魔法少女リリカルなのは 原初の勇者 作:黒色狼
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第7話高町なのはにとってレン クルーガーとはどんな存在なのだろうか?
ふとなのはは自問自答する。
別に昔からの面識がある訳でもなくニュースや世間一般的に知られているような事しかレンについても知らない。
けど何でだろうか、昔からレンの事を知っている様に思う事が多々ある。雰囲気や言動に関してもそうだが一番は己の心に感じる懐かしさと暖かさだ。
レンに近付いたり触れる度に伝わってくる懐かしい暖かさと優しさ。
自分は昔にもこの感覚を味わった事がある、そう思うのだがいつだったかが全く思い出せない。
そして高町なのはは、レン クルーガーの事が好きなのかと言われると自分でも良く分からない。
けど昨日キャロが訓練を終えた後にレンに抱き着いたのを見て胸にチクっと痛みを感じた。何故か無性に苛々してしまう気持ち、気が付いたら自分も違う方の腕に抱き着いていた。
この胸の痛みを感じたり、苛々したのは一度や二度ではない。
初めて新人達と顔合わせしてキャロが飛び付いた時、ティアナに向かって笑顔で語り掛けるレンを見た時、フェイトと互いに知った中でフェイトが自分の知らないレンを知っていると知った時、数えるときりがない。
あの自分の部屋であった出来事以来、レンを見るとドキドキしてしまう。
訓練が始まると集中して忘れる事が出来るがそれ以外の時は顔を直接見る事なんて出来ない。
事故でしてしまったキス、自分は当然初めてだった。けど不思議と嫌ではなかった。
それどころか心の中では初めてがレンで良かったと満たされているのを感じたのだ。何故そう思ったのかは自分でも分からない。
キャロがレンに1日一緒に居てと言った時、心の底から嫌だと思った。
このままキャロにレンが取られると思うと何とも言えない気持ちになる。
最近、本当に自分の気持ちが分からなくなる事が良くあるのだ。
けど分かる事が一つある、このままキャロの好きにさせてはいけないという事だ。
「キャロ、それじゃレンさんが歩きにくいんじゃないかな?」
「なのはさんこそ、それではレンさんの邪魔になるんじゃないですか?」
今三人は機動六課の廊下を歩いている、もちろん訓練をしにシュミレーターの場所に行く為だ。
真ん中にいるのは微妙な顔をしたレン、その両腕には美少女二人が抱き着いている。
さぞ世間の男達がこの光景を見ると、リア充爆発しろと言いたくなる場面だ。
しかしこの一触即発の雰囲気、軽く小動物なら息の根を止めてしまいかねない。
「フリードが凄く怯えてる…」
「いやあれじゃ、しょうがないと思うわ」
「今日の訓練…生きて帰れるかなぁ…」
距離を空け安全圏の後ろの方から歩いて訓練場に向かう、エリオ、スバル、ティアナの三人。
エリオの腕の中では震えているフリードの姿がある。竜といえどやはりこの場の雰囲気は怖いのだろう、それにいつもはあんな穏やかな主人がああなれば仕方がない。
三人は今日の訓練を無事に終えれるのか不安になりつつ訓練場に向かうのだった。
その日の夜、訓練が終わりみんなが晩ご飯を食べ始める頃にレンは自室のベッドで倒れていた。
訓練の時は流石に引っ付いて訓練は出来ないのでキャロは渋々レンを離したが訓練が終わると凄い勢いでレンにダイブして来た。
その時のなのはの顔は……見なかった事にした。そして肝心の晩ご飯の時にレンはお腹が痛くて食欲が無いと言ってその場を離れ今に至る。
「あっ、そういえばレイをプレシアさんに預けたままだった」
実は今日の朝、レイをプレシアに預けている。預けた時に物凄い呪いの念話が飛んで来たが無視し続けていると悲鳴と共にそれは止まった、レイは今頃どうなっただろうかと考えていると扉から呼び鈴がなる。
「レンさん、今大丈夫ですか?」
「キャロ?こんな時間にどうしたの?」
レンの部屋を訪ねて来たのはキャロだった。シャワーを浴びて来たのだろうか、服装は部屋着で仄かにシャンプーの良い匂いが香って来る。手には……枕を持ちその枕を口元の辺りまで持ち上げ上目遣いで此方を伺う様子はとても可愛らしかった。
枕?何故に枕なのだろうか?
「あの……一緒に寝ていいですか?」
レンは完全に油断していた、1日が終わって解放されたとばかり思っていたが残念ながら正確にはまだ今日は終わっていない。
「それは…」
「ダメ……でしょうか?」
それは流石に無理だと言おうとしたが、上目遣いで半分泣きそうになりながら懇願する様にそう言ってくるキャロ。
元々お願い事を一つ聞くと言ったのは自分だ、それにこの涙目で上目遣いをし枕を口元に当て目だけで訴えてくるこの可愛らしい少女のお願い事を断れる筈もなく、
「…良いよ」
許可してしまった。
するとキャロの顔がバッと明るくなり先ほどとは見違える様な笑顔でありがとうこざいますと言ってきた。並の男ならイチコロで落ちていた所だろう。
そして二人はベッドに横になる、レンは背中を向け必死に寝ようと試みるがキャロから香って来る匂いのせいで落ち着かない。
(何で女の子はこんなにも良い香りがするんだ!)
そう悶えるレンだった。
(この部屋、このベッド…レンさんの匂いでいっぱいだ…)
隣で横になっているキャロはというとレンのベッドに一緒に寝れたのは良いが急に恥ずかしくなってしまいどうして良いか分からなくなっていた。
それにあまり気にして居なかったがこのベッドはレンの匂いがして、まるでレンに包まれているかの様に思いキャロは幸せいっぱいだった。
「レンさん…」
「…なに?」
「何だか一緒に寝るのって懐かしいですね」
「そうだね、前に一緒に寝たのが随分昔に感じるよ」
キャロはレンに保護されてからはずっとレンと一緒に寝ていた。保護された初期の頃は不安でいっぱいでレンの暖かさが心地よく全く離れようとしなかったので殆ど一緒に居たのだ。
(私は強くなってるのかな…)
とても強くどんな者にも救いの手を差し伸べ守ってみせる、キャロの憧れで想い人でもあるレン。キャロが今見ているレンの背中はとても大きい。
しかし追い掛けてもその背中は見えて来ない。余りにもレンが遠過ぎる、こんなにも今は近くに居るのに何だか手の届かない場所にレンがいる様に感じる。
自分はレンに憧れその手で救いを求める人を守りたい、レンの事も守ってあげたいそう思った。
だがどうだろうか、レンは強い誰よりも強い、自分なんかより遥かに。
そうして自分が足踏みしている間にレンは救い守り己の心を擦り減らし続けている、こんなにも近くに居るのに何も出来ない自分が情けなかった。
「キャロは…本当に強くなったよ」
唐突にレンがそう言いだした。
自分が強い?そんな筈ある訳がない、目の前に心では救いを求めている人がいるのに何も出来ないのだから。
「そんな事…ないです」
「いや、僕なんかよりキャロはずっと強い。そんな小さな身体でずっと頑張ってるのは知ってるよ、キャロの力や才能は本当に凄いんだ、今はまだ使いこなせないかも知れない、けどね…その力は必ず自分の自信になり形となってキャロの力になってくれるよ」
キャロは己の力をまだ使いこなせていない。怖いのだ、この強大な力が暴走してしまってこの力で誰かが傷つくのが。そして何よりこの力のせいで自分は故郷を追われたのだから。
「僕にはない物をキャロは確かに持っている、僕はね…こうして誰かが僕の事を覚えてくれてたり側に居てくれるだけで本当に嬉しいんだ、ありがとう…キャロ」
此方に向き直りそう言って笑顔で頭を撫でて来るレン。
その手は暖かく優しさが溢れていた、自分が側に居るだけで嬉しいと言ってくれたのが嬉しいかった。すると目尻が熱くなってくる。レンが見ている、だから我慢しようとするが我慢出来なかった。
「レン…さん…」
そうやって啜り泣く少女の声が部屋には夜遅くまで響き渡っていた。
レンはその少女が寝るまで頭を優しく撫で続けた。