はじめまして。本年より新たにケムステスタッフに加えて頂きましたgladsaxeといいます。
現在博士課程で天然物の全合成および医薬品を目指した薬理活性化合物の合成研究を行っております。
研究室に博士課程の学生が私しかいないためモチベーション維持と他の方との交流を深めるために応募し、スタッフとして採用されました。
さて、長々と自己紹介をしてしまいましたが、本題に移ります。
【本記事の内容については少し議論の余地がある点がありますので、すべてを鵜呑みにしないでください。後日もう少し手を加えます】
みなさんは粗生成物をカラムクロマトグラフィーで分離する際は、オープンカラム、フラッシュカラム、どちらをメインで行いますでしょうか?そもそもカラムクロマトグラフィーってなに?って方はこちら。
一般にシリカゲルの粒径を統一した場合、フラッシュカラムよりもオープンカラムの方がシリカゲルに吸着している時間が長くなるため、分離能が上がるといわれています(一方で、長時間おいておくと化合物が拡散するため分離能は落ちます)。
筆者はこれを逆利用することでオープンではなくフラッシュの方が分離しやすいカラム精製を行うこともあります(これに関しては別の機会に書かせて頂きます)。
重力陽圧(ほぼ無圧)のオープンカラム、積極的に陽圧下で行うフラッシュカラムがあるのであれば、陰圧下で行うカラムがあってもよいではありませんか。はい、あるのです。
それが、Vacuum Dry-Column Chromatography(VDCC)です。
まずは以下に特徴をお示しします。
利点
- 通常理論段数を上げることができないカラムクロマトグラフィーにおいて、PTLCなどの多段階上げと同様の理論段数の倍数化を行うことができるため、非常にスポットが近く分離困難な化合物でも分離できることがある
- チャージするガラスフィルターの長さや半径を調整することで、大量スケールにも対応する(筆者はTLC多段階上げでもスポット位置が一緒の2種の化合物がこれで分離できたことがあります)
欠点
- 装置を組むことが少し面倒であること
- 原理上非常に時間がかかること
- シリカを何度も乾かすため、湿式でのみ精製可能な化合物は扱えない
では実際にVDCCの行うにあたって操作方法や注意事項などを説明します。
装置

注意事項
- 使用するシリカゲルは通常用いているカラムのゲルよりもかなり粒径が小さいものを用いる
(筆者は45~75 μm粒径を使用していますが、その辺はいろいろ試してみて下さい) - 密閉系の中で陰圧となりガラスフィルターの足から溶液が落ちていく。
ダイアフラムポンプのoutから溶媒の蒸気が放出されるため、トラップ装置を組むないしはドラフトチャンバー内で行う - 陰圧であるため分液漏斗のコックはテフロン製のものがあればそれを、なければグリースを塗るとより安全(筆者は塗らずとも行うことができています)
- 陰圧にする際には必ず分液漏斗のコックを閉じておくこと
- 参考文献に記載がありますが、Rf値が0.15未満となるような展開溶媒を用いる
手順
- 装置を組んだら、ガラスフィルターに通常カラムする際と同じように海砂とゲルを積み、上からチャージする
- 分液漏斗のコックが閉じていることを確認し、ダイアフラムポンプのスイッチを入れる
- ゲルが完全に乾いていたら溶媒を入れる
- コックが閉じていることを確認し、ダイアフラムポンプのスイッチを入れる
- スイッチを切り、分液ロートのコックを開け溶液を落としTLCにてチェックする
(この際溶液濃度がかなり薄いことが考えられるため、何度も打つか濃縮してから打つ) - 3.~5.をカラム終了まで繰り返す
なお、受ける器具は図にも示してありますが、直接ナスに受けてそのままエバポレーターへ持って行くことが可能です。
一度貯めておきたい場合はマイヤーを用いるとよいと思います。
まとめ
以上、VDCCの基礎について記しましたがいかがでしたでしょうか。また応用編についても書けたらと思っております。
カラムクロマトグラフィーは展開溶媒、シリカゲルの性質、粒径、販売元、積む量やカラム径など様々な要素が絡む精製操作です。
記事1つでは書き切れないため、随時追加していけたらと思います。
参考文献
E. J. Leopold, J. Org. Chem., 1982, 47,4592. DOI: 10.1021/jo00144a042
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結晶性の高いものを掛けたら詰まりそうw