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第14話「ねぇ、レンさん」
「ん?な……んだい?」
それはある日のお昼頃の事、今日も新人フォワードの訓練を見ているレンの元になのはがやって来た。やって来たのはいいのだが、何かいつもと雰囲気が違う、浴びせられるプレッシャーに一瞬身構えてしまったレンだが平然を装う。
「最近エリオの動きが良くなって来てますね」
「あ、あぁ……確かに、荒削りではあるけど将来有望だと思うよ」
何気ないやり取り、だが目の前のなのはは笑顔ではあるが笑っていない。このなのはの変化が一体なんなのか分からないレンはひたすら内心ビビるだけである。
「最近は教えてない無茶な動きをしようとするし、どことなく疲れも溜まってる様に見えるんですよね」
何やらなのはは怒っているようだ。
レンもそこまで馬鹿ではない、何故なのはが怒っているか理解している。故にそのまま聞き続ける。
「レンさん、何で過剰な自主練を見過ごすだけでなく指導までするんですか?私の教導の意味、分かってますよね?」
だからこそ受け止めなければならない、なのはが夜遅くまで新人たちのためにメニューを考えているのは知ってる、自分と同じような事にならないように、自分の命は自分で守れるようにと、それはまるで自分の子供に微笑む様に優しい笑顔でそのメニューを考えていた事も。
じゃあ何故レンはそんななのはの意思を無視してエリオに指導するのか、なのは史上主義であるレンが何故なのはの意思に反する事をするのか?
「なのは、確かにあの歳でここまで訓練して夜も長く自主練。確かにオーバーワークだ。そして彼は別に才能がないわけでもなく寧ろ天才だ、スポンジのようにすぐ技術を吸収さるし学習していっている、間違いなくこの先彼は強くなる」
じゃあ、なんでと声を荒げそうになるなのはに手で待ってと促す。
「けど彼は天才であっても君、なのはの様にずば抜けたセンスがあるわけでもない。それこそ頑張らないと強くなれない。なら答えは見えている、やるしかないんだよ。なのはがそれこそ努力してなかったか、と言われればそんな事は無い、寧ろ努力をかなりしていただろう、けどそれを越えるにはどうすればいいか、そんなものは決まっている、そいつより努力するしかないんだ。」
何か言いたげななのはを横目に続けるレン
「彼は……男だ。僕らからしたらただの子供、けど男だ。そんな男が守ると、守ってみせると思っていた相手に逆に守られる気持ちが君にはわかるか?」
「そんなの……けどそれは!」
「あぁ、ただの無茶だし無謀であり馬鹿だ」
レンはそう言い切った、結局のところやらなければ強くはなれない。けどこんなにも根を詰めても身体を壊すどころか完璧なパフォーマンスも出来ないだろう。だから無茶であり無謀であると彼は言う。
「じゃあ何で……」
「別に理解出来なくていい、男というのはそういう生き物なんだ。なのは、君が教導する立場としての人間でそして失敗した事もある人だから言っているのは分かる、けど……男は意地を張るものだ、そしてそんな惨めな自分を許せない。守りたいものがあるんだよ、君にだって守りたいものがあるだろう?結局は強くないと何も守れないんだ」
何故レンが自分が過去に落とされたことを知っているのか気になったがそれどころではない。
「けど、それでもレンさんは間違ってます!それでもレンさんがエリオの無理なオーバーワークを容認し続けるなら私は……止めます」
そう言ってレイジングハートを握りしめ力強く、それでいて意思の篭った熱い何かを秘めている瞳でしっかりレンを見つめる。
「……わかった。これ以上の話し合いは無意味だね、僕らは僕ららしくこっちで語ろう」
無言でセットアップを済ませるレンに続ける様にセットアップを行うなのは。
別になのはは何も間違っていないし、寧ろ正しいのだろう。だがレンはその事を頭で理解していてもそんな生き方は出来ない、彼は男だ、守るために生きてきたのだ。男として、守る者としてそんな所で止まる事なんて自分が許せない、お互いに譲れないものがあるが為の衝突。
「デュミナス、なのはのリミッターを解除してくれ」
[了解です、……一時的ではありますがなのはさんのリミッターはこちらで解除しました]
「いいの?そんな事して、私手加減出来ないよ?」
「大丈夫、僕は誰にも負けるつもりは無い」
「そう……なら!」
そして譲れないものを互いに秘めたものがぶつかる。
「ちょ、なんやなんや!このアホみたいな魔力反応は!?」
「た、大変です!レンさんと高町隊長が……」
「んな!こりゃあ……」
彼らが模擬戦を初めて暫く、すぐにそれはバレた。2人はまごうこと無くこの次元世界でも最強、片方の男に感しては実際にそう言われているものが全力全開で模擬戦をしているのだ、バレないわけがない。
すぐにモニターで確認した訓練場はもはや作り出されたビル群はすべてなくなっており新地に、そして
「なのはちゃん……これは……」
「はい……これはあまりにも……」
「少し一方的過ぎるんとちゃうか……わかってた事やけど、レンさん強過ぎるで……」
その画面にはなのはを蹂躙するレンの姿が映しだされていた。
「アクセルシューター!」
12個の桃色の魔力弾が凄まじい動きとスピードでレンに迫る。
しかしそれを一振りのデュミナスで全て叩き切り、一直線になのはへと突撃する。
そして放たれる一閃、なのはが咄嗟にバリアを張るがまるで紙切れ同然かのようにそれは貫通する、そしてそのまま振り下ろされるデュミナスをレイジングハートで受け止めその勢いで地面へと落とされる。
「はぁはぁ……」
「……」
砂煙が晴れると肩膝を付き身体をレイジングハートで支えるように立とうとするなのはがいた。
「何で……そんなに強いのに……」
「ドライブシューター」
「!?」
いつの間にか双銃へと変形したデュミナスから12発の魔力弾が放たれる。
それをなのはは真正面からバリアで防いだ。
「手加減……しないで」
しかしそれはおかしな話だった、レンが本気でそれを撃ったもしくは本当に落とすつもりで撃ったのならバリアは貫通もしくはなのは自身にダメージを与えてただろう。しかしなんの変哲もない純粋な魔力弾、そう先ほど自分が放ったアクセルシューターのようだ。
「今のは全く君のアクセルシューターと同じスピード、威力、誘導性をもった魔力弾だ。」
「それが……どうしたの?その程度だとか言いたいの?」
だがレンは首を横にふる
「そんなはずない、相手を牽制して隙を作るにはもってこいだし寧ろ結果以上を期待出来る程に完成度は高い。僕は……僕はこれの操作が出来る様になるのにどれぐらい時間が掛かったと思う?」
なのははレンの質問の意図が読めなかった、しかし此処で黙っていても意味がない。レンほどの魔導師だ、それこそ1日や2日で出来たに違いない。
「どうせ1日で……」
「100年だ」
「えっ?だってレンさんは……」
「あぁ君たちと同い年だ、けど僕は少し特殊な体質でね、歳を取らないんだ。その意味が分かるかい?」
この会話は2人にしか聞こえない故にレンは少し喋ろうと思う自分のことを
「僕にはなんの才能もない、魔力総量だって純粋な僕だけの量を見ればC。この銃さばき、剣さばき、それにその他の魔力運用や想護流……僕はこれを今の領域に持ってくるのに何万年、何億……いやもう年なんて数えてない、それこそ君と同じぐらいの技量を身に付けるのに僕は100年掛かった。君が10年足らずで身に付けた技術も僕じゃ100年以上もかけないと身に付けれなかったんだ」
なのはは理解出来なかった、何億年も生きてる?目の前の同い年の自分とは違う本物の天才だと思ってた人物は自分の倍、いやそれとは比べ物にならない程の時間を生きてきたと?
「理解出来なければそれで大丈夫、僕はその間1度も自分を磨く事をやめた事はない。才能がないから、やらなくちゃ強くならないから、強くないと何も守れないから……僕はね、ある女の子に命を救われたんだ」
誰にも、それこそデュミナスは知っているが誰も知らないアベルの過去の一部をポツリ、ポツリと吐き出し始めた。