仕手株でつくった借金600万円

バブルが崩壊した1992年、業界3位の証券会社に入社した小泉秀希氏は、営業マンとして顧客に銘柄を勧めながら、自分でもせっせと株を買っていた。

「当時は1000株単位の銘柄がほとんどで、新入社員の給料で買えるものといえば株価数十~百数十円のボロ株ばかりでした。それを“情報”を頼りに買っていたわけです。当時は皆、そうしてたんですよ」

小泉秀希氏●東京大学卒業後、日興証券(現・SMB C日興証券)などを経て1999年より株式・金融ライターに。『めちゃくちゃ売れてる株の雑誌ZAiが作った株入門』ほか株式投資関連の著書は、累計100万部以上。

“情報”とは、どの筋が仕込んだ仕掛けたといった、いわゆる「仕手情報」だ。インターネットのない時代、個人投資家はそうした話題を目の色を変えて追っていた。証券会社の営業マンは、情報を提供する側だったが、「身内から騙される世界なんです。知識も経験もスゴそうな上司や先輩に『次はこれがくるよ』なんて教えられると『そうなのか!』と。それをせっせと自分の顧客にも伝えていたわけです。それでたまに儲かるんですが、最後は一発ドカンとヤラれて大損……その繰り返しでした」

仕手株の世界にすっかりハマり、いつしか借金をして株を買うように。社内融資制度、銀行、消費者金融、最後はカードローンまで。なまじ大手の企業に勤めていたので属性はよく、どこでも簡単に融資が下りた。

「結局、仕事のあり方に疑問を感じて、証券会社は辞めました。営業マンなんて使い捨てが当たり前で、すっかり消耗してしまって……。同期はすでに全員退社していました」

知り合いの仕事を手伝うなどして食いつなぎながら、株式投資の世界にはさらにのめり込んでいった。だが手法は相変わらず仕手情報が頼りで、儲かっても倍返しで損させられることの繰り返し。借金は600万円近くにも上っていた。