この剣は君の為に〜Sword Art Online 作:黒色狼
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少し遅れました。
今回は少し甘い展開となるかもしれませんね。
第6話今回は少し甘い展開となるかもしれませんね。
向かうのは隣の県の遊園地。
少し距離もある為、公共機関の乗り物を使う訳だが今日は生憎と日曜日。
同じように何処かに出掛けようと公共機関を利用する者は多い。今回も例外ではなく和人達がいる駅は凄い人の量だった。
「うげぇ、凄い量だな。とりあえず逸れないように気をつけろよ」
「分かってるわよ、和人こそ気を付けなさいよ」
そう言って人混みを掻き分けていく。切符を買いに行くだけでも一苦労だ。
切符を買ってホームの中に入ると外より人集りが凄く油断すれば人波に攫われ一瞬で逸れてしまうだろう。
自分たちと同じで遊園地に行く者が多いのか家族連れやカップルの姿が良く見かけられる。そんなカップルを横目で見ていたアリスは和人をちろちろ見ているが和人は気が付かない。
実は和人達が向かう遊園地は日本でも有数の人気スポットでかなり人気なのだ。そして今回譲ってもらったチケットはかなりレアものでペア限定でアトラクションに優先して乗れるという代物だ。ペア限定という事で彼氏が良くカッコつけて買い懐が寂しくなるという事が良くあるのだとか。
「きゃっ!」
和人を気にし過ぎて周りがあまり見えていなかったアリスは人混みに呑まれてしまった。
自由が利くようになった頃には周りに和人の姿は見えない。探そうにも周りは人が溢れ下手に動けばまた人混みに呑まれてしまうかもしれない。
辺りを見渡し不安でオロオロしどうしようか焦っていると不意に手を掴まれ人混みの中に引っ張られた。
いきなりでびっくりしたアリスだが引っ張ってきた者の顔を確認すると…
「そら、言わんこっちゃない。手離すなよ」
手を引いたのは和人だった。
どうやら直ぐに気が付いてくれたようで探しに来てくれたようだ。その事がとても嬉しく自然と顔が綻ぶ。
今も自分の手を引き前を進んでくれている、ふと繋いでいる手に目線がいく。繋いだ手はとても暖かく心地よかった。
今まで生きて来て感じた事のない暖かさと心地良さが和人の手から伝わって来る。それがとても嬉しく心が満たされていくのを確かに感じてくる。
そこでさっき見てきたカップルの事を思い出す、みなアリスの様に手を繋ぎ近くで寄り添っていた。しかしその繋がれた手は指と指を絡める様にして繋がれていたのを覚えている。
そしてもう一度自分の繋がれた手を見る、確かにがっちりと繋がれているのだがカップルのそれとは違う。
(私もあんな風に…)
良く分からないが自分もあんな風に手を繋ぎたい、そう思ったアリスは自然と繋いでいる手の指と指を絡めた。所謂恋人繋ぎである。
突然指を絡めて来たので和人は驚きアリスの方に振り返った。
其処にはほんのり頬を染め満面の笑みで笑うアリスの姿があった。
「ど、どうしたんだ急に?」
「こ、こうした方が離れにくいからよ!」
そう聞いてくる和人に、はっとなり急に顔を真っ赤にしてアリスがそう言った。
と言ってもアリス自身何故そうしたかったのか、してしまったのか分かっておらず説明が出来ないのだ。
「けど別に…」
「うるさいうるさいうるさい!」
そう言って空いてる方の手でぽかぽか和人を叩くアリス。
電車の中に入ってもアリスは頬を膨らませ怒っていたのだが繋がれた手はずっと離さなかった。
『うわぁ〜』
その後無事に目的地である遊園地へと着いた二人はメインゲートの前で同時に声を上げた。
「凄い!なんか色々な乗り物があるよ、和人!」
「人多過ぎだろ…」
方やアトラクションに興味津々で方や人の多さにうんざりしていた。メインゲートからでもジェットコースターや観覧車、それに色々な売店に色とりどりなお菓子。
どれも見たことが無いアリスは目をキラキラさせはしゃいでいた。
それに引き換え和人は来た事は無いものの、本来ならインドア派でこういう人混みは好きで無い身としては遠慮したい所であった。
「和人!あれ乗ろう、はやくはやく!」
「うお、そんな引っ張るなって!」
これまでに無いほどはしゃいでいるアリスを和人が止められる筈なくそのまま引っ張られて連れて行かれてしまった。
だが今日は日曜日、人が多くアトラクションの待ち時間は凄い事になっている。
「待ち時間が5時間って乗せる気あるの⁉︎」
「まぁしょうがないだろ、気長に待とうぜ」
早速目に見えたジェットコースターに乗ろうと来た訳だが待ち時間は驚異の5時間。
しかし並ばなければアトラクションには乗れ無いので渋々その長蛇の列に並ぶ二人。それから待てどもなかなか前に進まない。アリスはまだかまだかと先の方をずっと飽きずに見ている。
すると1時間だろうか、それぐらい経ち従業員の人が見回りにきた。此処に入る時に手にスタンプの様なものを押されるのだがそれを確認しに来たのだろう、和人達の前の人の確認が終わり二人のスタンプを確認すると従業員が、
「このスタンプは…優先権でご来場のお客様ですね。お客様は此処ではなく彼方にお並び下さい。」
従業員が指す方向は明らかに此方より並んでいる人が少なく待ち時間は30分と記されている。もちろんそんな事知らなかった二人は顔を見合わせる。
するとアリスが、
「和人、優先されるんなら先に言いなさいよ!」
「いやいや、俺も知らなかったんだって」
アリスが怒るのも無理も無い、本来ならアトラクションに既に乗れている筈なのに無駄足をくったのだから。
アリスは長い間怒っていたが優先券ので入場した者が並ぶ方は進むスピードが速くアトラクションの前まで来た頃にはそんな事は忘れ目を輝かしていた。
ジェットコースターに座り安全バーを降ろされ進み出す。
アリスはワクワクした様子で座っているのに対し和人は顔がげんなりしている、実はあまりこういう物は得意でなかったりする。
遂に頂上まで登り一気に急降下する。
「きゃぁぁ〜〜ーー!」
アリスは楽しそうにそう叫んだ、1周して終わってしまった時は少し残念そうにしていたがそれでもその顔は常に笑顔だ。
「よし、次に行くわよ!」
「少し休憩を……って引っ張るなって!」
もうアリスは止まらない、そんな和人にはお構いなく日中連れ回される羽目になるのであった。
そして気付けば夕暮れとなっていた、しかしアリスには最後に乗ってみたい物ある。
「和人、最後にあれに乗るわよ」
「最後だな……よし、じゃあ乗ろう」
和人は既に疲れ果てていたが最後と聞き少し元気を取り戻す。
アリスが最後に乗りたいもの、それは観覧車だ。優先券のお陰で比較的早く乗れた二人は其処から見える景色を見ていた。
「きれい…」
「ああ、けど…俺はアリスに教えて貰った河川敷の景色の方が何だか好きかな」
「うん、私もかな」
確かに其処から見える景色は絶景だろう、しかし何故か二人はいつも見ている河川敷の景色の方がきれいに思えた。
そこでアリスは横で同じように外の景色を見る和人を見る。
和人に出会ってからアリスの全ては変わっていた。
明日が楽しみになった
身だしなみも気にする様になった
毎日和人の事を考える様になった
和人の優しさに触れ、その手の温もりを感じそれがとても愛おしい。
そこでアリスは理解した。
(私、和人の事が好きなんだ…)
寝ても覚めても頭には和人の事を考えていて会える時間を毎日楽しみにしていた。
初めて出来た友達、初めて優しくしてくれてその優しさで包み込んでくれた。
初めて会ったあの河川敷、やはりそこはアリスにとってとても大事な場所。
此処から見る景色より見劣りするかもしれないけど、アリスにとっては掛け替えのない景色。
「和人」
「ん、なんだ?」
「目を瞑って」
唐突にそう言われ意味が分からなかったが断る理由も無いので素直に目を閉じる和人、するとふわっと甘い香りがしたと思うと体に何かが抱き付いて来た。
「お、おい…」
「目を瞑って大人しくしてて」
いきなりの事で目を開けそうになったが前から、ほぼ至近距離からそう言われ目を閉じたままじっとする。腰に回された手、鼻には甘い香りがする。
「指輪…持っててくれてるのね」
「あ、ああお前の大切な物だからな。俺も大事にしてるんだ」
胸元からキラリと光る指輪が目に入りそう言ってからまた観覧車の中は静かになる。どれぐらい時間が経っただろうか?ふっと鼻から甘い香りが消え体からも感触が消える。
開けていいわよと言われ目を開けると顔を真っ赤にしたアリスが立っていた。
気が付けば下まで来ていたようで二人は観覧車から降り何とも言えない雰囲気のまま出口をくぐった。先にアリスが出て後から和人がそれに続くすると、
「お礼」
「は?」
「だから今日のお礼よ今のは」
前を向いたままアリスがそう言ったのでどんな顔をしていたのか分からないがそう言ってきた。
そのまま駅に向かって走り出したので待てよ、と和人も走って追い掛けていった。
(今はこれだけで…でもいつかは…)
そんな事を胸の内に秘めるアリスなのであった。