配管に見えないところがあるのは自明で、しかも保温材が設置されていて配管を直接見ることができない。そのような配管に外観点検をするというのは、巡視点検程度の状態監視を行うことと考え、保温材の外から視認可能な範囲で目視点検を行うこととして実施したとのことであるが、目視可能範囲の外観点検は、主に人的要因の外力による保温材上の変形を確認するため、(歩廊等から)見える範囲・方向の確認を行ない、高所の配管は配管下から確認するか、歩廊上から配管上側や側面から目視点検(VT)を実施したところ、目視点検一式と書いてあるから、全部を見ること、やっていなければ保安規定違反だと判定された。1万件の未点検箇所は、その後、一旦は解消されているが、また三か月後に規制庁が検査に来て、未点検箇所が数千件となってしまうのである。

 このような検査がどのように安全上寄与するかというと、むしろ状態監視に必要な漏洩検知の電極や、ナトリウムの水分との反応生成物を検出するサンプリング配管の機能検査や、炉内点検機器のゴムの劣化などが、より重要と思う。一目で分かる配管構造物の損傷に6万件の書類を作らせることよりも、もっと安全上重要な検査を優先すべきである。この膨大な書類検査によって、本質的な問題点を炙り出す本来の保全プログラムを阻害している。安全文化の検証には、規制庁全体の保全プログラムの実施が最も有効と思う。状態監視保全、傾向監視保全、365日に亘って緻密に実施されるオンラインメンテナンスは欧米では当たりまえのように実施されている。旧態依然とした我が国の検査精度、書類ばかり作成される形式主義の品質保証(QMS)精度は、抜本的に見直すべきと思う。

 規制委員会発足後、規制委員は、だれ1人、もんじゅの格納容器や補助建屋内の機器や配管をご視察されていない。そして、レッドカードが出されている。これでは、規制庁の検査プロセスのQMSが必要だと思う。米国原子力規制委員会(NRC)には、NRCを監視する組織があるのに、規制委員会・規制庁には、それが無い。保安規定違反の報告書を第3者組織が、全て、精査すべきと思う。海外の専門機関に依頼しても良いと思う。

 数千件の未点検箇所が国際的な規制の考え方で、本当に妥当で、安全上重要なものに関係しているのであろうか。IAEAの規制レビューサービス(IRRS)では、規制委員会の規制が、まだ発展途上である。規制の体系化・ドキュメント化ができていないと指摘されている。2時間かけてもんじゅのセル内を視察したが、太い配管の下をくぐり、ときには膝をついたり、腰を曲げて、ヘルメットが、サポートにぶつかってゴツゴツ音を立てながら移動して現場を確認した。床には塵1つ落ちていなかった。白い手袋も白いままであった。

 原子力規制委員会では、今年3月のIRRSの指摘や勧告を受けて、5月30日に「検査制度の見直しに関する検討チーム」の第1回会合を開催し、8月4日の第4回委員会では、検査制度見直しの基本的考え方が示された。さらに8月25日の第5回委員会で、検査制度の見直しに関する中間取りまとめ(案)が審議され、検査制度の方向性がほぼ定まった。ここに重要な方針が示されている。

 「規制機関は、事業者の保安活動全般を包括的に監視して、その実態を把握し、事業者が的確に改善点を抽出し、改善活動を安全性の向上に結びつけていることについて評価していく。また、監視・評価の結果、規制基準への適合性が十分確認されていない等、保安活動に不十分な点が見つかった場合は、不適合、違反の是正の実現に留まらず、事業者の保安活動が改善され、より高い安全確保の水準が実現するよう促していく」とあり、国際的にみても、西川知事がおっしゃる、もんじゅに対する優しさ、安全性向上を促す規制が欠けているのである。

 30年、40年と時間と国費を投入されて開発されてきたもんじゅ、それを規制委員長の判断だけで、廃炉に追い込むことは、技術立国日本の根幹に係わることで、許されることではない。我が国全体の原子力の専門家と行政や政府が一体となって、もんじゅや核燃料サイクルの未来をしっかり議論すべきである。「文殊の知恵」が今こそ必要とされている。