俺はね、五人潰して役員になったんだよ
松崎一葉『クラッシャー上司-平気で部下を追い詰める人たち』(PHP新書)をお送りいただきました。ありがとうございます。
自分の出世のために、次々に部下をつぶしていく人の精神構造と対処法を、数多くの実例に接した精神科の産業医がやさしく解説。
クラッシャー・ジョウじゃなくって、クラッシャー上司です。
著者の松葉さんは数少ない産業精神医学の専門家。いじめ、パワハラが大きな問題となり、電通第二事件が世情を賑わしている今日、是非多くの人々に読まれるべき本です。
とともに、そこに描かれているいくつもの実例を読む進むにつれ、圧倒的に多くの組織人たちは、「あっ、これ、我が社にもあるある」という思いを何回もするでしょう。そう、「多くの会社、組織のメンタルヘルスを見てきたものの経験値として、一部上場企業の役員のうち数人は「クラッシャー上司」がいる、ということはできるだろう」と著者は述べています。
彼らクラッシャー上司たちは一種の発達障害なのですが、仕事ができて上司の覚えが良いものだから、そのまますいすいと出世していき、社内の被害者を生み出し続けるというわけです。
「はしがき」のこの一節は、そういう会社の生理を余すところなく物語っています。
・・・様々な組織でメンタルヘルス不全の治療・予防システムに取り組んでいた私たちは、とある大手の広告代理店に招かれた。
ふむ、大手広告代理店と言えば日本に二社しかないはずですが。
その会社の経営幹部が言うには、働き過ぎで心を病む社員の問題に悩んでいるとのこと。そこで抜本的解決策をともに考えてもらいたいと、産業精神医学を専門とする私たちが呼ばれたのである。
ところが、対策チームを組んで同社に赴くと、ちっとも歓迎されている感じがしない。声をかけてくれた経営幹部以外の、お偉いさん方の顔つきが険しいのだ。話がまったく生産的な方向に向かわず、それどころか常務からこんなことを言われてしまった。
「メンタルヘルスなんてやめてくれよ」
にわかに意味がとれないでいると、常務は続けてこういった。
「俺はね、五人潰して役員になったんだよ」
そして、私たちはこう告げられた。
「先生方にメンタルヘルスがどうの、ワークライフバランスがどうのなんてやられると、うちの競争力が落ちるんだ。会社のためにならない。帰ってくれ」
社員のメンタルを潰して役員に成り上がった常務が、こう嘯くのが日本を代表する広告代理店だったわけですね。
こういう実例が繰り返し描かれるのが第1章、彼らの精神構造を「未熟なデキル奴」として分析してみせるのが第2章。そしてクラッシャーを生み出す日本の会社のあり方として、メンバーシップ型雇用を提示して、ある種の社会学的分析をしているのが第3章です。
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