この剣は君の為に〜Sword Art Online   作:黒色狼
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第7話





まるで流れる血のようにギラギラと赤く光り輝いた刃が今自分に迫っている。
アスナは何となくだがこの一撃を貰えば自分という存在が消えると感じさせた。

(ああ、私は此処で終わりなのね…)

その時、アスナはやっと終わったと思った。本来ならこんな所にいないで自分は現実世界で勉強でもしていただろう。それがちょっとした出来心でこんな所に来た事を死ぬ程後悔した。
現実世界に戻って恥をかく、そんな思いをするぐらいなら…いや元々こんなデスゲームはクリア不可能だ、最後は勇敢に戦って死ねたと自分を消し飛ばすであろう刃を受け入れるべく目を閉じる。

(もっとやりたい事があったのになぁ、普通に恋して…普通にデートして…結婚して…)

アスナはそうやってやりたい事を頭に思い浮かべていく。
するとふと死ぬ筈だった自分を救った少年の事が頭に浮かぶ。結局なぜそこまで出来るのか、諦めないでいられるのかを聞きたかったが聞けなかったなと思う。
何処までも真っ直ぐで諦める事を知らない少年。

《馬鹿はお前だ…なら俺がクリアしてやる!お前が死に急ぐなら何度だって俺が助けて守ってみせる!》

その少年の言葉が頭に蘇ってくる、少年の真っ黒な瞳の奥はあの時輝いていた。真っ黒な夜空に一つの星が輝いている様に。


(死にたくない…死にたくないよぉ、私を…守って…)

その少年の事を思うと不思議と死にたくないと思い始めるアスナ、しかし自分を消し飛ばすであろう刃はすぐ側まで迫っている。
しかしあの少年は自分を守ると言った、その力強く奥に光を放つ瞳で自分を見つめて。

その瞬間だった、一筋の黒い何かが自分の目の前まで迫っていた禍々しく赤い光を放つ刃を大きく弾いたのだ。
暫く惚けていたが直ぐに距離をとる。

一瞬だがアスナは見えていた、確かにその少年、キリトが自分の前に現れその迫り来る刃から自分を守ったのを。
自分は生きている、助かったのだ。
キリトにまた守られた、約束を守ってくれたと思うとアスナは心が暖かくなるのを感じる。キリトは今も戦っている、しかしもはやキリトの強さは次元が違う。
ボスはやられるがままだし、キリトの姿は速すぎて見えない。
自分が彼処に行っても邪魔になるだけ、分かっていてもとても悔しい。

やがてボスのHPは無くなりボリゴンの欠片へと姿を変え爆散した。
そのポリゴンの欠片が舞い散る中に立つキリトがとても遠くに感じられる、目の前にいる筈なのに決して届かない位置にいるかのように。

「キリト、今のは何なの!速すぎて見えなかったじゃない!」

「今のは御神流の奥義だよ、そしてこの二本の剣は俺の使う御神流の本来の姿だ」

今のはなんだと凄い剣幕で迫るアリスにキリトはそう答えた。キリトがなんでそんな剣術を使えるのか気になったがアスナは他にもっと気になり続けている事がある。

「ねぇ…」

「ん、なんだ?」

「何で彼処まで頑張れるの…何であんたは諦めないでいられるの⁉︎何で私を守るのよ⁉︎」

つい感情的になってしまいそう怒鳴り付けるように聞くアスナ。
アスナには如何しても分からなかったのだ、其処までやれる理由が。
怒鳴り付けてしまったがキリトはそんな事かと言いたげに優しく微笑みながらこう言った。

「そりゃ誰かが目の前でピンチになってたんだ、助けるに決まってるだろ?それに諦める諦めないとかじゃない、実際はやるかやらないかだ、それを俺は自分に出来ることを精一杯やってるだけなんだよ。それに…守るって約束したしな」

最後は少し照れ臭そうに頭を掻きながらそう答えるキリト。
そうかこの少年からしたら諦めないではなく、やるかやらないか。結果として駄目でもやるかやらないかでは全然内容は違ってくる。そしてその選択肢の中でキリトは絶対に何もしない事を選択しない、自分に出来る事を全力でやっているのだ。
その結果としてキリトは見事に自分を守って見せた。やるかやらないか、それは至極普通の考えだが考えようによっては諦めるか諦めないか、という風にも考えられる。
だからキリトは絶対に自分に出来る事は全力でやり諦めないのだ。


素直に凄いと思えた。
こんなにも近くにいるのにも関わらずキリトの背中は遥か遠くのように感じる。
けどそんな考え方ができるのは正直憧れる、自分もそんな風になれるだろうか?
しかし自分にはキリトやアリスの様に特出した実力はない。

(今は無理でもいつかは…)



いつかはそんな彼の隣に立ちたい、そんな風に思っていると不意に後ろから声が聞こえてくる。


「ボスが……倒されてるだって⁉︎」

「なんやて⁉︎一体誰が……三人しかおらへんやないか!」

其処には大勢のプレイヤー達がボスのいないボス部屋をみて驚愕していた。























彼らはボスを討伐する為に集ったプレイヤー達で幾つものパーティを組みボス戦へと挑みに来た。
しかしボス部屋に着いたらどうだろうか、なんと既にボスは倒された後で中にはたったの三人しかいないのだ。
通常、ボス戦は大人数のパーティを幾つも組んで挑むもの。しかしあろう事か今回ボスに挑み倒したのは三人だけ。


「ありえへん…たった三人で倒せる筈が……まさかお前ら茅場の仲間なんやちゃうんか⁉︎」


一人のとんがった髪型をした男がそう言いだした。
すると色んな所で声が上がる。

「そうだ…三人でボスを倒せる筈がない!」

「俺たちを解放しろ!」

「現実世界に帰せ!」

その全てがキリト達を批難する言葉、彼らがそう思うのも無理もないがキリト達は確実に己の力のみでそのボスを倒した、完全に濡れ衣だった。しかしデスゲームに囚われもう直ぐ1ヶ月が経とうとしている、今は大分マシにはなって来ているが不満を持ったプレイヤーはたくさんいる。
その不満全てをキリト達にぶつける様に彼らは次々と罵声を浴びせ続ける。

アリスとアスナはもう我慢出来なかった、自分たちも戦ったが殆どはキリトがボスを倒したようなものだ。
あの戦いぶりを見ていた者としてはそんな風に言われる事は断じて許せなかった。懸命に命懸けでその中でも自分たちを守ってくれたキリトが何故そんな風に言われないといけないのか。

二人が同時に何か叫ぼうとした時、キリトが手で止めろと止める。
そして、

「残念ながら俺は茅場の仲間でもなければ運営側の人間でもない、まず俺が茅場の仲間だとして何故自分で仕掛けておいたボスを倒さなければならないんだ?俺が茅場なら攻略するパーティに混じって近くで見ている事を選ぶけどな」

そう言うと彼らは押し黙る、キリトの言ったことが正論で納得してしまったのだ。
しかし、

「…だからってなぁ…お前らだけでボスを倒せる筈ないやろ!そんなん可笑しいんや!」

また男がそう言ってくる、確かに可笑しいまた彼らはざわざわとし始める。
本当に違うのか?チートでも使ってるんではないかと色々話している。

「なら……あんた達全員と俺とで総当たりのデュエルでもするか?俺はあんた達から1ダメージすら貰わずに5秒で倒してやるよ」

ニヤッと笑みを浮かべながらそう言うキリト。
幾ら何でもそれは舐めすぎだと彼らはそれならやってやるよと言い出し誰が始めにデュエルをするか話し合っている。

「キリト、幾ら何でもそれは…」

「大丈夫だ、些か不本意だけど俺はこの場では御神流の剣士を名乗らせてもらう。御神流に敗北はないのさ」

そう言って笑いかけてくるキリト。
御神流は本来なら守る為の剣、こんな使い方はしたくないがこの場を収める為に力を借りますと心の中で謝罪するキリト。


「最初の相手は俺だ、自信たっぷりなのはいいけど…舐めない方がいいぞ」

「ご忠告どうも、あいにく俺は負けれないんでね」

そしてその青い髪の男からデュエル申請がくる。

『ディアベルからデュエルを申し込まれました』

どうやらディアベルという名前らしい。
初撃決着モードで設定しカウントが始まる。
そしてカウントがゼロになりデュエルは始まった。

「永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術 キリト…押してまいる!」

始まった途端キリトは片方の片手剣を抜刀する。
するとどうだろうか、その瞬間ディアベルは後方へと吹き飛びその場にはwinnerキリトの表示が浮かび上がる。

「御神流…奥義……虎切…」

それは一刀で行う抜刀術。
遠間での一撃を与える奥義で御神流の中で唯一の一刀で放つ奥義だ。

「何が…起きたんだ」

「今のは俺の使う剣術の奥義だ」

「そんなデタラメな…」

未だに起こった事が認められないのか地面に倒れながらもキリトを見ている。
周りも何が起こったか分からないようで次に誰が行くか決めかねている。

「何やねんそれ…チートやチートやないか!」

「チートじゃない、これは俺の力だ。信用出来ないのならこれを見ろよ」

そう言ってキリトは己のステータスを可視状態にして彼らに向かって見せる。

「なら……ならなんなんや!その不自然な強さは!隠してチートしてるに決まっとる!」

「俺は……」

その何の不正もないステータスを見ても尚信じられないその男はそう言ってくる。
すると次の瞬間キリトの姿が消え気がつくとその男の喉元に剣を突き立てるキリトの姿があった。

「俺は永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術の使い手、キリト。最強の御神流の剣士だ!」

腰が抜けたのかそのまま地面に足を折り膝をつくとんがり頭の男。


今日この日、英雄にして最強の御神流の剣士と言われる事になる者が誕生するのであった。