡政権もそれを踏まえている。蔡総統は昨年5月の就任以降、抑制的な行動を続けてきたと言える。

 中台問題は、すぐに答えが見いだせない。双方の話し合いが平和的に進むよう望みつつ、関係各国は安定を守る努力を続けるほかない。