魔法少女リリカルなのは 原初の勇者   作:黒色狼
<< 前の話 次の話 >>

21 / 30
前半部はキャロの過去話です、後半は…


第6話






キャロは第6管理世界アルザス地方の少数民族「ル・ルシエ」の出身だ。
6歳にしてその竜召喚士としての才能を持て余す事なく発揮していたのだが、強い力は災いを呼ぶ、そんな理由でキャロは部族を追放されるという辛い過去を持つ。

右も左も分からない外の世界、歩いて街に出て来たのは良いが如何すればいいか分からない。途方に暮れ当てもなく目的もなくただ歩いていた。
よそ見をしていたからだろうか、何も落ちていない道の真ん中で転けてしまう、しかし通り過ぎる者は誰一人声を掛けようとしなければ手も差し伸べてくれない。
何でこんな目に遭っているのだろうか、自分が何かしただろうか?そう考えると自然と目元が熱くなり雫が頬を伝い流れ落ちる。



「うう……私…私…」

「どうしたんだい?大丈夫、立てる?」



そんな時だった、レン クルーガーと出会ったのは。

フードを深く被り顔には目元を覆い隠したマスクをし表情は読み取れなかった。普通に見ればただの不審者だろう、しかしキャロはその男の目をしっかりと見ていた。
真っ黒で何処までも深い黒い瞳、しかしその瞳の奥に見え隠れする暖かい光を。

[レン、この格好では変質者ですよ。この子も怖がってます]

「うっ、それもそうだね……さぁ、立てる?」

デバイスにそう言われ自覚があったのか少し怯んだ様子の男だったが直ぐにフードを取りマスクを外し、笑顔でそう言い手を差し伸べて来た。

今のキャロは飢えていた、愛情や優しさというものに。そしてキャロはその男の手を取る。
その男の優しさが伝わって来る笑顔、そして差し伸べてられる手から伝わって来る心地よい暖かさ、キャロはもう我慢の限界だった。

「ぐすっ、うえぇぇ〜〜〜〜ーーん」

「えっ?ちょっと!大丈夫だから、ほら泣かないで⁉︎」

そう言ってキャロを包み込むように抱き、頭を撫でて来る。
心地よい暖かさとその優しさが身体全身を包み込むが今のキャロにそれは逆効果で更に涙は溢れてくる。

[はぁ、泣かしましたね。変人に絡まれたらそりゃ怖いですよね]

「ちょっ、レイ!お前って奴は!」

これがキャロとレン クルーガーの出会い。










それからはレンと名乗る男の元で暮らすこととなってからは本当に充実していた。
傭兵の仕事で基本的に忙しいレン、必然的に使い魔であるリニスもその事務的な処理や仕事の手伝いなので忙しかったが時間が空いている時はずっとキャロと一緒にいた。

時には一緒に街を出歩き

時には魔法を教わり

時には一緒に寝たりもしていた。

あまり多くの時間は一緒にいれなかったがそれでもキャロは幸せを感じていた。
長い間一人の時は寂しかったがレンが戻って来るとそんな間の事なんて忘れてしまう程に嬉しかった。

そんなある日の事だ。

「キャロはさぁ、此れからどうしたい?」

「えっ?どうしたいってどういう事?」

「キャロは何かやりたい事なんかは無いのかなって事だよ」

「う〜ん、私は…」

そんな事は考えた事も無かった。正直このままの生活がずっと続いて欲しいと思っている。そう言おうとすると、

「実はね、僕は此れから長い間此処を離れて仕事をしないといけなくなったんだ。多分、その仕事が終わっても遠征の仕事は続くと思う。だから…キャロ、君を別のところに預けようと思うんだ」

一瞬何を言われたのか分からなかった、しかし徐々に理解し始めたキャロの目元からは涙がこぼれ落ちる。
折角手に入れた自分の幸せ、レンの暖かさや優しさにもう触れられないと思うと自然と涙が溢れてくる。

「キャロ泣かないで、何も一生会えないわけじゃ無い。それに僕にはやらなくちゃなら無い事があるだ…」

レンはそう言うが嫌なものは嫌なのだ、しかしレンの言葉は続く

「僕は…守りたいんだ、守らなくちゃならないんだ、大切な人やこの世界を。何処かに苦しんでる人がいるかも知れない、キャロの様に救いを求めて手を差し伸べてくれるのを待ってる人がいるかも知れない…そんな人や世界を僕は守りたいんだ」

そう笑顔で微笑み掛けてくるレン。
その笑顔は何処か辛そうで無理をしているような顔だった。まるで自分がやらなければならない運命で使命であるかのように。
それでも心の底から守りたいと思っているのだろう、そんな顔をしているにも関わらず瞳の奥にはその優しい光が見える。

自分はレンに救って貰い十分その暖かさに触れてきた。
しかしその暖かさは自分だけの物ではない、レンは全てを守ろうと、救おうとしている。自分の事なんて構いもせずに。
だがそれでもレンは守り救う事を止めない、その暖かさと優しさを振りまく事をやめない。

キャロは思う、ならレンは誰に救われれば良いのだろうか?

(私のやりたい事……)



「私…やりたい事が見つかりました…」

「本当?何をしたいんだい?」

「それは…秘密ですよ」

さっきまで泣いていたキャロだが涙を拭き満面の笑みでそう言う。
えー、なんでだよとレンは文句を言うがキャロは秘密ですとしか言わない。

(私も…守りたいです、大切な人や救いを求めている人達を…)

小さな少女はそんな大きな目標を胸に掲げレンに笑いかけるのだった。


















「どうしてこうなった…」

[それは貴方の自業自得です]


此処は機動六課の食堂、訓練が終わり皆んなで晩ご飯を食べているのだがレンの右側に座る栗色の長い髪をツーサイドアップにした女の子と、その逆サイドに座る小さなピンク色の髪の女の子からただらぬ威圧感を感じる。
その小さなピンク色の髪の女の子が使役する竜は丸くなりいつもと雰囲気が違う主人に怯えている。

「レンさん、こっちのハンバーグ美味しいですよ。はい、あ〜ん」

「レンさんはこっちのミートスパゲッティの方が好きだよね?」

そう言って口元にそれらを近付けてくる両者。
レンは両腕をがっちりとホールドされており柔らかい感触が腕に伝わりそれどころではないのだが二人はそんなレンにお構いなしにぐいぐいと押し付け合うように迫ってくる。

「キャロ?レンさんと一緒にいるのは明日の1日だけだったんじゃないの?」

「お願いしたのは明日の1日ですが、今日一緒にご飯を食べたらいけないんですか?」

目線だけでガジェットを破壊できるんではないかという程の威圧感が二人にはある。
リラックス空間である食堂はそんな二人によって戦場と化していた。

《なのはさんは予想が付いてたけどまさかキャロがねぇ…》

《あの大人しいキャロが此処まで…レンさんは一体何したんだろうね?》

そう念話で会話するティアナとスバル。普段は大人しくて天然なあのキャロが隊長でも上官でも年上でもある相手に引くどころか攻めているのだから驚くのも無理もない。

「みんな、こんな所におったんか……ってどない状況なんやこれは…」

「えっと…なのはと……キャロだよね?」

其処に来たのは、はやてとフェイトだ。その戦場と化した食堂で繰り広げられている光景に唖然としていた。
特に驚いたのはあのキャロの変貌具合だ、大人しさなんて見る影もない今のキャロは背後にメラメラと燃え上がる炎すら連想させる勢いだった。

《はやて部隊長にフェイト!お願いだから助けてくれ!》

《…ごめんなぁ、私はまだ死にたくないんや…》

《えっと…頑張って?》

どうやら助けは来ないらしい。
はやてとフェイトは回れ右をし食堂から出て行ってしまう、それに続き続々と食堂から姿を消していき残されたのはレン、キャロ、なのはだけとなった。

『レンさん?どっちを食べるんですか?』

そう確実に獲物を仕留めるかの様な顔をしてレンに聞いてくる二人。
どちらを取ろうと待っている結末は一緒だろう。チカチカ光るこの場を楽しんでいるであろうレイは、後でプレシアさんに預けるとしてこの場をどうして切り抜けるか全力で考えるレン。

どちらの選択肢も結末は同じで見えている、ならば新たな選択肢を見つけるしかない。
考えるんだ、考えるんだ、僕はアベルだろうと自分を叱咤するレン。
そして閃く、この間僅か0.3秒。無駄に発揮される高スペックさである。

「えっと、君たちの様な可愛い子からそんな風にされると照れるけど折角だから両方食べるよ」

そうレンが選んだ選択肢は両方食べるという一見ヘタレさ全力全開な選択肢だが褒める事で誤魔化そうという作戦だ。

ボンッと二人の頭から何か聞こえたような気がした。

ヘタレスキルと鈍感スキルが同時に発動し如何にかこの場を切り抜けたレンだが明日は生きていけるのだろうか、とそんな事を思いながら食べさせられ続けるのであった。



書いてて思った、キャロがヒロインしてると…

しかしこの作品のヒロインはなのはなのでお間違えなくw