作品のもう1つの特徴、それは原爆や空襲で失われた広島と呉の当時の町並みを忠実に再現していることです。
その再現に力を尽くしたのが、原作に惚れ込み映画化を申し出た、監督の片渕須直さん。
片渕さんは宮崎駿さんのもとで腕を磨き、「魔女の宅急便」の演出補佐も担当。
海外での受賞歴も数多い実力派です。
片渕さんは映画化にあたって作品の舞台を正確に再現するため、東京から広島に何度も足を運び調査を続けてきました。
監督 片渕須直さん
「主人公のすずさんが、どのくらい自分で息づいて感じられるか。
(東京から)深夜バスで行って、広島に着いて呉まで行って、わっと見て、その日の深夜バスでまた東京帰ってきたり。
何回(行ったか)きりがない。」
片渕さんの熱意に動かされて、広島では市民が「映画を支援する会」を発足。
「ここの1番下、ここに座ってね。」
監督 片渕須直さん
「手すりに。」
戦争の体験者たちが、記憶を思い出しながら町の再現に協力してくれました。
原爆でほとんど消えてしまった広島中心部の町並み。
その貴重な写真を提供してくれた人もいました。
濵井徳三(はまい・とくそう)さん、82歳です。
爆心地に近い商店街で理髪店を営んでいた濵井さんの家族。
疎開していた徳三さんは助かりましたが、両親と兄弟は、いまだに骨すら見つかっていません。
その話を聞いた片渕さんは、単に町並みを再現するだけでは足りないのではと考えました。
監督 片渕須直さん
「そこに住んでいる方も全部含めて街なんだろうと思って。
“普通の人たちがここにいたんだな”と、(観客が)近いものとして感じることができるのでは。」
そして出来上がったのがこのシーン。
すずが広島の街へ買い物に出かける場面。
片渕さんは理髪店の建物だけでなく、濵井さんの家族の姿も描いたのです。
濵井徳三さん
「すごいね。
あれだけのものがよみがえってくるとは。
うれしかった、取り上げてもらうこと自体がね。」
監督 片渕須直さん
「これは自分の街だったと言う方がいて、それを描くのは覚悟がいることだと痛感しました。
単純に生々しいというだけではなくて、“そこにいた人の気持ちがわかる”と思ってもらえるものを画面に描こうと思った。」