格納容器内には、炉心真上の回転プラグ、燃料交換機などが一望できる。中間熱交換器室、循環ポンプ室、セル内には熱応力を逃げるためにタコベントのように曲がりくねって引き回された配管と、それを支持する堅牢なV字型サポートや熱膨張を避けて耐震サポートとなるメカスナッバーやオイルスナッバーなどが取り付けられ、分厚い保温材とラッキングが被された配管は、内部に漏えい検出器の電極や、ナトリウム漏洩の際に生じる気体を吸引して漏えいを検知する系統、ナトリウムが凍結しないように加熱するおびただしい電気ヒータや熱電対などが整然として取り付けられていた。

 補助建物内の蒸気発生器(エバポレータと過熱器)も含め、プラント内には塵ひとつ落ちていません。とても20年間経ったプラントとは思えない。世界中の約百基のプラントを見ているが、メンテナンス状況は、運転中の軽水炉と比較して、決して遜色がない。保安規定違反とされた、保安規定対象外の監視カメラ180台も新品に取り換えられていた。中央制御室もガラス越しに見ましたが、中操の人たちは、真剣にプラントの状況を把握して働いていらした。

 メーカの技術者で、開発当初から高速炉をやっていた方は、もうほとんど退職するか異動になっている。初期の方々の大部分は引き上げて、もうもんじゅにはおられないのだが、現在も技術を引き継いた、メーカや電力会社からの出向者の方と共に機構の方がおもりをしている。もんじゅは当初、機構と電力の方が各50%ずつで運営されていたが、現在は40%の機構の方と10%強の電力出向者、残りは数年で交代するメーカや、もんじゅを支える地元企業等で運営されている。30年前のもんじゅ建設当時からもんじゅに関わり、プラント全体を熟知された方は、もう極くわずかである。それでも、新人を採用し、2直、5班で、運転を経験させてプラント全体系統を理解させて、それから保全活動に就くようにして人材育成をしている。もんじゅのプラントとしての運営自体は、他の組織を持って代えがたい。

 仮に、今から次世代高速炉の設計をして20年後に建設できたとしても、その新鋭設備の運転保守ができなければ、現在と同じことが繰り返されるだけである。新設の高速炉を設計して建設するには、コストも1兆円以上かかる。現在のもんじゅを廃炉にするとナトリウムを使った原子炉なので、おそらく数千億円かかる。つまり、1兆数千億円かかることになり、「現時点で、そんな大金をはたいてまで、高速炉を開発する意味はあるのか」という主張が出て、我が国の高速炉開発がとん挫してしまうことは、ちょっと考えれば、すぐわかることである。有馬委員会が作られて、熱心に活動されたが、具体的な組織のビジョンが描けていなければ、このような結果になることも、また当然である。

 さて、では、どうすればよいのか。私は、現在のもんじゅの運転の組織に加えて、機構の高速炉の研究者や管理部門やさらに退職したOBも加えて組織をしっかりし、20年間のもんじゅの事故やトラブル、運転保守の課題を、徹底的に調べ上げ、次の世代の教訓や次世代高速炉の設計上の留意点とすべきだと主張したい。これができなければ、田中委員長の勧告に応えたことにならない。20年後にまた同じことを繰り返すだけだ。

 歴史を紐解いてみよう。1995年のナトリウム漏えい事故であるが、これは熱電対という温度センサーを収めたステンレス製の鞘管が、流体の渦で共振して、その振動で折損し、その割れ目からナトリウムが漏えいしたのだ。専門的には、「流体弾性振動によるロックイン現象」と呼ぶ。次いで残念なのは、2010年に再稼働を始めた途端に、燃料を出し入れする大型円筒金具が落下したことだ。円筒内の平板金具が回転すると、吊り上げのための爪が外れてしまう構造上の問題と、5年で交換が必要な回り止めのゴムの劣化が原因であった。