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2017-01-12

[]Kindle Unlimitedで読んだ本まとめ

Amazon.co.jp: Kindle Unlimited - 本、コミック、雑誌が読み放題。

改めて説明するまでもないだろうが、Kindle unlimitedとは、Amazonが提供する電子書籍の定額読み放題サービスである。対象となるタイトルは限られているが、それでも「好きな本を好きなだけ」という謳い文句には惹かれてしまう人が多いだろう。

しかも、最初の30日間はお試し期間として無料で利用することができる。このお試しには、日数以外の機能制限は特にないし、無料期間内での解約も可能(解約の時期にかかわらず30日分は利用できる)。もはや登録しない理由がない。

というわけで、ほぼ先月いっぱい、このKindle unlimitedを無料で使ってみた。その中で読んだ本を読んだ順番でざっとまとめておく。

(※ここで挙げるタイトルはあくまで自分が読んだ時点ではKindle unlimitedの対象に含まれていたものなので注意)

Amazon.co.jp ヘルプ: Kindle Unlimitedについて

Kindle Unlimited対象タイトルは随時変わる場合があります。既にご利用を開始されたタイトルは、ご利用を終了するまで引き続きお読みいただけます。



秋田禎信魔術士オーフェンはぐれ旅 新シリーズ」

かつて富士見ファンタジア文庫で一時代を築いた「ハイブリッド・ファンタジー」ラノベの続編。前作完結の直後(後日談)〜23年後が舞台となり、登場人物も前作キャラとその子供などの次世代が入り混じっている。あらすじは、説明が難しいが、前作も今作も魔術士・魔術戦士が世界を危機から救う話ではある(嘘はついてない)

このシリーズの、本編8冊が丸ごと読み放題の対象である(番外編の二冊はそもそも電子版が無いらしい)。完結済みとはいえ、つい数年前の作品の扱いとしてはこれだけでもずいぶん太っ腹だが、これに加えて、旧シリーズの「はぐれ旅」(本編)と「無謀編」(番外編)の新装版も全て読み放題となっている。つまり、Kindle unlimitedを使えば、「オーフェン」という作品のほぼ全容を一度にまとめて把握可能ということだ。お得。

主人公である魔術士の青年オーフェンを中心に他の登場人物の視点を適宜取り入れるという形だった前作と比較すると、今作はかなり明確に群像劇的な多視点の構成となっており、キャラクターの配置にしても、旧大陸新大陸大人/子供・若者、兄・姉/妹、など、様々な軸によって整理されている印象を受けた。つまりは、意外と読みやすい*1。それでも、シリアス真っ最中のとんでもないタイミングでとんでもないギャグを投入してきたりと、良くも悪くも正気を疑うような部分もあり、やはり油断はできない。

読んだ理由としては、「わたしオーフェンとか富士見黄金期の世代だから最近のラノベのファンタジー(笑)は肌に合わないんだよね〜┐(´д`)┌」とか言う人々に対して、じゃあ当然新シリーズも読んでるんですよね?えっ?読んでないの*2!!!???と煽り倒したかった、という不純な動機が正直かなり大きい。残念ながら実際にこのフレーズが使える状況にはまだ遭遇していないが、その機会を静かに待ちたい。


秋津透魔獣戦士ルナ・ヴァルガー<1>誕生』(クリーク・アンド・リバー社)

帝国の侵略から自国を守るため巨大な魔獣(ヴァルガー)と一体化してしまった小国の公女、ルナの冒険を描くファンタジーラノベ。初出は80〜90年代のスニーカー文庫だが、電子版はクリーク・アンド・リバー社から出版されている。

「最近のラノベはエロばっかりで〜」「最近のラノベは漢字に変なルビを振り過ぎてもう小説の体を成してないから〜」といった無邪気な放言に対して性格の悪い人たちが「なるほど。ところでルナ・ヴァルガーって知ってる?(^^)」とにこやかに持ち出すことで有名。

エロに関しては、とりあえず1巻の中では、娼館で仲間の少女が客と激しくセックスしているところを覗き見していて火照ったルナの身体を使い魔のケモショタクンニして慰める、といった程度の可愛らしいものだったが、独特なルビの使いかたの方は、いま読んでみてもなお新鮮だった。なにせプロローグから、「異世界(こことはちがう)、異時間(いつか)、異空間(どこか)」「全世界征服(みーんなおれのもんじゃ)」といった表現が頻出するのだ。

巨大な魔獣、というのはもちろん怪獣(特撮)を意識したものだろうが*3、同時に、融合した主人公の意識がその肉体を制御するという点で、ファンタジーロボット作品的な側面もあるのではないか、と感じた。魔獣の側にも独立した意識があり、合体した人間の意識がそこに飲み込まれた際の暴走の危険が存在するあたりも、逆にロボットもの的な要素に思えてくるのは、エヴァ以後の時代から見ているせいだろうか。

このシリーズも、本編12巻と外伝1巻が全て読み放題対象となっている。余裕があれば読破したかったのだが、残念ながら今回は見送ることになった。


・境田吉孝『夏の終わりとリセット彼女』 (ガガガ文庫)

ネガティブな男子高校生と、交通事故に遭い記憶を失ったその交際相手との青春物語。

新人のデビュー作限定で「「質」を重視した選考」を行っているという、ライトノベルでは珍しい発表済み作品を対象とした賞である「ライトノベルフロントライン大賞」の第一回大賞受賞作ということで読んでみた。

「第1回ライトノベル・フロントライン大賞」発表!! | ライトノベル研究会

この賞は、毎年多数の作品が刊行されるライトノベルのなかから、ひとつでも多くの作品が読者の手に届き、ライトノベルを楽しむ機会が増えてくれたらという願いから創設されました。具体的には、既存の各種ランキングが取りこぼしがちな新人作家のデビュー作に注目し、商業成績に拠らず、作品としてのおもしろさをしっかり評価することを第一に考え、良質なライトノベルを再発見していきます。

ライトノベル・フロントライン1 | 青弓社

2014年の1年間に刊行された新人作家の新作を研究会会員が確認し、「質」を重視した選考を重ねて大賞候補作を選出。良質な作品を大賞として、エッジの効いた作品を特別賞として紹介する。

うーん……


赤城大空下ネタという概念が存在しない退屈な世界』(ガガガ文庫)

行き過ぎた表現規制の結果、正しい性教育すら行われなくなった日本で、「下ネタテロ」により社会を変革しようと奔走する高校生たちの物語。

面白い。いや、アニメ化済みの有名作品だし、あらすじからして面白そうだとは思っていたのだが、想像以上に面白かった。「一日に三分間だけ自由に禁止用語(下ネタ)が言える携帯電話」なんていう脳のどこを刺激したらこんなものが出てくるのかというクソ下らない(褒めてる)発想があるかと思えば、性に関する知識を持たないために「下ネタ」自体を認識できない若者など、異常な近未来社会が自然な(それだけに恐怖すら感じさせる)形で描かれている。作品の諸要素が一つの大きな設定の元に美しく統合されており、非常によくできた、バカには書けないバカ小説だった(褒めている)


久美沙織丘の家のミッキー 1〜10』(クリーク・アンド・リバー社)

名門の女子校、華雅学園の中等部に通う浅葉未来は、父親が勝手に決めた湘南への引っ越しと遠距離通学を禁止する校則のせいで、それまでの自分の常識からかけ離れた森戸南女学館に転校することになる。そこでの新たな友情や恋やヨットを描く青春小説

80年代のコバルト文庫*4の名作少女小説の電子版。出版元はクリーク・アンド・リバー社。これも、全10巻が読み放題対象。

6巻までの中学生編と、それ以降の高校生編に分かれており、あとがきによると作者としては本来、中学生編で完結のつもりだったようだ。

新たな親友となる西在家麗との交流など徐々に森戸南に馴染んでいく学校生活、香道の次期家元で麗の兄であるイケメン朱海さんとの恋、麗と朱海さんとその友人達とのヨット練習、この三つが軸になって、それなりにまとまっている中学生編と比べると、作者自身も認めているが高校生編はかなり混沌としている。(少女小説)作家論、(新興)宗教、暴走族、暴力団レイプ未遂)などの要素が、あまり整理されないまま詰め込まれている印象を受けた。いずれも青春小説としてはそんなに異常なものでもないが、それまでの作品の流れの中で見るとやはり違和感が……

しかし、キャラクターだけでなく作家自身の迷いすら刻印されたライブ感という意味では、青春小説のあり方のひとつとして正しいのかもしれない?日本よ、これが80年代だ(あまり真に受けないでください)


川岸殴魚『人生 』(ガガガ文庫)

新聞部に寄せられた人生相談に、文系・理系・体育会系の三人の女子が答えを出す日常系ラノベ

文系のイメージが「三国志戦国武将好き」というのはどうなんだろうか。


ベニー松山『風よ。龍に届いているか』 (幻想迷宮ノベル)

3DダンジョンRPGの古典的名作、Wizardryの三作目「Legacy of Llylgamyn(リルガミンの遺産)」のノベライズ*5の電子版。94年に雑誌連載をまとめる形で単行本が出版されている。同作者による初代wizノベライズ『隣り合わせの灰と青春』及び世界観を共有する短編の「不死王」も、幻想迷宮書店から電子版が出版されており、全てKindle unlimited対象。『灰と青春』だけは以前に物理書籍で読んでいて、こちらも気になっていたのでこの機会に手を出してみた。

『灰と青春』同様、(RPG的な意味での)職業・転職や、善・悪・中立の性格(小説中では「戒律」)の概念などをそのままに、原作ゲームの世界を小説の形に上手く落とし込んでいる。ただ、原作に存在する要素を解釈の範囲で膨らませるという方向性だった前作と比べると、冒険者の超人的な身体能力と魔法を駆使したロッククライミング描写など、よりオリジナル色が濃くなっている印象を受けた。


火浦功『昭和な街角 火浦功作品集』 (ミューノベル)

「書かない」ことが芸風のSF?作家の短編集。この本の中にも、未完作品や「書かない(書けない)」状況をネタにした作品が含まれている。何かと余裕の無い現代では、こういうタイプの不真面目さはどう受け取られるのだろうか。

こういう懐古的な姿勢はあんまり良くないとは思うのだが、ああ火浦功だなあという内容で安心して読むことができた。全体の半分ほどを占める中編「明るい世紀末のすごし方」が特に良い。ノスタルジーをテーマにした中編なのだが、発表された時期及び作品の舞台自体が88年で既にひと昔、ふた昔、みつ昔近く前だし、もっと言えば火浦功という作家自体がもはやノスタルジーの対象だし、初出から長期間寝かされたことで二重三重の「懐かしさ」という妙な味が出ている。いい意味で。

「妙なもんで、尾道なんかに来ると、『懐かしい』って感じがするんですよね。ほら、こーゆー写真とか見てても、知ってるはずはない街並みなのに、なんか昔、自分が住んでたような……そんな気分がするんです」

余談だが、前述の『丘の家のミッキー』には「妃卵羅香(ひうらこう)」という架空の聞香が登場する。


黒史郎『未完少女ラヴクラフト 2』 (スマッシュ文庫)

ラブクラフト美少女化幻想ラノベ第二弾。今度はアンブローズ・ビアスを毒舌ショタ化(自分が実際に読んだことがあるのは『悪魔の辞典』ぐらい)。この巻で打ち切りだが、タイトルがタイトルだけに予定調和とも言える。

主な舞台となる異世界、スウシャイはラブクラフト作品に限らず現実世界(厳密には異なるが)で語られた物語の集合であり、そこに現れる人や神や物や事件には、現代のエンターテイメント小説から神話まで、幅広いフィクションが背景として存在している。最近のラノベラノベしか読んでない作家が書いてるから教養が感じられなくて〜といった発言を見ると、君の頭を開いて教養が詰まってるか確かめてみようと言いたくなるが、それはそれとして個人的な好みとしては、こういう教養で容赦なくぶん殴ってくるタイプの作風に本当に弱い。Kindleで読むと注が多すぎて、本文との往復が面倒になるぐらいだ。


赤城大空『二度めの夏、二度と会えない君』(ガガガ文庫

病死したバンド仲間の少女へ、死の間際に告白してしまったことを後悔している男子高校生が、なぜか巻き戻った時間の中で「告白“しない”」ためにもう一度出会いからやり直すタイムリープ青春小説

うん。そうそう。同じガガガの青春ものでも、こういうのなら分かる。こちらはデビュー済み作家の作品なのでそもそも対象にはならないが。

ストレートさ自体は気持ちがいいが、素直に読むと本当にただやり直すだけで構成がややシンプル過ぎる。一応、実はこういうことなのではないか、という個人的な解釈*6があるにはあるが、確証はない。

下セカと同じ作者の作品であり、あの人がこんな作品をとギャップに驚く声もあるようだが、バンドやるのも下ネタテロやるのも、パワフルなヒロインに引きずられて仲間と騒ぎながら駆け抜ける青春という意味では似たようなものかもしれない。


・手代木正太郎『魔法医師の診療記録』(ガガガ文庫

通常の医術では対処できない「妖病」を魔法医術で治療する魔法医師。魔法医師の少女クリミアは、かつて自分が行った魔法医術によって特異な妖病を背負うことになった幼なじみヴィクターを治療するすべを求めて、彼と共に旅を続ける。魔法医術を異端として弾圧する教会の手を逃れながら。

戦国時代風の世界に宇宙から降り立った「王子」の活躍を描いた異色のファンタジー『王子降臨』でデビューした手代木正太郎の二つ目となるシリーズ。舞台を近代ヨーロッパ風世界に移し医療ファンタジーというジャンルで心機……あんまり一転してない!今作でもやはり、特殊な技能・体質を持った超人達による(山田風太郎リスペクトな?)変態バトルが繰り広げられている。看護師であるヴィクターが修得している「看護柔術(アンフィバーリツ)」の名前と説明看護師・手技療法師として人体の構造に精通したナイチンゲールが編み出した護身術。三百通りの関節技と四百通りの投げ技を持つ)を見るだけで、作品の雰囲気の一端は感じ取れることだろう。

一方で、物語の構造としては時代劇めいた王道の勧善懲悪エンターテイメント(街を支配する邪悪な権力者、苦しめられる住人、流れ者の主人公たちが救いの手を差し伸べる)となっており、読み心地はすこぶる気持ちがいい(善人も景気よく死ぬが気にしてはいけない)


・助供珠樹『あの夏、最後に見た打ち上げ花火は』(ガガガ文庫

田舎町に住む男子中学生が夏休みに、突然町に現れた記憶喪失で白いワンピースが似合う少女と出会い、彼女に好意を抱きつつその謎を探っていく。SF青春小説

第2回ライトノベルフロントライン大賞の、やはり大賞受賞作ということで読んでみた。

うーん…………

このまま黙り込むのも気持ち悪いので少しだけ言わせてもらうが。

選評が載っている『ライトノベルフロントライン』を読んでいないので、実際にどういう点が重視されたのかは分からないが(「質を重視」は何も言っていないに等しい)、二つの大賞受賞作を見てみると、ハイコンテクスト過ぎない、あまりラノベラノベしていない、要は“オタクくさくない”作品を選ぼうとしているのかな、という印象は受ける。その上で言うと、この二作はジャンル的には一応この条件に当てはまってはいるのだが、それだけにむしろ、非ライトノベル的な観点から見た時の方が却って粗が目立つ作品なんじゃないか、と思える。特に『リセット彼女』の方は、外部から揶揄されがちな「饒舌で自意識過剰ラノベ主人公の一人称」の典型*7みたいな文章だし……

ライトノベルフロントライン大賞の今後の動向に注目したい。


若木未生ハイスクール・オーラバスター1 天使はうまく踊れない』(クリーク・アンド・リバー社)

高校生の崎谷亮介は、「見えるはずのない『なにか』」が見えてしまう特殊な感覚を持っていた。彼の前に現れた謎の転校生、水沢諒。警告を与える謎の美少女、冴子。そして遂に亮介を襲う異変。〈妖の者〉、〈空の者〉とは。

89年にコバルト文庫でスタートし、以後出版社・レーベルを移りながら20年以上継続している現代学園伝奇異能ファンタジーシリーズの、第一作の電子版。出版は例によってクリーク・アンド・リバー社。

謎の転校生に謎の美少女に謎の「術者」(能力者)と、「現代学園異能」という概念を結晶化したような作品だった。読んでみて意外だったのは、「オーラバスター」というのが「そげぶ」みたいなものだったこと(能力者の総称かと思っていた)


山本弘『BISビブリオバトル部1 翼を持つ少女 上 ・下』(創元SF文庫)

SFが好きで好きでSFの話をし出すと止まらない高校生、伏木空は、ノンフィクションにしか興味のない同級生の埋火武人から「ビブリオバトル部」に勧誘される。それぞれ得意分野を持つ個性豊かな部員たちによるビブリオバトル体験し、空は入部を決意する。だが、ビブリオバトル部に一つの事件が起ころうとしていた。

「どの本が一番読みたくなったか?」を基準にして本の紹介が評価される「知的書評合戦」ビブリオバトルを題材にした青春小説シリーズ一作目。これまで全くと言っていいほど知らなかったビブリオバトルについての情報は興味深いし、主人公の空が(空気を読まずに)語るSF薀蓄も楽しい。が、ひとつだけ気になる点があった。

下巻で、他校の生徒がほぼ悪役として登場するのだが、これが、作者が普段から批判しているようなある種の思想の持ち主たち……はっきり言うと、歴史修正主義ネトウヨなのだ。しかも相当に頭が悪い部類の。自分が作者自身の言動にある程度触れているから気になるのかもしれないが、これはさすがにちょっとなあと思ってしまった*8。作中で登場人物たちがメタ的な反省をするような部分もあるのだが、あくまでビブリオバトルを思想上の争いの場にしてしまったことへの反省に留まり、作者と敵対する思想を実にしょうもない悪役として描いたことへの反省ではない(当たり前だが)

現実においてなら、相手にも反論の機会がある限り(あくまで言論の範囲で)いくらでもボッコボコにして構わないと思うが、作者が絶対者として作中世界を自由にコントロールできるフィクションでは、何を批判するにせよ少し抑制をした方が物語として美しくなるのではないか、と自分は考えている。この基準は逆(フィクション自由、現実は控え目に)の人間もいるかもしれないので難しいところだ。


川岸殴魚『やむなく覚醒!! 邪神大沼』(ガガガ文庫

自分では普通の人間だと思っていた高校生、大沼貴幸は、ある時『初心者らくらく邪神マニュアル+スターターキット』を手に入れ、邪神として生きることになる。脱力系ギャグシリーズ一作目。


長谷敏司『ストライクフォール』 (ガガガ文庫)


地球外の存在からもたらされた技術を遠因とする宇宙戦争。その果てに生まれた新たな競技、ストライクフォール。宇宙空間で人型の機体によるチームを組み、敵リーダーの撃破を勝利条件とする擬似戦争である。ストライクフォールの若きプロ選手を双子の弟に持つ鷹森雄星は、自身もまたその舞台に立つことを目指していた。

ストライクフォールという競技を成立させるための技術として、オーバーロード(幼年期のほう)的な存在が人間に与えた「万能の泥」とそれによって生まれた「チル・ウェポン」という様々な装置が登場する。作者自身は本作を指して「宇宙ガルパン」と言っていたらしいが、兵器による架空の集団競技という点は当然として、このチル・ウェポンとガルパンの「特殊なカーボン」の類似(説明不要・不能のオーバーテクノロジー)も指しているのだろうか。


・青崎有吾『体育館の殺人 』(創元推理文庫

密室状態の体育館で起こった殺人事件。卓球部員の柚乃は部長にかけられた疑いを晴らすため、学校一の天才と噂される謎の人物、裏染天馬に事件の解明を依頼する。

学園ミステリ。学園ミステリといえば、別にミステリとして薄いわけではないが、思春期の悩みなどのドラマも盛り込んだ青春小説としての側面も強いものが多い印象がある。そういう偏見を持っていたため、この作品のシンプルさには少々驚いた。本当に、殺人事件を推理する、という点に的が絞られていて、推理の対象となる事件も最初のひとつだけ。アニオタでなぜか学校に「住んでいる」変人という探偵役のキャラ立てぐらいはあるものの、少なくともこの作品内ではそれが何か深刻な物語に発展することはない*9。その探偵役が捜査に乗り出す動機も「金」という潔さ。いっそストイックなミステリと言っていいだろう。


鏡明『不確定世界の探偵物語』 (創元SF文庫)

世界で唯一のタイムマシン大富豪エドワード・ ブライスが独占し、彼の手で過去が改変されることで日常的に様々な変化が起こる未来世界。私立探偵であるノーマン・ギブスンはある時、ブライスからの依頼を受けることになる。

SFハードボイルドミステリ?連作短編。タイムマシンによる過去の改変、というのはもはや説明不要の一般的なアイディアだが、この作品では、改変される前の過去を改変後の世界の人間がある程度覚えている(こともある)、という点に特徴がある。基本的に改変を行なった当人以外は世界の変化を認識できないというのが、時間SFでは一般的だし理に適ってもいると思うのだが、はっきりとした理屈のない曖昧でSFとしては「不純」な本作の設定が、変化し続ける世界でのアイデンティティクライシスや、神のごとき存在として世界に君臨するブライスへの憎しみなど、物語の生まれる源になっているのがおもしろい。


山本弘『MM9』(創元SF文庫

怪獣が一般に認知され、台風地震などと同じく災害として扱われている世界。生物学宇宙物理学民俗学など各分野の専門家が集められた気象庁の怪獣対策部署である特異生物対策部、通称「気特対」は日々、怪獣災害に対し懸命の活動を続けていた。

怪獣SF連作短編。こちらが先行作品だが、様々なエキスパートが協力して怪獣への有効な対策を模索する、という点で、『シン・ゴジラ』を観た後の脳には非常によく馴染む。恐らくは過去の怪獣(特撮)作品へのオマージュが大量に盛り込まれているのだろう*10とは感じたが、そこは分からなくても架空の職業ものとして十分楽しめる内容だった。



最後に追加で、


・多数のメガストアコミックス、二次元ドリームコミックス、リアルドリーム文庫

はてなではアダルト商品の紹介が規約で禁止されているらしいので、具体的なタイトルは挙げることができない。



以上、自分が読んだ本を並べてみたわけだが、これを踏まえてKindle unlimited無料体験の感想を述べる。

ライトノベルについては、とにかくガガガ文庫が強い。もちろん全てではないが、大体のシリーズ作品の1巻目と、多くの単発作品が読み放題対象となっている。特に後者は単発ラノベ好きには嬉しい。

……と、思ったのだが、いま確認してみたところかなりの数の単発作品が既に対象外となっているようだ。自分が読んだ作品である『夏の終わりとリセット彼女』『二度めの夏、二度と会えない君』『あの夏、最後に見た打ち上げ花火は』は全滅。残念。スクールカーストとイジメとセックスとドラッグとバイオレンス(ほぼ未読なのでやや適当)で一部から人気の高いらしい江波光則作品なども、一度は読み放題だったように思ったのだが。

(シリーズ1巻目であるこれだけはまだ読み放題のようだ)

まあ、オーフェンとルナ・ヴァルガーと丘の家のミッキーがあれば、それだけで少なくとも無料体験の30日分はラノベに困ることはないだろうが*11

ラノベ以外の小説では、創元SF/推理文庫がおすすめ。ラインナップがそれなりに豊富。ガガガ(ラノベ)同様に、「シリーズ一作目」だけをお試しとして、という手法が使いやすいジャンルだからだろうか。


そして、アダルトに関して(だけ)は、小説にしろ漫画にしろとにかくとにかくとにかく充実している。

というのが、自分が触れた範囲でのKindle unlimitedの印象だ。対象作品の偏りは非常に大きいし、毎月有料でとなると尻込みしてしまうが、無料で一ヶ月だけなら、たいへん素晴らしいサービスと言えるのではないだろうか。いずれも既に色々なところで言われているような話ではあるが、実際の体験者の声の一つとして、Kindle unlimitedの利用を検討している方々の参考に少しでもなれば幸いだ。



(ほしいものリスト)

http://www.amazon.co.jp/registry/wishlist/9S6BGQY6R7A2

*1:なんだか自分は秋田禎信の近作を読むたびに「読みやすい」と言ってる気がするが、それだけ富士見ファンタジア時代の秋田作品が独特だったのだと思っていただきたい

*2:こういう人たちは新シリーズの存在自体を知らないこともしばしばある。

*3:ルナが融合した魔獣は直立したトカゲの姿だが、恐竜というよりゴジラを連想してしまう。

*4:正しくは「集英社文庫コバルトシリーズ」らしい。

*5:部分的に、原作ゲーム二作目「Knight of Diamonds (ダイヤモンドの騎士)」の要素も含んでいる。

*6http://bookmeter.com/cmt/61109455?ignore_iネタバレ注意)

*7:こういった文体が実際にラノベに多いかどうかは別の話。

*8:似たような姿勢で書かれた作品に芦辺拓ミステリ『綺想宮殺人事件』があるが、「悪役」のほとんどが不細工に設定されているこれに比べると、敵のリーダーをイケメンにしている分、山本弘の方がまだ正気だと言える。

*9:シリーズなので、これ以後に大きな展開があるのかもしれない。

*10:自分が分かったのは「科特隊」→「気特対」ぐらい。

*11:丘ミキ(コバルト)をラノベに含むか否か、という面倒くさい話はひとまず勘弁してもらいたい。

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