この剣は君の為に〜Sword Art Online 作:黒色狼
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前回の続きで話は続きます。
第4話そして冒頭に戻る。
色々合って感動の再会とは行かなかったが無事に誤解が解け和解した二人。
しかしいざ再開してみると恥ずかしさが込み上げて来てお互いに何を話して良いのか分からない。
すると唐突にその場にいたフェンサーが、
「アリス……って、ルーゼリア国の次期皇帝じゃない⁉︎」
そう叫び出した。
アリスは今や国を代表する者の一人、いわば有名人なのだ。
知る人が見れば何者かばれてしまうし、それにこの容姿なのだから目立ってしまう。
「まぁそうよ。けど別に大したもんでも無いわよ。私は所詮お飾り、皇帝となっても国を動かすのは実質はお父様達だしね。それに…」
実質、ルーゼリアを動かしているのは皇族達である。跡取りとして皇帝となっても裏で政治を行うのはアリスの父であるソル R ツーベルクを筆頭にしている皇族の皇族派達だ。
後半に何か言おうとしたが途中で止めてしまう。その顔は悲しみに満ちていた。だがそれも一瞬の事でアリスは話を変える。
「そんな事より街に戻りましょ、もう日も暮れそうだし…」
いつの間にか日も落ち出す時間となっていた。このsaoでも日が沈み夜が来る。
それに例え現実世界の体が眠っていたとしても眠くもなるし疲れも溜まるのだ、先ほどフェンサー使いが倒れたのは良い例だ。
「そうだな、俺もお腹空いたしな。フェンサーさんも一緒にどうだ?」
「…私は別に良いわ」
そう言ってフェンサーはその場を離れようとするが、
「それなら街まででも一緒に行こう、その方が安全だ」
そう言ってキリトは二人の前を先行し出す。アリスはちょっと待ってよ、と後を追いかける。
別にいいと言おうとしたが先に動かれてしまい仕方がなく後を追う。
浮遊城アインクラッドは先細りの構造をしている為、この最下部の第一層が一番広い。
それ故に様々な地形が存在する。
最南端に半円を描くように設けられた城跡に囲まれた街、始まりの街。
街の周囲には草原フィールドが広がっており、先ほどアリスが倒したイノシシやオオカミと言った動物系のモンスター、ワーム等の虫型のモンスターも存在している。
向かう街は一番迷宮区から近場にあるトールバーナ。
アリスが迷宮区へ向かう道中はイノシシ一体としかエンカウントしなかったが3人で街へ戻る際はかなりの数エンカウントした。
しかし所詮は一層で最初に相手をするモンスター達、キリトとアリスが我先にと次々と屠っていった。
「へぇ、それが皇宮剣術って奴か。なかなかやるな」
「和人こそやるじゃない、昔とは大違いだわ」
二人は楽しそうにそう言った。
見ない内にそれぞれ変わったと二人は思う。昔は剣とは無縁だったアリスも今では相応の実力者、和人に至っては御神流の剣士となった。
そんな二人を一層のモンスターが相手になる筈もなく瞬く間にポリゴンの欠片へと姿を変えていく。
気が付けばトールバーナ北門の前まで着いていた。
「…どうもありがと、お陰で楽が出来たわ……それであんた本当に一人でボスを倒すつもり?」
「ああ、当たり前だろ」
「なら、私も着いて行くわ」
「……は?」
「だから私も着いて行くって言ったのよ!嫌なの、何もせずに此処にいるのが…この世界に負けるのだけは…」
第一層と言えどフロアボスだ、もちろん先ほど倒してきたイノシシやオオカミのモンスターとは比べ物にならない程強く危険度も段違いだ。
それこそHPがゼロになる事があるかもしれない。幾らキリトであっても100%守りきれるとは限らない。だから着いてきて欲しくなかったのだがそのフードから覗かせる表情は真剣そのもの。
そんな表情を、決意を見せられれば断るのは無粋というものだ。彼女も形はどうであれ此処の世界に降り立った時点で一人の剣士なのだからその決意は認めてやらなければならない。
「…分かった、だが無茶はしないでくれよ」
そう言うとフードが僅かに上下に揺れる。
よし、とキリトがトールバーナの門を潜ろうとすると
「…何よ、私は除け者扱いってわけ?」
頬を膨らまし怒ってますと言いたげなアリスがキリトを睨んでいた。
「い、いやそうじゃないけど…危ないだろ」
「何よ!この女は守って私は守ってくれないの⁉︎それとも私はお荷物って事⁉︎」
「分かった、分かったから剣の柄から手を離してくれ!」
分かれば良いのよと言い放ち、ふんと顔を逸らすアリス。
そしてフードを被るフェンサー使いをひと睨みして再びふんっと顔を逸らす。
「と、取り敢えずこの門に明日の9時集合という事で」
「分かったわ、それじゃ私は行くわ」
集合時間を伝えるとフェンサー使いは二人の間を通り過ぎ何処かに行こうとしたが少し歩いた所で立ち止まり、
「アスナ」
「ん?なんだ?」
「私の名前はアスナ、それじゃ」
「お、おう。俺はキリトだ。取り敢えずまた明日」
フェンサー、アスナはそれだけを言い残し街の中へと歩いて消えていった。
突然名前を言われてもどうして良いか分からなかった和人は取り敢えず自分も名乗っておいた。その返答はどうやら正解だったようで何も言わずアスナは立ち去って行ったのでキリトは胸を撫で下ろした。
元々、コミュニケーション能力は高くないと自分でも自覚しており突然の事には上手く判断出来ないのだ。
すると不意に背中に鋭い視線を感じる。嫌な予感がしてアリスの方を見ると先ほどより怒っていた。顔を伏せぷるぷると震えている。
何故わかるかと言うと勘だ、昔から何となく分かるのだ。
そしてこれはかなり怒っている、このままでは主に自分の命が危ない。なんとかしなければと必死に言葉を捜すがこんな時に掛ける言葉をキリトが持ち合わせている訳がなく焦る一方だ。
しかしこのまま何もせずアリスが何かするのを待っていたら色々と危ない。
そう主に自分の命が。
そして必死に頭をフル回転させ振り絞った言葉が、
「アリス、今から俺の宿屋で一緒に寝てくれ!」
ぼん、とアリスの頭から湯気が出たような気がした。
こうしてキリトは窮地を脱したのだった。
それからアリスが、消え入りそうな声でうん…と肯定したのでキリトとアリスは、キリトが借りている宿屋へと向かっていた。
宿屋に向かう道中はお互いに殆ど無言でアリスに至ってはずっと顔を伏せたままだった。
「着いたぞ、此処だ」
キリトが借りている宿屋はトールバーナの東側に位置する一つの農家の二階。
階段を上りドアを開けてアリスを中に通す。
「えっと、アリスは其処のベッドで寝てくれ。俺は床で寝るから…」
「……へ?一緒に寝るって…」
「えっ?俺は一緒の宿屋に泊まろうって意味合いで…」
どうやら思いっきり両者の見解に食い違いがあるようだ。
すると再びアリスがぷるぷる震えだし、もう何も打つ手がないキリトは覚悟を決めた。
「和人の…ばかぁぁ〜〜ーーー!」
「ごふぅ!」
圏内はコードで守られているにも関わらず鳩尾にリアルな衝撃を受けキリトは吹き飛んだ。
その時キリトはsaoがデスゲームになった時よりアリスの方が怖いと感じたのは秘密だ。
結局、アリスはベッドでキリトは床で寝る事になった。
実際は何のダメージもないのだが何となく痛みを感じる鳩尾を摩りながらキリトはアリスの方を向く。
あの時は守れなかった、けど今はあの時と違う。自分にはもう守る為の剣がある。
目の前に守るべき人がいる、いづれ己の力でルーゼリアに殴り込みに行こうかと思っていたのだが。しかし今は守ると、一緒にいると約束を交わした相手は自分の側にいる。
今度は必ず自分が守ってみせると決意を新たにしていると、
「ねぇ、和人。起きてる?」
「…ああ」
アリスが喋りかけてきた。
キリトはアリスの方を向いているがアリスは背中を向けている。
「私、ずっと和人に会いたかった…向こうに連れて行かれてからもずっと和人の事を考えてて…」
「ああ…」
「そしてやっとの思いで日本に来る機会を手に入れて、やっとこれで和人に会えるってとても嬉しかった……けど和人の家に行くと和人はsaoに囚われてるって聞いて私…とても悲しくて辛くて…」
「ごめん…」
そう話すアリスの言葉は徐々に掠れていき啜り泣く音が聞こえてくる。
自分はこんなにもこの少女に心配をかけていたのかと思うと一言を返すのがキリトには精一杯だった。
「せめて和人に会いたくて病院に行くと隣のベッドの人がsaoで死んで…もしかしたら次は和人の番かも知れないって不安になって…気が付いたら私、ナーヴギアを被ってこっちに来てた…」
「そっか……けど嬉しいよ。ありがとう」
キリトは床から起き上がりアリスのいるベッドに腰掛け頭を撫でながらそう言った。
「和人!会いたかったぁ……会いたかったよぉ…」
するとくるっと振り返ったアリスは涙を流し顔はぐしゃぐしゃだった。
そしてそのまま和人に抱き着いた。
ずっと我慢していた、しかしもう我慢の限界だった。ぐしゃぐしゃにした顔から更に涙を流しながら泣き叫ぶアリスを優しく抱き締めるキリト。
「今度は必ず守ってみせる、この剣は君の為にある……もうずっと一緒だ…」
此処に再び、この自分の胸で泣く女の子を己の剣で守ると誓うキリトだった。