記者会見するトランプ次期米大統領=米東部ニューヨーク州のトランプタワーで2017年1月11日、西田進一郎撮影
トランプ次期米大統領は11日の記者会見で、貿易赤字削減を目指す方針を表明した。貿易赤字相手国として中国、メキシコと並んで日本を名指し。2国間通商交渉を通じて赤字削減を迫ると見られる。米国自身が戦後、長い時間をかけて築いた自由貿易秩序を崩すだけでなく、結果的に米国を含む関係国経済を混乱させる恐れが強い。
「米国の貿易協定は惨事だ」。トランプ氏は記者会見で力説し、貿易赤字は米国に不利な貿易協定が原因との考えを示した。選挙中から対中国、対メキシコの貿易赤字を問題視してきた。日本への言及はいったん影を潜めていたものの、再び矛先を向けた。
トランプ氏が貿易赤字削減を重視するのは、商務長官となるロス氏と新設の国家通商会議(NTC)を率いるナバロ氏が「赤字削減が国内総生産(GDP)成長率を押し上げる」と唱えている影響が大きい。GDP成長率の算出では貿易赤字が少ないほど、数値が高くなるためだ。
しかし、クリントン民主党政権時代の財務長官で、経済学者としても知られるサマーズ氏は両氏の主張を「ブードゥー(おまじない)経済学をはるかに超えている」と厳しく批判。高関税導入などで無理に貿易赤字を減らそうとすれば、輸入物価上昇を通じてインフレが進み、国民生活は苦しくなりかねない。これまで金融市場では、トランプ氏が掲げる財政支出拡大や規制緩和を好感し円安・株高が続いていた。しかし今回の記者会見では言及がないうえ、貿易摩擦を引き起こしかねない内容だったため、円高・株安となった。
日本対応難しく
赤字削減について、トランプ次期政権が重視する2国間交渉を通じて要求する可能性が高い。相手国に鉄鋼製品などのダンピング(不当廉売)輸出をやめさせたり、輸入拡大・輸出縮小を求めたりすることが考えられる。近年にない米政府の介入で、ワシントンの日米政策関係者からは「貿易赤字削減を目標にすれば相当な混乱を招く」との指摘が出ている。
もっとも、日米経済関係の歴史は貿易摩擦と隣り合わせだった。財務省貿易統計によると、1976年から一貫して日本から米国への輸出が輸入を上回り、米国から見た対日貿易赤字は40年続いている。80年代には自動車、半導体などを巡って摩擦が激しさを増した。
世耕弘成経済産業相は6日、「日本の自動車産業は1990年に約150万台だった米国での生産台数を、2015年に約386万台へ拡大した」と述べた。
批判を受けた日系自動車メーカーは米国内に工場を建て、従業員を雇うことで現地社会に溶け込もうとしてきた。菅義偉官房長官は12日の記者会見で「日本企業はアメリカの良き企業市民だ」と強調。日本政府は日本企業の米経済への貢献を強調してトランプ氏に理解を求める姿勢だ。
トランプ氏は11日の記者会見で、ツイッターでメキシコ工場新設撤回を求めたトヨタ自動車には言及しなかったが、「雇用創出に精いっぱい取り組む」ことは強調した。トランプ氏が赤字削減を迫る「次の手」は読みきれず、日本政府は難しい対応を迫られそうだ。【秋本裕子、ワシントン清水憲司】