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【コラム】

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 一九三九年の八月二十九日、英紙デーリー・テレグラフは一面で、特ダネを伝えた。<戦車千両がポーランド国境に集結/十師団が急襲の構え>。その三日後、ドイツ軍のポーランド侵攻で第二次世界大戦は勃発した▼テレグラフ紙に「世紀の特ダネ」をもたらしたのは、記者になって一週間もたっていない二十七歳の新人クレア・ホリングワースさんだった。外交官の車を使って国境地帯に入り込み、ドイツ軍がひそかに進めていた開戦の準備を見事、暴露したのだ▼以来、戦場から戦場へと歩き、国際政治の内幕に迫り続けた。年老いてからも、すぐに飛び出せるよう、手の届くところにパスポートがあることを確かめてから、眠りに落ちたという▼彼女が初めて戦争を目にしたのは、第一次世界大戦中だった四歳の時。ドイツ軍が故郷の近くの町を空爆した。それから、おととい百五歳で逝去するまで「戦争の世紀」に目を凝らそうとし続けた▼昨年十月の誕生日、クレアさんは見知らぬ女性からお祝いを受け取ったという。それは、記者になる前にポーランドで取り組んでいた難民救済活動で命を救われた少女からの、お礼の言葉だった▼クレアさんらの奔走で助けられた人は、三千人ともいわれる。この事実こそ長く伝えるべき「世紀の特ダネ」だろうが、救えなかった多くの命を思ってか、多くを語らなかったそうだ。

 

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