偶像ヒーロー(仮)
作者:のぴすけ
①『守沢千秋』
「・・・・はぁあ~~~・・・やっぱりかっこいい。」
六月号の夢ノ咲magazineの表紙を飾る彼に、あんずは見惚れていた。この日は帰り道にアニメ●トに寄ってこの本を買ってからというものの熱っぽいため息が絶えなかった。
赤のヒーロー衣装を身に纏い、屈託のない笑みを浮かべる彼の名は『守沢千秋』。あんずよりは一つ年上の夢ノ咲学院3年生だ。陰では熱量モンスターなどとも言われる超熱血少年であり、この無機質な紙からですら熱が伝わってくるような心地がする。
「この守沢先輩も守沢先輩だけど、あの守沢先輩も守沢先輩なんだな・・・。」
などと意味の分からないことを雑誌と脳内を行き来しながら呟くあんずは、傍から見ればかなりの変人であろう。だがそれほどに、4月からの夢ノ咲学院アイドル科の生徒たちとの生活は、彼女にとってまさに“夢”のようなものだった。
あれは今から丁度1年ほど前のことだっただろうか、彼がまだ“流星ブラック”だった時。あんずは、友達と喧嘩して熱の昇った頭を冷やすため、家の近くの公園へ立ち寄った。普段から寄るような場所ではなかったので何やらにぎやかな音楽が聞こえてくることに、彼女は疑問を浮かべた。
音源は公園に設置された小さなステージからで、ステージの前には瞳を輝かせた幼稚園から小学生ぐらいの子供たちが必至に、真剣に、目の前で繰り広げられるものについていっていた。
見たところ、これは小さなヒーローショウというやつだろう。出ている役者はおそらく素人。もちろん芸能に疎いあんずが知っているはずもなく、皆見たことの無い人たちだ。
だが、あんずはそのヒーローショウに魅入っていた。魅せられていた。多少拙いところがあれど、彼らは精一杯それを表現していた。中でも黒の戦隊服を着た茶髪の彼は、子供たちと同じ“色”の瞳を持っていて、目が離せなかった。
「燃えるハートの流星ブラック『守沢千秋』!!」
彼のどこまでも響く声があんずのすべてを震わせ、彼女の脳内を異なる温度に沸き立たせていた。
この回想は、あんずの脳内で幾回繰り返されたかは本人ですら数えられない。言ってしまえば、毎日のように思い出すことでもある。それからというも、毎週公園で開催されるヒーローショウに通い詰めていた。
高校2年生の春から、あんずは憧れの守沢千秋がいる夢ノ咲学院へと編入学し、今に至る。つまり毎日がパラダイスで天国なはずだった。しかし、新設のプロデュース科への編入になったあんずを待っていたのは、怒涛の忙しさである。
そんなあんずを癒してくれるのが、『守沢千秋』の存在だった。
「守沢先輩がいるから頑張れる、うん、頑張れる。」
プロデュースしている時は極力表に出さないようにしているせいか、千秋とは中々お近づきになれない。あんずにとって彼と同じ空気を吸うということだけでも、興奮で苦しくなるというのに、その気持ちを顔に出さないようにするだけでも甚大な労力だ。
「ふあ~~~やっと帰ってきた~!」
自室に戻ると、ひとまずベッドに飛び込んだ。部屋は見渡す限り流星隊グッズや守沢千秋のポスター。生粋の流星隊ファンのあんずが唯一プロデューサーではなく、“ファン”としていられる空間がここだ。
明日は流星隊のプロデュースか・・・
喜びと憂いが混じった感情になる。毎週火曜日はファンとしてのあんずとプロデューサーとしてのあんずの戦いだ。
②『火曜日』
「おはようございますッス!姉御!」
「わっ・・・おはよう鉄虎くん。」
敬礼の彼は八重歯をちらつかせた屈託のない笑顔で「はいッス!」と言ってつられて笑顔になる。朝から元気でよいことだ、と年寄りめいたことを呟くと後ろからなにやら熱風の気配がした。振り返るとトレーニングを兼ねて毎日走って登校の熱量モンスター『守沢千秋』だ。
「おはようあんず!今日も元気か?俺は今日も元気だぞ!」
「も、もももっ、守沢先輩!!!!おはようございままます!!!」
「お、おう?む、南雲もおはよう!今日は流星隊のプロデュースよろしく楽しむぞ!」
隊長は朝から熱いッスね~と呆れ顔の鉄虎と、後輩に煙たがれていても全く気にしない様子の千秋という光景は珍しくない。全く守沢千秋という男はこういう所が長所でも短所でもある。
あんずはというと、一番の憧れの人に朝から挨拶されては、目を回すのも無理なかった。頭は熱で沸騰しているし、脳内には「尊い」の二文字だ。
「姉御~?大丈夫ッスか?」
「わわっ!?ごめん、昇天しそうだった・・・。」
鉄虎の声にハッと目を覚ますと、千秋は既に校門まで走り去っていた。彼も忙しい人だ。走り去る彼の背中を見つめ、あんずは鉄虎とともに校舎の中まで入っていった。
「・・・・・ん~・・・・。」
待ち遠しい、放課後が実に待ち遠しい。コツコツコツと机にシャーペンでリズムを刻む。先生は普段から忙しく駆け回るあんずについては授業では厳しくすることがあまりなかった。それゆえにあんずも授業中に企画を考えることもあった。普通の高校生ならば授業に専念するのが基本だが、彼女は今プロデューサーとしての仕事がある。
しかし、火曜日のあんずの集中力のなさは異常だった。これは先生もさすがに目に余るようで名指しで「仕事もいいですが、授業にも集中してくださいね。」と嫌味が込められているだろう笑顔で言われた。隣の席の明星スバルも笑っている。後ろを振り返る氷鷹北斗もやれやれとでも言わんばかりだ。
「す、すみません・・・。」
肩を落としていると、スバルは「今日流星隊のユニット練だもんね~」と囁き声で言う。何を考えているかわからないような顔で、人の心を読むのはやめて欲しい。図星のあんずはすぐに顔を紅に染めた。
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