政府が「同一労働同一賃金」のガイドライン(指針)案を示した。賃金や福利厚生など約20種類の待遇について、「問題となる例」や「ならない例」を具体的に挙げたのが特徴だ。

 例えば、仕事の内容や成果とは無関係な通勤手当などは、非正社員も正社員も同様に支払わなければならないと明記した。賞与についても、会社の業績への貢献度などに応じて非正社員にも支払うこととしている。

 いまの関連法にも不合理な待遇差などを禁じる規定はあるが、どのような場合が問題となるのか、必ずしもはっきりしない。具体例を通じて改善を促したことは一歩前進だ。

 これを肉付けし、実効性を伴う仕組みを作っていけるかどうか。民間と政府、双方の取り組みにかかっている。

 まずは個々の会社の労使で、指針案を足がかりに非正社員の待遇改善について話し合いを進めてほしい。

 今回取り上げられたのは限られた事例に過ぎない。退職金の扱いや、裁判で争われている定年後の再雇用者と正社員の賃金差などについては、判断が示されていない。

 企業ごとに積み上げてきた合意や慣習があり、待遇の仕組みもさまざまだろう。個別の検討をさらに積み重ね、指針案を深化させる基礎としていきたい。

 同時に、指針案を働く側にとって実際の格差是正に役立つものにしていく工夫も必要だ。そのためには、政府が今後進める関連法の改正作業が大事になる。

 例えば、自分の待遇は妥当なのかどうか、指針案に照らして働き手が見極めようにも、待遇差がどのような理由によるのかが分からなければ判断のしようがない。労働側は、待遇差をつける根拠を働き手らに説明する使用者の責任を強化するよう求めている。

 情報の少なさは、労働者が裁判を起こすハードルの高さにもつながる。安倍政権は、昨年6月に閣議決定した1億総活躍プランで「待遇差に関する事業者の説明責任の整備」を検討課題にあげた。前向きに取り組むべきだ。

 大事なことは、非正社員の底上げにつなげられるかどうかだ。経営側には人件費が増えることへの懸念が根強いが、正社員の待遇を引き下げる形の「同一」は、改革の趣旨に反する。

 首相は、格差是正が働く人のやる気を引き出し、生産性向上にもつながるとして、経営者に理解を求めてきた。官民そろってその考え方を貫いてほしい。