是枝監督、福山雅治と4年ぶりタッグ「また一緒に、という気持ちがあった」
歌手で俳優の福山雅治(47)が是枝裕和監督・脚本の最新作(タイトル未定、9月公開予定)で勝利至上主義の弁護士役に挑む。カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した「そして父になる」(13年)以来、4年ぶりのタッグ。弁護する殺人犯の真意に迫る中で、心揺さぶられる法廷心理サスペンス。是枝監督に今作について聞いた。
―企画意図を教えてください。
直近3作品は「そして父になる」(13年)、「海街diary」(15年)、「海よりもまだ深く」(16年)だった。「ホームドラマが続いたので、区切りを付けて違うジャンルにチャレンジしてみようと思いました」
―何かきっかけがあったか。
「具体的な事件があった訳ではありません。ホームドラマでは、グレーのグラデーションで人間描写することをやっていた。絶対的な悪、絶対的な善がないところで物語を作ろうと思っていた。ただ、法廷モノはジャッジが下る。多くの人は犯人が分かって一件落着―を期待してしまうと思う。果たして、そうじゃない法廷モノは可能なのか。自分が撮ってきた人間観と衝突するのか、成立するのか、を探ってみようと思った。そこからスタートしている」
―「弁護士VS殺人犯」という法廷心理サスペンスとは。
「いろいろな価値観があると思う。弁護士は減刑、依頼人の利益を優先する。減刑と依頼人の利益、真実という3つのモノがあるとすれば、どれを優先するのか―で、この2人は対立していく。今書いている本はそういう話です」
―脚本は完成したか。
「法廷モノは初めてで。初めてのチャレンジが多すぎて、(脚本が)今、何パーセントまで来ているか分からなくなった。前後編にはしませんよ(笑い)」
―福山雅治さんの起用理由を教えてください。
「また一緒に、という気持ちがあった。福山さんと何をやろうか。『そして父になる』では、オファーをいただいて成立しているので、今度は僕からオファーをしてみようかな、と」
―福山さんの反応は
「いくつか企画のキャッチボールはしていた。『是枝さんが一番やりたいものを』ということで、お引き受けいただいた」
―福山さんを想定して脚本を書いた部分はあるか。
「『そして父になる』を撮った時に思ったのは何かを『見てる』という画(え)、まなざしが強い人だと思った。その中でいろいろな感情が読み取れた。(今作では)黙っているシーンをどう魅力的に撮れるか」
―なぜ弁護士役をオファーしたか。
「弁護士はしゃべっている職業に見られがちだけど、むしろ、しゃべっていない彼を撮ってみたい。『目』が強いんです。彼の役者としての魅力を捉えて、どう引き出すか、を考えようと思う」
―期待する部分は
「動きの少ない中で、どのくらい繊細な表現ができるか―を探ってみたい。僕自身のキャリアにとってもそうなんだけど、今の福山さんの年齢、タイミングで『役所広司』とやるのは、この先の役者人生を考えた時にプラスになると思う。役所さんはそのぐらい大きな存在。役所さんとぶつかった時に、今までに見えなかった役者としての側面の扉が開くのでは、という期待をしています」
―その役所さんの役どころを教えてください。
「強盗殺人犯です。普通(の判例)でいくと、死刑判決が出るであろうことが想定される被告人になります」
―役所さんの起用理由は。
「去年(16年)、年賀状に『そろそろかな』と手書きで書いてあった。それで、そろそろなのかなと(笑い)。突然来たんです。そういうの(=縁)を大事にしようと思いました。演出家としては覚悟のいる役者。胸を借りるつもりで入っていただきました」
―顔合わせした時の2人の様子はどうでしたか。
「同郷(長崎県出身)なので、ずっとその話をされていた。読み始めたら、その場にいるスタッフの雰囲気がガラリと変わった。皆が面白がっていた。やって良かったと思った。みんなの期待に応えられる脚本を作らなきゃいけない、とめったに感じないプレッシャーを感じています」
―法廷の場面が多くなるのか。
「法廷と拘置所の接見室が、主な芝居の場所になる。難しいんです、人が動かないから。人が動かない中で何を動かすか、がすごく難しい。人を動かしながらしゃべらせることは、ホームドラマではやれていた。どう切り取っていくかですね」
―最後ににひと言。
「(検察、弁護士は事件を)見ていないのに、(被疑者の)『動機はこうだった』などの供述、証拠で真実を決めていく。見ていないのに、判決が出ることのある種の怖さというかな。身近なものとして、これも人間の営みなんです。そういう曖昧なものを抱えながら生きている。面白く書きます。いい作品にします」