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2016年10月19日(水)

映画「この世界の片隅に」 こめられた思い

和久田
「今年は、アニメ映画のヒットが話題になっていますが、新たな注目作が登場します。」

戦時中の広島と呉を舞台にした映画、「この世界の片隅に」。



1人の女性とその家族の、ささやかで幸せな暮らし。

それが戦火に飲み込まれてゆく様が描かれます。





インターネットで制作費を募るクラウドファンディングでは、国内映画の過去最高額を記録。

広島では映画を支援する会も結成され、多くの戦争体験者が制作に協力しました。
そして主人公の声を演じるのは、この人。

主人公の声をつとめる 女優 のんさん
「(オファーを受けて)すごくびっくりした。
原作を読んで、すごい作品だと思ったので、絶対やりたいと思った。」

和久田
「映画『この世界の片隅に』。
原作はこちらのマンガです。
発表されたのは平成21年。
その翌年から映画化に向けて動きだし、今年(2016年)、実に6年の制作期間を経て完成。
来月(11月)公開される予定です。」

阿部
「映画にこめられた思いをたどります。」

戦時下の暮らし描く アニメ映画「この世界の片隅に」

リポート:三宅佑治(おはよう日本)

先月(9月)行われた完成試写会。
監督と、声を担当したのんさん、そして原作者・こうの史代さんが喜びを語りました。

原作者・マンガ家 こうの史代さん
「(制作を始めて)6年たちましたね。
夢のような、本当にできたなという気持ち。
本当に胸がいっぱいです。
ありがとうございます。」

 

主人公 すず
“ふつつか者ですが孝行致します。”



 

主人公は、広島市で育ち、呉市に嫁いだ女性、すず。

主人公 すず
“いわしの干物4匹で、一家4人の3食分。”



 

時は太平洋戦争末期。
東洋一と言われる軍港があった呉は、何度も激しい空襲に襲われます。

作品の特徴は、厳しい暮らしの中でも明るさを失わない、主人公・すずのキャラクター。





そして当時の庶民の暮らしぶりを丁寧に描いていることです。

アニメ映画で描く 戦時下の暮らし

原作者のこうのさんは広島出身の漫画家。
これまで、被爆者の戦後の人生を描いた作品などで高い評価を得てきました。

しかし、戦時中を描くのは今回が初めて。
きっかけは、呉に住み戦火を生き抜いた、亡き祖母への思いだったといいます。



 

原作者・マンガ家 こうの史代さん
「祖母からは、ちょっとだけ呉戦災の話は聞いたことがあった。
でも私は、あまりそれをまじめに聞いてこなかった。
祖母は亡くなって聞くことはできない。
そこらへんの後悔の念はあった。

祖父母とか、話をできなくなってしまった人々と、描くことで対話をしているような、そういう人たちのことを追いかけるように丁寧に描ければいいなと思った。」



 

「戦時中の庶民の暮らしはどんなものだったのか?」。
こうのさんは、国会図書館や郷土資料館で当時の雑誌や新聞を集め、家事の道具や服装の材質まで細かく調べました。




中でも興味を引いたのが、当時、お米を節約するために作られていた料理「楠公飯(なんこうめし)」。

こうのさんは、この料理を作品に登場させました。
もともと武将・楠木正成が非常食として考案したとされるもの。

玄米にたっぷり水を吸わせて炊くことで、ご飯の量が増えたように感じるといいます。




 

“けさはえろうご飯が多いのう、飯粒がふくらんでおる。”

すずは自信満々で振る舞いますが…。

やっぱり薄めた味しかしません。
懸命に工夫を重ねて、厳しい暮らしを生き抜こうとしたエピソードです。

原作者・マンガ家 こうの史代さん
「“昔の人は愚かだったから戦争してしまった。
そしてこんな(貧しい)生活に”と片づけられるが、彼らは彼らなりに工夫して、幸せに生きようとしたということを、この作品で追いかけてつかみたいと思った。」

 

主人公の声をつとめる 女優 のんさん
「すごく、日常とか普通の暮らしを大切に描いている作品だと思う。
戦争というのが降ってきて、だからこそ毎日を生活することがすばらしいと思える。
とてもいいテーマだなと思った。」

戦時下の広島描くアニメ映画 失われた街の再現に挑む

作品のもう1つの特徴、それは原爆や空襲で失われた広島と呉の当時の町並みを忠実に再現していることです。

その再現に力を尽くしたのが、原作に惚れ込み映画化を申し出た、監督の片渕須直さん。
片渕さんは宮崎駿さんのもとで腕を磨き、「魔女の宅急便」の演出補佐も担当。

海外での受賞歴も数多い実力派です。





片渕さんは映画化にあたって作品の舞台を正確に再現するため、東京から広島に何度も足を運び調査を続けてきました。




 

監督 片渕須直さん
「主人公のすずさんが、どのくらい自分で息づいて感じられるか。
(東京から)深夜バスで行って、広島に着いて呉まで行って、わっと見て、その日の深夜バスでまた東京帰ってきたり。
何回(行ったか)きりがない。」

片渕さんの熱意に動かされて、広島では市民が「映画を支援する会」を発足。




 

「ここの1番下、ここに座ってね。」

監督 片渕須直さん
「手すりに。」

戦争の体験者たちが、記憶を思い出しながら町の再現に協力してくれました。

原爆でほとんど消えてしまった広島中心部の町並み。
その貴重な写真を提供してくれた人もいました。





濵井徳三(はまい・とくそう)さん、82歳です。

爆心地に近い商店街で理髪店を営んでいた濵井さんの家族。
疎開していた徳三さんは助かりましたが、両親と兄弟は、いまだに骨すら見つかっていません。
その話を聞いた片渕さんは、単に町並みを再現するだけでは足りないのではと考えました。


 

監督 片渕須直さん
「そこに住んでいる方も全部含めて街なんだろうと思って。
“普通の人たちがここにいたんだな”と、(観客が)近いものとして感じることができるのでは。」


 

そして出来上がったのがこのシーン。
すずが広島の街へ買い物に出かける場面。
片渕さんは理髪店の建物だけでなく、濵井さんの家族の姿も描いたのです。

濵井徳三さん
「すごいね。
あれだけのものがよみがえってくるとは。
うれしかった、取り上げてもらうこと自体がね。」

 

監督 片渕須直さん
「これは自分の街だったと言う方がいて、それを描くのは覚悟がいることだと痛感しました。
単純に生々しいというだけではなくて、“そこにいた人の気持ちがわかる”と思ってもらえるものを画面に描こうと思った。」

映画「この世界の片隅に」 そのメッセージに迫る

“こっち来て見てみぃ。”

“なんじゃ、あの雲は。”

8月6日、広島に原爆が落とされます。

多くのものを奪った戦争とは、いったい何だったのか。

誰もが失意のどん底にあった広島の街。
それでも生きていく、すずたちの姿が描かれます。

原作者・マンガ家 こうの史代さん
「(私たちは)戦後に生まれたということは、戦争を生き延びた人からしか産まれていない。
そのことを誇りに思う。
そして敬意を表したい。
自分の知っているおじいさん、おばあさん、戦争を経験した方々、そういう人たちになぞらえて考えたり、戦争中のことを振り返っていただき、話をするきっかけになればいいと思う。」
 

阿部
「映画『この世界の片隅に』は、来月12日から全国で公開されます。」