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未来へ

(2)希望 音楽の力に託す

写真:コンサートのステージに立つYukari=2016年&12月、東京都新宿区、長島一浩撮影 拡大コンサートのステージに立つYukari=2016年&12月、東京都新宿区、長島一浩撮影

 ●避難先で生まれた歌熱唱 涙輝くまで/いわき出身のママシンガーYukari(44)

 ♪空に見える未来 何も見えない夜―。いわき市出身のシンガー・ソングライターYukari=本名・笹木ゆかりさん(44)=は大みそかから元旦にかけ、パリのモンマルトルにいた。

 2人の子どもを連れて原発事故から逃れてきた避難先での生活。その「手さぐりの暗闇」の中から生まれた、希望を紡ぐオリジナル曲「My Life」や「今でも」を熱唱した。1900年から続く老舗レストラン「ラ・クレマイエ」の200人超の聴衆の中からブラボーの声が飛んだ。

 ♪突然街を捨てるような出来事がOh 当たり前なんて無いと知った瞬間 空が赤く染まってゆく…。

 あの日から5年10カ月。震災前は地元・いわきのピアノバーで歌っていたシングルマザーは、自分自身が将来、華やかなパリのカフェやキャバレーで歌うなんて思ってもみなかった。しかも58基もの原発が国の総発電量の7割以上を支える「原子力大国」の首都で、原発事故の避難生活から生まれた歌を歌えるなんて。

 2014年にリヨン大の教員から歌の取材を受けた縁で、翌年の夏にフランスに招かれた。パリで歌うのは今回で4度目だ。毎回、いろいろな会場で司会者や主宰者が歌の背景を紹介してくれるので、日本語の歌詞でも共感し、涙を流す聴衆も多い。「これが音楽の力だ」と実感する。

 大みそかに伴奏したピアニスト、フィリップ・マルシャン氏(50)とは、あこがれのエディット・ピアフも歌ったシャンソニエ「ラパン・アジル」の舞台にも一緒に立てた。「フクシマの事故でフランスの世論も少しずつ変わりつつあるよ」「私たちも考えないとね」。公演後、Yukariの耳元でそっとささやいていく人もいる。

 JRいわき駅近くで生まれ育った。縁側で民謡を歌う祖母のひざの上で、歌うことの楽しさを覚えた。県立平商業高校時代は学校を抜け出しては海岸に行き、「ビートルズ」を聴いた。卒業後は東京で会社勤めをしつつ音楽事務所に所属、ポップス歌手をめざす。

 22歳の春、いわきに戻った。バーやレストラン、様々なイベントでジャズからボサノバ、日本歌謡も歌い、結婚して2人の娘に恵まれた。離婚も経験、子育てしながらのママシンガーとして自立の道を歩み始めたとき、東日本大震災に襲われた。

 停電、断水が続き、原発が爆発。避難指示は出ていないのに近所の人たちは次々と自主避難していく。迷っているときに「小学生の子がいるのに何をもたもたしているの」と友人からきつく言われた。

 5日後の2011年3月16日朝、子どもたちには3日分の着替えだけを持たせて東京に向かった。いわきでは15日に毎時23マイクロシーベルト超の放射線量を記録している。子どもの手を引き、給水車の列に並んだことは今も後悔している。

 避難先の都内のホテルでは「ママ、学校に行きたい」と言う娘たちを抱きしめるしかなかった。7月にようやく都心の借り上げ住宅に入居できた。通学できるようになっても、小3だった長女は「帰りたい」と泣き、一時的な失語症になった。

 年が明けても未来は見えず、悶々とする日が続いていた年夏、横浜での避難者の小さな集まりで歌ってほしいと頼まれ、「イマジン」を歌う。同じ境遇の母親がボロボロと泣いていた。「そうだ。私には歌がある。歌が役に立つんだ」と気づいた瞬間だった。

 帰りの電車の中、車窓を流れる街の明かりを見ながら様々な曲想がわいた。その後は曲想がわき上がるたびにスマホに詩とメロディーを吹き込み、完成したのが「My Life」。13年1月のことだった。

 避難指示区域ではない地域から避難してきた自分たちは、「自主避難者」と呼ばれる。Yukariはそんな自分のことをタンポポに例える。

 「いわきという、避難指示区域の少しだけ外側にいたタンポポ。だから自分で綿毛を飛ばしたんです。子どもを守るためにね」

 しかし、東京で暮らすYukariたちの耳に「もう安全だから帰れるだろ」「ふる里や親を捨ててきたのか」「戻って復興に協力したら?」などの言葉が届くたびに、傷つく。「誰も分かってくれない」と自暴自棄になる。でも「私には歌がある」と思う。

 いま中2になった長女は、保養キャンプで色紙に「みらいにかがやけ、ひとつの涙」と書いた。国や県が自分たちへの住宅支援を打ち切ろうとしていることへの不安も不信も深い。しかしYukariは、子どもたちのために、流した涙を輝かせる未来を、歌で残したいと考えている。(本田雅和)

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