机上の○論

ブックレビュー、血統評論、考え事など


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タイトルについては方々でいわれてるので触れなくて良いだろう。日本を代表する法哲学者井上達夫によるインタビュー形式の書物である。全体を貫いているのは、「リベラル」に対する憤りと、泰斗ジョン・ロールズに対する批判であるが、まず、今触れるべきはやはり安保関連の話であろう。
井上は、九条削除論を主張している。一見すると改憲よりもさらにラディカルなのではないかとギョッとするが、門下の一人である谷口功一も触れているように
、その論理は筋の通ったものである。というより、敢えて議論を徹底させれば、行きつかざるを得ない結論というところだろうか。すなわち、自衛隊と安保は違憲だとする「原理主義的護憲派」も、専守防衛の範囲なら自衛隊と安保は違憲でないという「修正主義的護憲派」も、それぞれ矛盾を抱えてると指摘し、前者については、「利益を享受していながら、認知せずその正当性を認めない。私に言わせれば、これは右とか左とかに関係なく、許されない欺瞞です」(50頁)といい、後者については、「『専守防衛の範囲なら』云々の内閣法制局見解は、すでに解釈改憲ですよ。だから、護憲派が一時期、安倍政権による解釈改憲から内閣法制局が憲法を守ったなんて言っていたけど、これはウソで、新しい解釈改憲から古い解釈改憲を守ったにすぎない」(48頁)と論じている。そうした上で、「安全保障の問題も通常の民主的な討議の場で争われるべきです」(53頁)という考えから、九条削除を主張している。
私も、九条削除が最善策であるのかは別として、九条の文言には違和感を覚えている。井上は、九条で問題になるのは、「絶対平和主義」と「消極的正戦論」だとしており、井上の立場は「消極的正戦論」にあるという。私自身もこの立場なのだが、実際の九条は、素直に読めば「絶対平和主義」にしか読めない。しかし、これを文字通りに受け止めるのは困難がある。「原理主義的護憲派」すらもそう受け取っていないはずである。
もちろん、一部には、森永卓郎あたりも主張していたように思うが、これを文字通りに受け取り、文字通りの「絶対平和主義」を貫こうとする意見もある。しかしながら、こうした主張は、一見「リベラル」に思えるかもしれないが、実際のところはそうではない。というのも、たとえば、どことはいわないが、自由を抑圧する国家が日本を侵略したとして(その可能性が現実にそれほど高いとも思わないが)、それに抵抗しなかったならば、その抑圧的国家は自国民よりもさらに抑圧的な体制を日本に敷くだろう。それでは現在日本が享受しており、「リベラル」が最重要視している多くの価値が失われるに違いない。そもそも、侵略の過程で多くの人命も失われるだろう。それに対して「絶対平和主義」の国たれとして抵抗を放棄させるというのは、価値観の強制による最大の権利侵害ではないだろうか。
こうした私の認識と共通しているのかはよく分からないが、やはり井上も本当に「絶対平和主義」を貫く人がいるならば尊敬に値するが、「しかし、それは普通の人には背負えない、過度に重い道徳的責務です」(64頁)とし、「日本国憲法は、字句どおりに読めば、この普通の人が負いきれない責務を集団で選んだようになっているから、その部分は削除されるべきだ、と私は言っている」(同)と主張している。その上で、タダ乗りを許さない徴兵制と良心的拒否権を併用するべきだとしている。これは欺瞞を直視した整合的な見解であるように思われる。
ちなみに、断っておくが、私は、安倍首相含め、立憲主義の原則を分かっているようには思えない自民党の憲法に対する理解そのものについては大いに疑問を抱いている
ロールズ批判については、私は、井上が、いわゆるロールズの「政治的リベラリズム」以降の「転向」について批判的なのだと思っていたが(これについては当然
「驚くべき後退を見せている」(153頁)とも言っているが)、それより以前の段階ですでに批判的であったという。それは、たとえば、「格差原理」や「善に対する正義の優位」の観念の混乱などにあったとし、「いちばん大きいのは、『正義概念』をめぐっての違いです。私は『正義概念』を非常に重視する。しかしロールズは、そうでもないわけです」(98頁)と言っている。ロールズが「正義概念」を重視していないというのは意外だが、それは、「正義の諸構想」の比較を原理的な規律をもって行わないからだという。
サンデルに対する見方は同感である。サンデルは最早リベラリズムの陣営にいる。菊池理夫『共通善の政治学』(勁草書房)などを読んでも強く感じられたことだが、いわゆるコミュニタリアンに分類される論者は、自身が抑圧的な主張をしているのではないと強調する。そして、どんどんとリベラリズムとの差異が分からなくなっていくのである。井上も、後期のロールズがリベラリズム的観点からサンデルによって批判されたことについて、「私自身、何度も言うように、ロールズの『政治的リベラリズム』の欺瞞性にものすごく腹が立っていたわけだけれど、それに対する批判が、サンデルから来るとは予想していなかった。私は、もうその段階からサンデルはリベラル化したと思っている」(142頁)とも言っている。つまり、ロールズは、「転向」によってある意味コミュニタリアン化し、サンデルは、ロールズ批判においてリベラル化したということになる。一般にロールズの「転向」にのみ焦点が当たるのが普通のため、ロールズとサンデルの双方が入れ違いになっているような見方は、言われてみればという感がある。

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