魔法少女リリカルなのは 原初の勇者   作:黒色狼
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今回で103航空隊編は終了です。
次回からstsに入りたいと思っています。


第13話





その瞬間、ユウは止まった。
なのはが必死になり無意識のうちにそう呼んでいたのだろう。
優くん、それは昔なのはがまだ優の事について記憶がある頃に呼んでいた呼び名だ。
ユウ自身なのはにそう呼ばれる事を嬉しく思い初めて名前で呼ばれた時を今のように思い出せる。恥ずかしがりながらも満面の笑みで輝かしい太陽にも負けないその笑顔で自分の名前を呼ぶなのは。

一緒に暮らして、一緒にご飯を食べ、一緒に悩んで、一緒に寝たり、一緒に戦って本当にあの頃は常に一緒だった。
そんななのはの笑顔が自分は一番大好きで守りたいと思った。しかし今はどうだ?
なのはは泣いている、何故?それは自分が無茶をしているからだ。
守りたい笑顔を壊しているのはいつも自分だ。だから自分の記憶を消し影から守ろうとした、けど結局このザマだ。

「なの、は。ごめん、泣かないでくれ。これ以上無茶はしない約束する」

「ほん、とう?無茶しない?」

「ああ、ごめんよ」

啜り泣くなのはの頭を撫で宥めるユウ。
本当は人の前で使いたくなかったがそうも言ってられない。
此処でユウはもう一つの嫌う魔法、時間制御の魔法を使う。

時間制御、もちろん時間を止める事も出来るがその間は他のものには干渉出来なくなるデメリットがある。


しかしそれを使わないのは1つに時間を操ってるとバレると面倒だからだ。もはやロストロギア扱いされまた試験管生活を送る事になるやももしれないのだから。

2つ目は運命魔法と同じでこの魔法が嫌いだからだ。この魔法の所為で人生が滅茶苦茶になり本当にピンチになった時ぐらいしか使わない。それにこの二つの魔法を使うには己に掛けているリミッターも外さなければならない、その影響でユウの目はリミッターを掛けると両目は黒色だが外すと右目が翠色になる、しかしユウ自身その目の色を嫌っておりいつもはリミッターを掛け隠している。

そして今回使ったのが時間の巻き戻し。
そう傷付く前の自分の身体に巻き戻すのだ、ユウの身体が光に包まれると同時にみるみる傷が塞がっていく。

在ろう事か傷は完全に塞がり今のユウは戦闘を開始する前の状態へと戻っていた。
なのははいきなりユウが光に包まれたと思うと傷が無くなっているのだからそれは驚いたがユウが死ぬかもと不安だったのだろう、一時期落ち着いていたが再びユウに抱き着き泣き出した。
シュバルツはそんなユウを見て口元を吊り上げさぞ嬉しそうに笑う。しかし、

「……此処からいい所だというのにすまないが時間の様だ、我は帰らせて貰おう」


本当に残念そうにシュバルツはそう言って近くの研究施設に向かって飛んでいく。
残念そうにしている所を見るにスカリエッティから呼ばれたのだろうか?
ユウは追いかけようとするがなのはが離してくれない。

「なのは、シュバルツが逃げる。追いかけないと!」

「またユウが傷付く所なんて見たくないよ!それにまた傷が開くかもしれないし…」

[大丈夫です、向かいながら私が回復魔法を施しておきます。ですので安心して下さい]

もちろん嘘だ、デュナミス単体では回復魔法は愚か簡単な砲撃すら出来ない。
これはなのはを安心させる為の嘘だ。それに傷は完全に塞がっているので回復魔法は必要ない。
なのははユウが回復魔法で治療しただけだと思っているようだ。

「…分かった、けど私も付いていくから」

「…うん、けど僕からあまり離れないでくれ」

本当は戻って欲しいがなのはがこのまま引き下がるとも思えないので仕方なく一緒に行く事にする。
危険があったとしても守ればいいだけの事なのだから。






















ウミリアの荒野の奥に隠されていた研究施設。
此処はジェイル スカリエッティの違法研究施設でユウ達が中に入り奥に進んで行くと至る所に機械があり試験管などもたくさんある。
何の研究施設かは全く分からないが良からぬ研究をしている事は間違いないだろう。
更に奥に進むと開けた場所に出た其処には大きな試験管があり中には…

「これは…ユウ?」

「その通りだ、しかしどれも失敗作だがね」

なのはがそう独り言のように呟くと奥からスカリエッティが姿を現しそう答えた。
その幾つかの試験管の中にいる者はユウそっくりだったのだ。どうやら此処ではユウのクローンの実験をしているようだ。
自分そっくりの実験体が周りに溢れているのでユウは余り良い気分ではない。

「何度やっても上手くいかなくてね、是非ともオリジナルの君のサンプルが欲しかったのだがシュバルツは失敗したようだ」

「本当に良い趣味してるよ、けどもう逃げられない。観念するんだね」

「フフフ、それはどうかな?」

すると突然入ってきた扉が閉まり周りから大量のガジェットが出てくる。

「くっ!しまった!」

「既に此処の自爆システムが作動している、後3分もすれば吹き飛ぶだろう」

「自分諸共吹き飛ばすつもりか!」

「いや、私は既に此処にはいない。この姿は精巧なホログラムにしか過ぎない」

「ユウ!本当にホログラムみたいだよ!」

どうやらシュバルツが此処に逃げ込んだのはスカリエッティと一緒に先に脱出する為だったようだ。
してやられてしまったユウ達、結界が張られ転移も使えない。そして周りのガジェット達がAMFを張り魔法もろくに使えもしない。絶体絶命とはこの事だ。

「ああ、それと生命の湧き水は其処に置いておいた。それが無ければ事実上ウミリアは滅ぶだろうね」

「なんだって!くそ!」

タチの悪い事に生命の湧き水も此処に置いてあり自分たちと一緒に吹き飛ばすつもりのようだ。

「君が吹き飛んでくれるとこっちの研究も進むからね。それじゃあ」

そう言ってホログラムは消えた。
その途端、ガジェット達がこっちを攻撃してくる。
この強力なAMFの中ではなのはは何も出来ない。ユウが手に持つ二刀のデュナミスで飛んでくる魔力弾を全て斬り伏せるが数が多過ぎる。

「なのは!君だけでも僕が外に出す!生命の湧き水を持って外に出すから後は頼む!」

「そんな事が出来るの⁉︎けどユウはどうするの⁉︎」

「どうやら此処に誰か残っていないとウミリアの首都が吹き飛ぶようにプログラミングされている。本当に抜け目がないやつだよ」

「そんな…」

本当に抜け目がないスカリエッティは誰かが此処に残っていないとウミリアの首都に仕掛けられた爆弾が爆発するようにされているようだ。モニターにそう表示されている以上無視は出来ない。

しかしどうやってなのはを外に出すか、AMFと外の結界は確かに魔法と転移を妨げる。しかしそれは完全ではない。
AMFはAAAランク以上の魔法なら貫通するし、結界もユウが全力で魔法陣を展開して座標を合わせれば転移は出来るのだ。
まずユウは力を解放する、そう想いを力にするアベルの力を。


突然ユウの魔力が跳ね上がる、Sどころでは無いSSすら軽く凌駕するであろう量だ。
ユウから魔力が目に見える程溢れ辺りは翠色の粒子が大量に浮んでいる。
するとユウの身体は光に包まれる、その光が晴れると白と翠のラインが所々に入り黒を基調としたロングコート、所々に騎士甲冑のようなものをプロテクターのように身に纏ったユウが姿を現した。
周りに溢れる翠の粒子はユウの背中に集まり翼の形になる。
その姿は語り継がれるアベルの姿そのものだった。しかし気が動転しているなのははその事には気が付かない。

「来て、僕の『全てを守る想い』!」

ユウの手の中が光輝き、光が晴れるとその手には剣が握られていた。
見るものを魅了する、その刀身は半透明で全体的に青白い剣。
全て守る想い、それがこの剣の名前。ユウの想いを象った剣だ。

「なのは、今から君をウミリアの僕の部屋に飛ばす。それから部隊長にこの事を報告してくれ」

「け、けどユウは…」

「僕は此処から出れそうもない…」

「嫌だよぉ、なら私ものこ…」

「それは駄目だ!」

なのはが自分も残ると言いだしそうだったのでユウが怒鳴った。

「僕はね、なのはに生きてて欲しい。君は必ず幸せになる。出来る事なら……僕もなのはの側に居たかったよ」

「そんなの駄目だよ!ユウが居ないと私……」

「時間だ!今までありがとう、さよなら…」

「優くん!」

涙で顔をぐちょくちょにしながらユウの名前を叫びながら転移していくなのはを見届けたユウ。
これで良かったのだと自分を言い聞かせる。

[本当にこれで良かったんですか?貴方なら…]

「いいんだ、やっぱりなのはは僕と関わらない方がいい。記憶も徐々に戻りつつあったし此処らが潮時だよ。さて、爆発する前にひと暴れするよ、デュナミス」

[私は何処までも貴方について行きますよ]

爆発まで残り1分、その場に蔓延るガジェットを破壊する為にユウは右手に己の想いを、左手にデュナミスを持ち走り出した。
















こうしてウミリアの事件は終りを迎えた。
無事に首都の爆発も解除され生命の湧き水も取り戻した。
経緯はどうであれ関与していたセネゲル王は罪に問われたがこれで終わったのだ。




行方不明者 一人 103航空隊 副部隊長 ユウ レグラス。


彼を除いて全て無事にこの事件は解決された。



ユウは何度もピンチになりましたが全力は全く出しておりません。

全力を出すとサイタマ先生みたいにシュバルツなんてワンパンです←