当時、私は約三年間在籍した
月収が10万にも満たない「超ブラック企業」を退職したばかりでした。
(早く新しい仕事を見つけなきゃ・・・)
そう焦る気持ちとは裏腹に
私の就活状況は「絶望的な状況」でした。

就職先が見つからなかった理由
理由・・・・それは
当時の私の経歴を見て頂ければ一目瞭然だと思います。
🔻コチラです。
地元の最低ランクの高校を卒業
警察官・・・・・・・・半年でクビ
アルバイト・・・・・・2年ちょい位
家具家(死後清掃業)・1年で退職※のち倒産
飛び込み営業の会社・・3年で退職
ご覧の有様です。
これはヒドイ

こんな「わけのわからない経歴の男」を雇う
「まともな会社」があるでしょうか?
今考えても・・・うーん、難しいように思えます。
(個人的な意見です)
しかし、就職活動をしないワケにはいきませんでした・・・。
ハローワークに行こう
当時、私の地元のハローワークは
常に「大混雑」でした。

不況の影響もあったのでしょうか?
駐車場も常に満車状態で、
「入る」だけでも一苦労でした・・・。
何とか車を停めて、ハローワークに入ろうとすると
入り口には「警察官」が数名立っています。

ナゼ警察官がいるのか?と言いますと・・・。
ハローワークで暴れる求職者がいるからです。
私も何度か、その現場に出くわした事があります。
酷かったモノを例にあげますが、
「話とちげぇじゃねえか!ふざけんなよ!」と
座っている椅子を職員の人に投げつけたり・・・・。

「オレの仕事を見つけるのがお前の仕事だろ!」
と職員の人に掴みかかったりしていました。

これは私の住んでいた田舎だけの話でしょうか?
とにかく、私が通っていたハローワークの治安は最悪でした。

もちろん私はハローワークで暴れたり、
暴言を吐いたりした事はありませんが・・・・
仕事が見つからず、
不安を抱えて
焦っている気持ちは・・十分に理解できました。
(自分も同じだ・・・・)

暴れたり、叫んだり、イライラしてる様子の
求職者たちの様子を見ながら、私はそう思っていました。
私もハローワークを通じて、
「営業マン募集」の面接を数社受けてはみましたが、
ことごとく「お断り」されており、頭を抱えておりました。
(もう、社会復帰は無理かもしれない・・・・)

そんなネガティブな事を考え始めた頃
前に勤めていた「超ブラック企業」の社長から1本の電話がありました。
社長からの電話

社長からの電話内容は
「最後の分のお給料をとりにきて欲しい」という話しでした。
久しぶりに聞く社長の声は懐かしく、
不覚にも「ホッとしてしまった」のを覚えています。
そして、社長は話しにこう付け加えます。
「みんなが営業に出た後、14時頃に来てもらえるかな?」
なぜ、こう言ったのかといいますと、
職場の空気を異様に重視する会社なので
今いる従業員に「辞めた私の姿」を見せたくないからです。

(この感じ、懐かしいなぁ・・・・)
そう思いつつ
特に断る理由もないので、すぐ了承して
次の日の14時頃に、前の職場へと向いました。

就職活動とは全く関係無い話なのですが、
私には、どうしても社長に聞きたい話があったのです。
最後の出社

2ヶ月ぶり位?に会社に行くと
相変わらず、何も無いガランとした部屋が広がっています。
(懐かしいなぁ・・・)
しかし、社長の姿が見当たりません。
この時間になると、パートの事務員さんがいるので
話を聞いてみると
「社長はどこかに出かけました~」と言います。

(はぁ・・・・・まぁ、あの人はそういう人だ・・)
黙って事務員さんからお給料を受取り、帰ろうとしたその時、
(いや、まてよ・・・事務員さんなら知ってるかもしれない)
そう思って、振り返ります。

私は、2年ほど前に「いなくなった」
一人の同僚の事が気になっていたのです。
私は恐る恐る、事務員さんに
「シマくんがどうして辞めたのか知りませんか?」
と聞いてみました。
私も課長という役職があり、
事務員さんとも3年間の付き合いがあったのですが、
まともに喋るのは実はこれが初めてでした。

事務員さんはキョトンとしながら、
「シマくん?亡くなったの知らなかったの?」
と言いました。
あまりにもビックリし過ぎて、声も出ませんでした。

シマくんと私は
高校3年間同じクラスだった同級生だったのです・・・・・。
会社の特殊なルール
私がこの超ブラック企業に勤めていた約3年間の間
辞めていった従業員の数は300人を超えます。

しかし、辞めていった従業員が
なぜ辞めたのか?
いつ辞めたのか?
という話基本的には耳に入りません。
と、言うよりも、耳に入れないようにしていました。
なぜなら、悪い話を聞くと
「職場の空気が悪くなり」▶「自分の営業成績も悪くなる」
そういう教えがあったからです。

なので大原則として
「辞めた従業員の話はしてはならない」
というルールがあったのです。
私は課長という役職があったにも関わらず
(最近◯◯くん来ないなぁ~)と思った時
社長に
わたし:「◯◯くんどうなりました?」
社長 :「やめたよ」
わたし:「そうですか」

という程度の会話しかしなかったのです。
なので、シマくんが会社に来なくなった時も
私には何の情報も入ってこなかったのです。
そして、それを「聞いてはいけない」
という暗黙の了解があったので、
私はこれまで、シマくんの行方を聞けずにいたのです。

シマくん

ああ・・・シマくんは
私の高校時代のクラスで中心的な人物でした。
顔も男前で、
明るく、
運動神経も良く
人当たりも良かった彼は
男女限らず、人望の熱い人物でした。
友人の居なかった私にとって
彼は、遠い憧れの存在だったのです。

高校卒業後、まさか・・・・
こんなブラック企業で再会するとは
夢にも思っていませんでした。
入社した時、シマくんの顔を見た私は
(マズイ!!!!!)
そう思いました。

彼は、私が警察官になった事を知っていたからです。
シマくんも私の顔を見て驚いた表情をしていました。
(コイツ・・・・警察官になったはずじゃ・・・?)
その表情はそう思っているように見えました。
(被害妄想かもしれません)
私は、警察官をクビになった事が
人にバレてしまう事を恐れていたのです。

しかし、シマくんは警察官の話には一切触れず、
笑顔で私を迎え入れてくれました。

たぶん、薄々感づいてはいたのだとは思いますが・・・。
私は・・・シマくんの優しい気遣いに感謝していました。
会社の中心だったシマくん

シマくんは私の入社当時
課長という役職もあり、会社でも中心的な人物でした。
営業成績も常にトップで
みんなの前でよく
「将来は自分の会社を持つのが夢なんだ!」と言っていました。
ここでも彼は人望が厚いようで、みんな悩みや相談があると
真っ先にシマくんの所にいっていました。

私はそんな彼の姿を見て
(やっぱり、シマくんは凄いなぁ・・・)
と学生時代と同じように、ただただ憧れの目で見ていました。

しかし、入社して数ヶ月、私が課長に昇進した頃
シマくんが急に会社に来なくなったのです。
シマくんの病気

(おかしい・・・・)
彼はとても会社を辞めるような人物には思えませんでした。
しかし数週間すると、シマくんは普通に出社してきました。
(良かった・・・・辞めてなかったのか)
私は心から安心しました。
しかし、彼の様子は・・・・あまりにも異常でした。
顔色が悪いのです。

悪い・・・・
といいますか、その顔は紫色に染まっていました。
明らかに「何かの病気」です。
しかし、彼は満面の笑みで病気の話など一切しません。
そもそも「病気」の話をするのは会社では禁句でしたが・・・・。
それから彼は出社したり、しなかったりを
何ヶ月も繰り返していたように思います。
私が朝礼で成績優秀者として表彰された時にしていた
シマくんのくやしそうな顔が、今でも忘れられません。

いや、無念の表情だったのかもしれません。
その頃には、シマくんはもう「朝出勤してくるだけ」で
飛び込み営業はしてなかったのだと思います。
とても回れるような体調ではなかったのでしょう。
しかし、シマくんには自分の部下がいました。
責任感の強い彼は、
病気の体で無理をして出勤をしていたのだと思います。

そして、ここからが事務員さんに聞いた話になります。
大きな罪
ある日、シマくんは道端で倒れてしまったそうです。
そして・・・・発見された頃にはもう
手遅れだったのだと・・・。

その知らせを聞いた社長は
お葬式には出席したそうです。
しかし、やはりこの情報はネガティブだという事で
会社のみんなには知らせなかったのです・・・・。

なんだろうか・・・・・・・これは
これは自己責任の話なのでしょうか?
こういう時、社長はよく
「自己責任」という言葉を使っていました。
「会社と自分には責任は無い」という事です。
たしかにシマくんは、自分でこの会社を選び
自分の意思で病気を押して出社してきたのでしょう。

私達の契約形態も「正社員」ではなく
「個人事業主」扱いですから・・・・
法律の事はよく知りませんが
「会社に責任は無い」と言われればそうなのかも知れません。
話を聞いた時、
この怒りをどこに向ければいいのか、
私にはわかりませんでした。

今でも・・・よくわかりません。
しかし、愚かな私は
自分が3年間どれだけ罪深い事をしてきたのか
この時はじめて自覚したのです。

私はこの超ブラック企業で
課長になり、1次面接の面接官を務め、
多くの社員を会社に引き入れる手伝いをしてしまいました。

無理に引き止めたり、無理に勧誘した事はありませんでしたが、
役職者として責任ある立場にいた以上
私の罪は決して軽くはありません。
このままでいいのだろうか?
「自分も社長に洗脳されていた被害者なんだ!」
そう言えば済む話なのでしょうか?
この話を聞いた時に
(就職活動をする前に、やるべき事があるのではないか?)
そう思えてなりませんでした。
辞めていったみんなは、今どうしているのだろうか?
無事に生きているのだろうか?
こうして私は就職活動の前に
とるにたらない、ごくわずかな償いを始める事にしたのです。
つづく
