この剣は君の為に〜Sword Art Online 作:黒色狼
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第14話自分が余計な事をしたり、アリスの居場所を吐かなければみんな殺される。
内心舌打ちしながら周りを見渡す、後ろではセイリンを覗いた7人が月夜の黒猫団を取り囲んでいる、そして前ではセイリンがアスナを人質にしているこの状況を打開する策を頭をフル回転させ考える。
だが考えれば考えるほどに無理だと思えてくる、確かに自分だけならこの場を切り抜ける事が出来る。
しかしそんな事をすれば自分以外がどうなるか分からない。麻痺毒を用意していた辺り、元からこの状況を作り出し自分からアリスの居場所を聞き出すつもりだったのだろう、それに見事にハマってしまったわけだが。
「くっ…このゲスが!」
「心外だな、私だって心が痛いのだよ。だが仕方がないのだ任務なのだからね」
だがその顔は口角が釣り上がり心底楽しそうに見える。これでもこの男は有所正しき騎士団の1人、信じられないが目の前に映っているのが事実。昔の高貴で誇り高きセイルーン騎士団の面影は全くない、知らないだけで昔からそうだったのかもしれないが。
(考えろ…考えるだ…)
しかしそんな焦った状態で考えても良い案が浮かんでくる筈もない。戦況は客観的に見ても絶望的、打開策が全く浮かばない。
完全な手詰まり状態。
「そうか、まだお前は諦めないか。なら…」
ぐしゅ
嫌な音が聞こえた
「あぁあぁぁぁぁ!」
目の前でアスナが叫ぶ、その腹からは剣が生えている。
それと同時にセイリンのカーソルがグリーンからオレンジに変わった、このsaoの世界での犯罪者である印。何一つ躊躇わなかった。
「やめろ!今すぐその剣を抜け!」
「やだね、それにお前が悪いんだぜ?お前がだんまりを決め込むから……この女はお前のせいで死ぬんだ!」
目に見えるスピードでアスナのHPが減少していく、このsaoの中でHPがなくなるということは現実世界での死と直結している。
確実に彼女の死は近付いてくる、しかしキリトにはどうすればいいか分からなかった。
助けないと、けど後ろには人質が
喋らないと、けど守ると誓った者に危害が…
もう詰みだ、諦めろ
そんな声が聞こえたような気がする、確かにそうだこんな状況どうすることも出来ない。
そうだ、自分は良くやった此処でアリスの居場所を話せばアスナは助かる。確かにアリスに危険が及ぶ事になるが彼女は強い、きっとどうにかするだろう。
じゃあ此処で話しても何の問題もないのではないか?
守りたい、だがそれは自分のわがまま。そのわがままのせいで現に1人が危険にさらされ死にかけている。
そう自分のせいでだ。
ならそんなしょうもないプライドは捨てるんだ。それで目の前の彼女が救えるのならと。
すまない、心の中でそうつぶやき大声で叫んだ
「分かった!話すから剣を抜け!」
「そうかそうか、分かればいいんだ。だが剣を抜くのは話した後だ、さっさと話せよ?じゃないと死んじまうからなぁ」
ニタニタと笑いながらこちらを見てくる、本当に気に触るやつだ。
そしてアスナを見る。
(なんで……なんでそんな顔してるんだよ!)
アスナは心底驚いた表情をしていた。
なんで、なんで話しちゃうの?と
無理なんだ、そうするしかないんだ。キリトはそう自分に言い聞かせるように言い訳を重ねる。
これで確実にアスナを助けることが出来るんだ、だからこれであってるのだと。
(だから、そんな顔するのはやめてくれ)
未だにアスナは分からないといった表情をしている、なんでそんなことを言うんだと。
「ほらぁ……さっさと言わないと死んじまうぜぇ」
しかし剣が刺さりっぱなしな今、助けるには喋るしかない。
キリトが口を開こうとしたとき、
「なんでキリトが諦めちゃうのよ…」
彼女の声で遮られてしまった。
そんなの分かりきった事、無理だからだ。この現状でアスナを守り後ろの月夜の黒猫団を救うにはそうする他に手段はない。仕方がないのだ。
しかし彼女は言葉を続ける
「キリトが諦めないから私は頑張って来たの!キリトが死に急ぐ私を叱咤してくれたから……私は今ここにいるの!男ならそれぐらい無茶して守るって言った女の子ぐらい守ってよ!」
悲痛にもそう叫ぶアスナに瞳からは大粒の涙がとめどなく流れ続けている。
本当に無茶だ、目の前のアスナを助けても後ろで月夜の黒猫団が殺されてしまう。
だからといって何もしなければアスナが死んでしまう。
しかし目の前の女の子は無茶しろと言ってる。もう無茶苦茶だ。
「ははは……」
「なんだ?何が可笑しい?」
セイリンが何か言ってるがもう聞こえない。
本当に馬鹿だ、自分は何をやっていたのだろう。
「貴様、たちば…ぐふっ!」
その瞬間、キリトの姿は掻き消えた。
そしてセイリンを回し蹴りで吹き飛ばし、直ぐにアスナに刺さってる剣を抜く。
本当に馬鹿だ、俺は何をしていたんだ。守ると言った…誓った相手も守れないで何が御神流だ、男ならそれぐらいの無茶通してみせる!
後ろの騎士達はまさかキリトが動くとは思って無かったのだろう、一瞬惚けてしまう。
だがそれが命取り。
キリトは再び走る、精神を研ぎ澄ませ一気に加速する。世界は灰色に。
だが間に合わない、直ぐに1人、2人の騎士が動きその剣を動かしている。
やらせない
キリトはアスナから抜いた剣を投擲、1番近い騎士はそれに驚き隙を晒す。その隙を見逃さずすかさず接近、そして切り伏せる。
ポリゴンとなった消えた仲間を一瞬見て、直ぐに動き出す騎士たち。
伊達に騎士をしていないようだ、並の人なら恐れおののくか斬りかかってくるだろう。
片手に持つ剣を再び投げる、しかしそれを見ている騎士たちに防げない通りはない。
軽くいなし防ぐ、しかしその程度の時間でキリトには充分だった。
その隙に一気に接近したキリトが一閃、更に近くにいた仲間に斬り込む。
気付けば騎士も残り1人、だが少し距離が遠い。剣を投げても間に合わない。
不安そうな目でサチはキリトを見つめる。後はサチだけ。
だが間に合わないと分かっていてもキリトは騎士に向かって走り出した。諦めない、守ると言ったのだならばやってみせる。
走る 走る
確かに縮まって行く距離
しかし騎士の剣がサチに振り下ろされる方が早い
駄目だ、やっぱり間に合わない
ならあきらめる?
有り得ない、何故なら…
俺は御神流の剣士で男だから!
速く……もっと速く!
神速で間に合わないのなら……神速を超えろ!
決して届かない距離、だがキリトは諦めない。だから走るのをやめない。
と……どけぇぇぇぇぇぇぇ!
キリトの手に持つ剣が震え赤い光芒の光を放つ
そしてそのまま凄い勢いで騎士を一刀両断、ポリゴンの欠片となって消えていく。
片手剣重単発攻撃ソードスキル、ヴォーパル ストライクだ。
そして静寂に支配される。