オバマ米大統領は今週、後任のドナルド・トランプ氏に向け、捨てゼリフを発した。トランプ氏は「神が創造した最も偉大な雇用創出者になる」と宣言したが、その前日、オバマ氏はまるで(シェークスピアの「マクベス」にある「宴席に現れた亡霊」よろしく)、トランプ発言に水をかけるかのように、「容赦ない自動化のペースが多くの仕事を時代遅れにするであろう」と警告したのだ。
両者の主張が共に正しかったと証明されることもあり得る。自動化は過去数十年の間、不変のできごとであり、最近のロボット工学や人工知能(AI)の進歩から、このペースは今後も加速し続けるといえよう。だが、タイミングが全てだ。政治家と同様に、企業やその投資家にとってもカギを握るのは「(自動化を)行うか否か」ではなく、「いつ行うか」だ。
社会全般にとって、自動化のペースを決めるのは、失職した労働者の受け皿が容易に見つかるかや、さらに政治的な反発が起きるかどうかだ。このペースは、最新型のロボットやスマート機器を世に出そうとする企業やその投資家にとっても同様に重要だ。米グーグルの親会社のアルファベットのように、無人運転車などの技術の開発に長期的視野で臨む企業はあまりない。ただ、同社でさえも最近は、「月探査ロケットの打ち上げ」にも比肩しうる壮大なプロジェクトが黒字化するのか、焦りを感じ始めている。
自動化の普及率を左右する変数は大きい。米コンサルタント会社のマッキンゼーは、今週発表した自動化に関する最新の報告書で、職場で人々が行う全ての作業の半分は、実証済みの技術を用いて自動化することが可能だとしている。だが、リポートは実現に至る時間についてのヒントは与えていない。
同社は、規制や、企業の業務工程の移行能力などのあらゆる不確定要素を考慮すると、実現にかかる時間は20年とも60年ともいえるとしている。この可変要因の大きさで投資モデルを考えてみる。自律走行車・トラックの例で見てみよう。必要な技術の多くは既に実証済みで、自動車市場にとっても技術の供給企業にとっても潜在市場は巨大だ。だが、それが大きな市場に成長するまでにかかるのは5年か10年か、それとも30年か。
自動車企業は既に、何億ドルもの資金を無人運転車作りに費やしている。今月開催の世界最大の家電見本市「CES」やデトロイトの「北米国際自動車ショー」で、無人運転技術は実験段階を脱したことが明らかになった。現在、自動車メーカーは、先を競って実用化に向けた取り組みを行っている。大手企業はこれにかかるコストを量産でならして償却することが可能だが、自動車の技術水準がますます高まる中、大手以外の企業は苦戦を強いられるだろう。