やむを得ぬ対応だが、日韓関係が再び悪化する懸念は拭えない。釜山の日本総領事館前に慰安婦を象徴する少女像が設置されたことを受け、日本政府が駐韓大使の一時帰国やハイレベル経済協議の延期などの対抗措置をとった。
政府が厳しく対処したのは、放置しておけば既成事実化される恐れがあるからだろう。また、日韓が一昨年末に「最終的かつ不可逆的な解決」で合意した慰安婦問題が蒸し返されないよう、警鐘を鳴らす意味合いも大きいようだ。
韓国政府はこの合意でソウルの日本大使館前の少女像の撤去を求める日本側に配慮し、「解決に向けた努力」を約束した。そのさなかに今度は、釜山の総領事館前にも像が設置されたわけだ。たとえ朴槿恵(パク・クネ)大統領が職務停止中でも韓国政府が主導して市民団体などを説得し、撤去への努力を重ねるのが筋だろう。
韓国では日本の対抗措置への反発が強まり、野党勢力を中心に慰安婦問題を含めた日韓合意をほごにすべきだと主張する声も出ている。だが、ここは日韓ともに感情論に走らず、冷静に対応したい。
日韓の首脳外交は、韓国で新しい指導者が選ばれるまで機能しない。この間は、互いの利害が一致する政策にまで悪影響が及ばないようにする努力が最低限必要だ。
そのひとつが北朝鮮の脅威への対処だ。北朝鮮が日韓を射程に入れた核ミサイルを配備するのは時間の問題とされる。そんなときに日韓のパイプが細り、日米韓の協力が滞れば、北東アジアの安定にも影を落とす。日本としても慰安婦問題と切り離し、韓国との安全保障協力を深めていくべきだ。
米国ではトランプ政権が20日に発足する。選挙期間中、日韓との同盟を軽視する発言をしたトランプ氏に同盟重視を働きかけるうえでも、日韓の結束が不可欠だ。
経済協力も同様だ。日本政府は今回、金融危機の際に外貨を融通し合う通貨交換(スワップ)協定の再開協議の中断も決めたが、妥当な決定か、疑問は残る。