きょうは成人の日。123万人が大人の仲間入りをする。

 若者をとりまく状況は決して明るくはない。少子高齢・人口減少社会の到来で、将来の負担は重くなる一方だ。息苦しさを感じ、先行きに不安を抱く人、自らの無力にいらだちを覚える人も多いかもしれない。

 だが、若い世代が秘める大きなパワーと可能性を実感させられる出来事が昨年あった。

 アニメ「君の名は。」の大ヒットだ。興行収入は200億円を超え、邦画では宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」に次ぐ。

 立役者になったのは、スマートフォンという小さな「利器」を手に握り、それを自在に使いこなす若者たちだ。

 公開直後からLINEやツイッターなどのSNSに多くの感想を発信した。共感をもとにした小さなつながりがあちこちに生まれ、映画のモデルの地を訪れる「聖地巡礼」も盛んになった。それらが結びつくことで、大きなうねりを生み出した。

 作品の魅力や製作・配給側の巧みな戦略もあった。だが新海誠監督の前作の興収は1億5千万円。新作が大化けし、社会現象にまでなったのは、ネットと若者の存在抜きに語れない。

 ■ヒットの鍵を握る

 スマホの小さな画面と文化・娯楽との融合は、新たな行動様式も生んでいる。

 「ポケモンGO」は、街を歩きながらキャラクターを探し、つかまえるゲームだ。位置情報を使い、現実の風景の中で遊べるようにしたのがミソだ。

 部屋でパソコンに向き合っていた時代と違い、手軽なスマホならば、リアルな世界で実際に体験したり他者とふれあったりしながら、同時にネット経由で見えない誰かとコミュニケーションをとることもできる。

 ここでもヒットの鍵を握るのは若者たちだ。

 総務省のネット利用項目別調査によると、10代と20代は他の世代に比べ、SNSと動画サイトを使う割合が圧倒的に高い。そこである記事や動画が瞬間的に注目を集める「バズ」と呼ばれる現象が起きると、話題は一気に広がっていく。

 そんなネットの特性を生かし、常識を破る形でメジャーデビューした音楽家もいる。

 シンガー・ソングライターの岡崎体育さん(27)は、友人と6万円で手作りしたデビュー曲のビデオが、まずユーチューブで注目された。自らもツイッターで宣伝につとめた結果、無名の新人の初アルバムがオリコンチャート9位を記録した。ライブや楽曲提供で忙しくなった今も京都府内の実家に住み、パソコンで作曲・録音する。スーパーでのバイトも続けている。

 ■ITネイティブの力

 一方で、米国のトランプ現象に象徴されるように、ネットの世界に対しては厳しい批判や懸念も向けられている。

 SNSで気の合う人とばかり交流していると、いつのまにか考えや好みが同じ方向に流される。受け入れられる情報だけ集め、本当のことを見ようとしない。他者の言動を激しく攻撃する「炎上」は絶えず、虚実ないまぜの話があふれる――。

 だが、ネットやIT抜きにはもはや社会は成り立たないし、時代の潮流も見通せない。

 DeNAなどの情報サイトの虚偽・盗用問題を受けて、ネットメディア界では事実の確認など編集体制の強化にとりくむ動きが始まっている。

 こうした自己改革をふくめ、新しい文化やビジネスを生みだし、根づかせていくには、生まれたときからネットや携帯電話のある世界で育ったITネイティブの若者の力が必要だ。

 そんな問題意識を持ち、講談社の編集者を経て作家エージェント会社「コルク」を起業した佐渡島庸平社長(37)は、採用を意識して年間1500人の学生に会う。「前例のない時代。圧倒的な情報量を前に戸惑っている人も多いが、そこから新たな仕組みをつくりだせる人材を探し、育てていきたい」

 業務を効率化し、若手が自由に考える時間を確保してめざすのは、創作者とファンをネットで直接つなげ、作品をより広く世界に届けることだという。

 ■閉塞を破って

 時代の波頭を受けて生きる若者は、いつの世も大変だった。

 歌人石川啄木は1910(明治43)年、青年らを押しつぶすような当時の社会の様子を評論「時代閉塞(へいそく)の現状」に書いた。東京朝日新聞で校正係として働き、妻子と母を養っていたが、その2年後に26歳で死去。多くの優れた詩歌が残された。

 生前、自らの望むようには小説や評論を出版できなかった啄木に対し、新成人はスマホひとつで、知らない人や世界に発信できる世界に生きている。

 つながる道具の力を、時に失敗もしながら、でも前向きに使ってゆこう。発見をもたらし、新しい文化をうみ、社会を豊かにする。そんな未来をスマホ世代の若者に見いだしたい。