この剣は君の為に〜Sword Art Online 作:黒色狼
<< 前の話 次の話 >>
14 / 24
さて3人でボス戦に逝くか←
第5話窓から明るい光が漏れて来る、その光はベッドに横たわる二人を祝福するかの様に照らす。
アインクラッド、仮想世界での朝も現実とそう変わりない。初めて仮想世界で朝を迎えたアリスはキリトより先に起きていた。
ずっと会いたくて、その暖かさに触れたくて止まなかった相手が今は自分の隣にいる。
それが本当に嬉しくて自然と顔は笑顔になる。
手を伸ばせばその暖かさに触れる事が出来る、そう思うと自然と手はキリトへと向かっていく、そして寝ているキリトの手を握る。
そうすると自分の心が満たされていく事を確かに感じる。
そして此方を向き寝ているキリトの寝顔へと目線がいく、何時もの大人びた感じの雰囲気も無く寝顔は年相応の少年のもので幸せそうに眠っている。
そんな寝顔を見てアリスは小さな幸せを感じていた、何て事も無い事だがこうしてキリトと隣り合って寄り添っていれるだけでそう感じる事が出来た。
「ふふふっ、和人…」
そしてアリスはキリトに抱き着く。昨日は気付けば寝てしまっていて何となく勿体無いと思いこうして今抱き着いている。
これ以上の幸せはない、そんな顔でキリトの胸に顔をうめる。
(これはどういう状態なんだ…)
実はキリトは起きていたりする。
アリスが自分の手を握ってきた時から起きていて驚かしてやろうかとまた良からぬ事を考えていたのだが、何時もと違うアリスの雰囲気と顔を見て戸惑ってしまい気付けば抱き着かれどうすれば良いか分からなくなっていた。
どんな敵でも斬り伏せる、最強の御神流の剣士でもこういう場面では形無しだ。
様々なシステム外スキルを使えようとこっちのスキルは熟練度1もあるのかも怪しい。
自分の目の前にはアリスの頭があり、仮想世界だというのに仄かに甘い良い香りが漂ってくる。そして体に触れているアリスの体、昨日はあんなにも剣を振るいモンスターを斬り伏せていたがこうして触れ合ってみると、とても華奢な身体つきで直ぐに折れてしまうのではないかと感じさせるその体は柔らかく女の子なんだとキリトに再認識させる。
結局、キリトはどうする事も出来ずにアリスが離れてくれるのを待ち続けるのであった。
一筋の金が彗星の如く剣技で剣を振るう。
そしてモンスター達が瞬く間にポロゴンの欠片となって霧散する。
「歯応えがないわね」
「今の俺にはちょうど良い強さだよ…」
此処は第一層の迷宮区、ボス部屋を探し探索をしている所だ。
アリスは何処か機嫌が良く常に笑顔、何でも出来るという感じで剣を振るうが、対照的にキリトは疲れ切った顔をしており既にボス戦をしたかの様な感じであった。
「あんた…なんかあったの?」
「色々とな…」
トールバーナの門で合流したアスナがそんな様子のキリトにそう問い掛ける。
昨日とは打って変わってアリスは上機嫌でキリトが疲れ切った顔をしているのだ、それは気になるだろう。
この三人はパーティを組んでいる。
実はキリト以外の二人は、ゲームに関しては殆ど知識を持っていなかったのでパーティの事やスイッチ、その他色々な事を説明するのにかなりの時間を有したのだ。
キリトのレベルは13、アスナは11、アリスはたった今6になった所だ。
迷宮区の敵を片っ端からアリスが倒しているのでレベルは瞬く間に上がり1日しかやっていない割にはかなりのスピードだ。
本来はこのレベルでの迷宮区での戦闘は危険なのだがそれを補える程の強さがアリスにはあり、敵の攻撃を容易く躱し屠っているのでまだ余裕がありそうだ。
それからしばらくすると、前方に巨大な扉が見えてきた。
そう此処がボス部屋だ。
「先ずは作戦通り俺がボスの相手をする、アリスとアスナは取り巻きのモンスターの相手をしてくれ、それを倒したら俺の援護を頼む」
「分かったわ」
「ええ」
ボス部屋に着くと先ほどは疲れ切った顔をしていたキリトの雰囲気が変わった。
此処からは危険が伴う、自分がヘマをすればこの二人が危ない。二度とあんな思いはしたくない、目の前で守りたい者を守れなかった辛さは自分が良く知っている。
だが今の自分には守れる力が、剣がある。此処からは御神流の剣士、桐ヶ谷 和人として何としても勝たなくてはならない。
相手はβの時も相手にしたモンスター、インファング ザ コボルト ロード。
武器は斧とバックラーを持っており、HPが少なくなると武器をタルアールに持ち替え攻撃パターンが変わるのだ。
「行くぞ…」
こくっと二人は頷き、それを見たキリトはボス部屋の扉を開く。
中はとても広い部屋で開けた途端、周りの日が灯り照らされる。そしてその奥にはフロアボスが待ち構えていた。
「御神流の前に立った事を不幸と思え…」
キリトは剣を抜きボスへと駆けていく、手筈通りアリスとアスナは取り巻きのモンスターへと走っていく。
取り巻きのモンスターは数も少なく弱いので二人の実力を考えれば難なく倒せるだろう。
そしてキリトはボスへと斬りかかる、だがボスもそうはさせないとその手に持つ巨大な斧を振り回す。
「遅い…」
しかしキリトはそれをボスに突撃しながら軽々躱してみせ、すれ違いざまに斬りつけ背後に回り込み瞬く間に四連続で斬撃を与える。ボスはそれに怯まず何度も斧をキリトに向け振り回すがキリトはパリィする事もなく全て身体を逸らしたりステップで躱している。
キリトからすればボスの攻撃は遅過ぎるのだ、そんな攻撃がキリトに当たる事もなくすり抜けるように躱していく。
躱しては連続で斬撃を与えを高速で繰り返す。しかし相手のHPは中々減らない。やはり普通の攻撃はダメージが少ない、それに今ボスと対峙しているのはキリトのみ。
幾ら連続で斬撃を与えようともたかが知れてるのだ。
一人で戦っている為、硬直時間のあるソードスキルは出来れば使いたくない。其処でキリトはアイテムストレージから一本の剣を取り出し装備する、そう此れが本来の御神流の姿、二刀流だ。片手剣スキルは使えなくなるがキリトは御神流の剣士、ソードスキルが使えなくとも御神流の奥義がある。
「よし、今から第二ラウンドといこうか……永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術 桐ヶ谷 和人…押してまいる!」
両手に剣を持ち、キリトはボスへ向かって突撃して行った。
「はぁぁ!」
神速の突き、細剣のソードスキル リニアーが取り巻きのモンスターである、ルイン コボルト センチネルへと炸裂する。
ふとアスナがアリスの方を見ると華麗に動き敵の攻撃を躱したりパリィしながら隙あらば連続で剣を振るっているアリスの姿がある。
ルイン コボルト センチネルの数は三体でアスナは一体、アリスは二体を同時に相手をしていた。
レベルからして見ればアスナが二体相手をするのが妥当なのだが何方が強いかと言われるとアリスなのでアリスが二体同時に相手をしている。
その判断は正しかったようで片方のセンチネルはレッドゾーンまでそのHPを減らしており二体同時でも十分余裕を感じさせていた。
此方も既にセンチネルのHPはレッドゾーンまで減らしていたが、アリスより劣っていると言えるだろう。
それが何故か無性に悔しく感じるアスナ、別にゲームの中で強かろうが弱かろうがどうでも良いと思っている筈なのにアリスに負けてると思うと嫌だと思えてくる。
この気持ちは何だろうか、此処に向かう道中でもキリトに向かって微笑みかけているアリスとの姿を見ると何だか胸がモヤモヤしていた。
まさか…と其処で考えるのを止めた、そんな筈は無いと首をぶんぶんと横に振り敵に向き直る。
そしてこのよく分からない苛々する気持ちをレイピアにのせて放つ、すると残り僅かだったHPはゼロになりセンチネルは霧散し消えていった。
直ぐにアリスの方を向くと丁度二体目のセンチネルを倒した所でアスナは少しむっとする。
「貴方も倒したのね、急いで和…キリトの所に行きましょ」
「分かってるわよ…」
そう言うアリスに吐き出すように答えるアスナ。あの少年の事は全く知らないし如何でも良いと思っている、しかし目の前の見るからに可愛い女の子がその少年の事を自分より知っているのに苛立ちを感じる。
馬鹿みたいに真っ直ぐで決して諦める事をしない少年。あの時、自分が全てを諦め無理して戦い死に急いでいる時に怒鳴り、何故諦めると言って来た。
どう考えてもこのゲームはクリア不能だと言う自分に対し少年はなら自分がクリアしてみせると言った、自分が死に急ぐのなら何度でも守ると言った、その時の目の奥は確かにそれが出来ると思わせるような輝きを放っているように思えた。それ以来アスナは少年の事が気になっている。
何故其処まで出来るのかと聞きたかったが乱入者の所為で聞けず仕舞いで、このボス戦が終わった時、自分が生きていたのなら聞いてみようと思ってはいる。
こうしてアリスとアスナは少年、キリトの元へと駆け寄っていくのであった。