田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)
この記事は、新年初笑いなのか?
そんな論説が1月4日の朝日新聞の一面に掲載された。題して「『経済成長』永遠なのか」(経済成長は永遠なのか 「この200年、むしろ例外」:朝日新聞デジタル)。執筆者は朝日新聞編集委員の原真人氏である。この論説はネットでも話題になったが、ひと段落ごとに突っ込みをいれたくなる発言が盛りだくさんで、なにも松の内からこんなにサービスしなくてもいいものを、と思うものだった。ただしサービスの内容はトンデモな経済認識のてんこ盛りだが。
記事全体は、論点が錯綜しているが、要するに、アベノミクスのうち金融政策批判と、それに連動した「経済成長神話」なるものへの批判である。批判ばかりだと申し訳ないと思ったのは、経済成長がなくても十分に幸福に生きられるよ、とでもいった経済観で締めくくっている。
経済成長自体に懐疑的になる立場は経済学の発祥とほぼ同じ段階で始まっていて、別にトンデモでもなんでもない。例えば19世紀初めのフランスの経済学者シスモンディは、富の追求自体ではなく、人間的価値を高める生活を希求し、当時のモノの豊かさだけを追い求める経済学のあり方に否定的だった。この話題についてはまたあとで考察する。
筆者がトンデモな経済認識だと思ったのは、論説の冒頭からいきなり出てくる。原氏は日本銀行が2016年1月に導入したマイナス金利政策について以下のように紹介し、アベノミクスの成長重視、デフレ脱却政策の「希望をくじいた」と主張している。
「いわばお金を預けたら利息をとられる異常な政策によって、人々がお金を使うようにせかす狙いだった」
このような記述が、日本を代表する新聞の一面で目にするのはきわめて驚くことである。なぜなら私たちが銀行に預金して、そこで利息をとられてはいないのが常識だからだ。日本銀行もこの種の誤解に対応するためにわかりやすいQ&Aを設けている。
「マイナス金利になると、私が銀行に預金しているお金も減ってしまうの?」
「マイナス金利といっても、銀行が日銀に預けているお金の一部をマイナスにするだけ。個人の預金は別の話です。」
「個人の預金金利はマイナスにはならない?」
「ヨーロッパでは日銀よりも大きなマイナス金利にしていますが、個人預金の金利はマイナスにはなっていません。」
常識的な観察でも私たちはマイナスの金利をとられていないし、そもそもマイナス金利政策は個人の預金をターゲットにしたものではないのだ。