この剣は君の為に〜Sword Art Online   作:黒色狼
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キリトくん無双回のお知らせ←


第6話




二刀の剣がまるで意思を持っているかのように乱舞する。そのスピードは神速の如くスピードでフロアボス、イルファング ザ コボルド ロードに吸い込まれるように叩き込まれる。

幾度ともなくその巨大な斧から放たれる一撃をまるで其処に来るのが最初から分かっているかのように紙一重で躱してみせる。

「奥技之六…薙旋…」

神速で右手に持つ剣で斬りつけ流れるようにボスの背後へと移動し間髪入れずニ撃目をその無防備な背中に放ち、左斜め、右斜め、横縦と目も止まらぬ速さで連続で斬撃を叩き込む。
目に見えるスピードで相手のHPバーは減り続ける。
しかしボスもやられっぱなしではない、背後で恐ろしい程の連撃を繰り出しているキリトに向かって大きく斧を横に薙ぎ払った。

初めての攻撃パターンでキリトは少し反応が遅れるが咄嗟に後ろに身体を逸らしながら後方へとステップ、迫る斧をその二刀で流れるように逸らし一度ボスから距離を取る。

「俺も腕が鈍ったかな…これじゃ師匠に怒られるぜ…」

先ほどからキリトはずっとボスに張り付き連続でダメージを与えていたのだが決められた攻撃パターンしかないと思っていた為に、先程の予想外の攻撃で一度ボスから距離を取ってしまった。
もしこれが生身の人間ならパターンはあれど必ず決まった行動を取る訳ではない、しかしキリトはパターン通り攻撃してくるボスを侮り過ぎていたのだ。
だから先程の予想外の攻撃に常に張り付いていた距離を離してしまった訳だ。


「キリト、大丈夫⁉︎」

「ああ、大丈夫だ。思ったより速かったな、お前達も」

「当たり前でしょ、にしても半分ぐらい削ってるし、それにあんたそれ…」

「話は後だ、次は三人で一気にいく。危なくなったら直ぐに離れて回復しろ、よし……いくぞ!」

アリスとアスナは自分達が取り巻きのモンスターを倒す間にもうすぐ半分を下回るという所までHPバーを削っていたキリトに驚いた。
しかも手には最初とは違い二刀の片手剣がある、二人とも存在するスキルで二刀流というスキルが存在しない事は知っていた。
このゲームの知識はこのメンバーの中では一番詳しいであろうキリトが自分のスキルを活用しないような真似をしているのが気になったが、キリトが話は後と言ったので素直にボスへと向き直る。


三人は同時に走り出した、キリトがいち早くボスへと踏み込み素早くその二刀で斬撃を与える。
ボスはすかさずキリトへと向かって斧を振るう。それを躱すのではなく受け流すようにパリィしキリトは攻撃を無効化する。
そしてその隙にアリス、アスナが此処ぞという風にソードスキルを叩き込んだ。

これは予め考えておいた作戦だ、キリトとアリスが幾ら強いからと言ってこの世界では普通の攻撃では大してダメージを与えれない。
一番有効なダメージを出すにはソードスキルを使うしかない、だがこの少数では隙があり過ぎて使う事が難しい。だからキリトがまず相手の攻撃を無効化しその隙に二人がソードスキルを使うという事だ。

しかしこの世界ではそうやって完璧に受け流そうともステータスの関係やシステムの関係で少なからずキリトのHPは削れていく。
本来なら綺麗に受け流してダメージなど皆無なのだが迷惑な事に此処はデータと数字で出来た仮想世界、本当に面倒なと思うキリトである。

「御神流…徹、スイッチ!」

「はぁぁ!」

キリトが徹で相手の攻撃を大きく弾きすかさずアリスがボスの正面へと入る。

徹、御神流の基本的な剣技の一つで相手の表面ではなく裏側に徹しダメージを与える技だ。
なのでこの大きく弾いた時、ボスへダメージが通っている筈だろう。

次はアリスがボスの攻撃を次々と捌いていく、剣術を習う者としてはこのボスの攻撃は直線的過ぎる、なので軽々と受け流していくがやはりHPは減り続ける。
だがボスのHPもかなり減ってきている、このままいけば倒し切るのも時間の問題だろう。

「せい!」

アスナが神速の突きでリニアーを放つ、その瞬間ボスは痛々しく雄叫びを上げる。
その時、ボスは持っていた装備を手放し新たな武器を手に取る。
そうβと同じ展開だった、此処でボスはタルアールに持ち替えて……
しかし違和感を感じるキリト、あれは前に戦ったボスとは違うと己の中の勘がそう反応している。
そしてボスの手に取った武器は輝きだしこれまでの恨みとが篭ったかの様な赤色の輝きを放ちながら竜巻の如く放たれる。

起動は水平、攻撃角度は…三百六十度。

これは刀専用ソードスキル、重範囲攻撃の旋車。
βの時とは違った、それがキリトに僅かな焦りと隙を生む。周りにはタルアールだと思い込み未だに攻撃を加えようとしているアリスとアスナがいる、しかしこれは重範囲攻撃の刀スキル、しかも三百六十度と来た。防ぐ事も出きなければ予想外の攻撃なので躱す事も出来ないだろう。

刻一刻とその赤く輝きを放つ一撃は二人へと迫っていっている。
二人とも比較的軽装でアリスに至ってはレベルが6だ、当たれば確実にHPは吹き飛ぶだろう。このままでも自分は回避も防御する事が出来るだろう、しかし二人は違う、予想外の攻撃に二人とも反応出来ていない、このままでは確実に当たる。


また自分は目の前にいる守べき者を、守ると約束した者を守れないのか?
腕を伸ばそうが足を前に運ぼうがこの距離では絶対に届かないし間に合わない。



(やらせて……たまるかぁぁ〜〜ーー!)



だがキリトは諦めない。守ると約束したから、守りたい者が其処にはいるから。
自分は御神流の剣士、この剣は守る為の剣である。此処で守れないで何処で守るのか。


そしてキリトは頭の中を切り替え、極限まで集中する、次の瞬間周りは灰色の世界へと色を変える。

周りの動きが遅く見える、否、自分が速すぎるのだ。
すかさず二人へと迫る攻撃を二刀を重ねて放つ徹、虎撤で力任せに弾き飛ばす。
そしてボスを修羅の如くスビードと手数で斬り刻む。
ボスもそんなキリトに刀を振るうが当たる筈もない。キリトからすればその攻撃は遅過ぎて止まって見えるのだ、ボスの周りを縦横無尽に行き来しその不可視の刃でボスを斬り刻む。

「す、すごい…」

「何も見えないわ…」

二人からはキリトの姿が見えない、ボスに攻撃が当たる瞬間に出るダメージエフェクトがある為、キリトが高速で動きダメージを与えているのは分かった。
まるでボスが一人で踊っているかのように二人には見える、時折見えるその輝く刃が確かに其処にはキリトが戦っているのだと感じさせる。

キリトは止まらない、この灰色の世界で何度も何時もその両手に持つ剣を振るう。

(守るんだ、俺が二人を…守るんだ!)

守りたい、その気持ちだけがキリトに剣を振るわせる。

神速、それがこの灰色の世界を生み出す御神流を最強たらしめている奥義の歩法。
己の意識を極限まで高める事によって、知覚力と身体能力を大幅に強化する奥義だ。側からみれば瞬間移動をしているかのように見える程の爆発的な加速を生み出し動き回れるがそれ相応の肉体への負荷がある。
しかし此処は仮想世界、身体への負荷なんて有りもしない。
それ故にキリトは止まらない。


物凄い勢いでボスのHPは減っていく、やがてそのHPは全て無くなり大きな音と共にボスはポリゴンの欠片となり爆散した。


「…俺の目の前では誰一人殺させない」


ボスのポリゴンの欠片が舞い散る中、背中を見せそう呟くように言うキリトの姿がありその見せる背中はとても大きかった。