トランプ米次期大統領が、当選から2カ月にして、ようやく初の記者会見にのぞんだ。

 米国の繁栄と世界の安定をいかに目指すのか。経済政策や同盟関係などをめぐる数々の疑問にどう答えるのか。トランプ氏の肉声の説明に期待していた人々も少なくなかっただろう。

 だがその口から出たのは、雇用増など「業績」の自賛と、自らへの批判や疑惑に対する容赦ない反撃の数々だった。

 記者からの質問が集中したのは、ロシアがプーチン大統領の指示で米大統領選にサイバー攻撃を仕掛けたと、米情報機関が結論づけた問題だ。

 情報機関の見解に懐疑的だったトランプ氏は初めてロシアの関与を認めた。一方、「プーチン氏が(私を)好きならば、資産と考える」とも述べた。

 情報機関も間違いを犯す。大統領として時には健全な距離を保つことも重要だ。大国ロシアと安定した関係を目指すのも当然のことだろう。

 しかし、ロシアがサイバー攻撃や虚偽ニュースによる世論工作で他国の選挙に介入したのが事実なら、民主主義の根幹を揺るがしかねない深刻な事態だ。

 トランプ氏がむしろ問題視したのは、ロシアがトランプ氏をめぐる「不名誉な情報」も入手していたとする疑惑の報道だった。報じた米メディアに非難の矛先を向け、その記者の質問も拒んだ。

 報道が誤りなら筋道立てて反論し、正せばいい。ところがトランプ氏の対応は、本質的な問題に目をつぶり、自らの疑惑の取材は封じようとするものだ。民主国家の政治家にあるまじき態度というほかない。

 トランプ氏は一部の米自動車大手がメキシコへの工場移転計画を見直したことを自賛した。「最も雇用をつくる大統領になる」と自信を示した。

 これも合理的な政策の結実ではなく、ツイッターで「高い税金を払わせる」など一方的な批判を重ねた結果にすぎない。露骨な保護主義が長期的には米国の消費者や企業の不利益につながるのではないか。そんな懸念にトランプ氏は答えない。

 不動産などの自分の事業は2人の息子に引き継ぐという。だが、親族への委譲で利益相反を回避できるか、疑念が残る。

 記者会見で浮き彫りになったのは、説明責任を果たさず、政治倫理に無頓着なまま、「自分」にとって得か損かを基準にするトランプ氏の考え方だ。そんな「自分第一主義」からの決別を促すために、議会やメディアが果たすべき責任は重い。