支え合う社会 世代間の信頼を土台に
師走の県庁ロビー。
困窮家庭やこども食堂に届けるため、不要な食品を持ち寄る「フードドライブ」が行われた。
県職員のほか市民が次々と訪れ、分類ケースに食品がたまっていく。クリスマス用のお菓子の詰め合わせ、正月に向けての切り餅も寄せられた。
レトルト食品や缶詰を入れた袋を手にさげ、ストックで体を支えながらやってきた男性がいた。
千曲市の59歳。ポリオで右足が不自由だ。長野市内の勤め先の昼休みに、左足でアクセルを踏めるようにした車を運転してきた。
<小さな取り組みでも>
職場では重い物を同僚が持ってくれる。地域では常会の草取りや水路清掃を手伝ってもらう。
支えられるだけでなく、自分のできることで支えたい。その思いが県庁へ足を運ばせた。
一つ一つの取り組みは小さくても、支え合いの心は、持続に黄信号がともる社会保障制度を立て直す芽になるのではないか。
高齢になって働けなくなったり、病気や要介護、貧困状態になったりした時、社会全体で助け合う仕組み。それが社会保障だ。
全国民を健康保険や年金の対象とする「皆(かい)保険・皆年金」は、池田勇人首相が国民所得倍増計画を発表した翌年の1961年に始まった。
高齢者が少なく、高度経済成長が進んだ時代。税収や社会保険料は増え、年金などの給付の水準は大幅に上がっていった。
だが、少子高齢化に転じ、経済が低成長時代に入っても制度の骨格は大きく変わらなかった。給付水準を保つため国債という借金を雪だるま式に膨らませた。
国と地方の借金は1千兆円を超え、なお増える。その負債は若い世代に引き継がれる。
政治が、投票率の高い高齢者を強く意識し、優遇策を続けてきた結果と指摘される。
年金は、現役世代の保険料と公費で高齢者を支える賦課方式だ。「仕送り」と表現される。
高齢者が増え、若い世代が減っていく人口構造では、仕送りする側の負担が増す。将来、受け取る年金の水準が下がることへの不公平感や不信も根強い。
国民年金の保険料未納が多いのは、その裏返しともいえる。厚生労働省の調査では「経済的に支払うのが困難」に次いで「年金制度が信用できない」が多数だった。
<社会保障の分断>
先月に成立した年金制度改革法で、年金の支給額は抑える方向に向かう。
現役世代の賃金が下落すれば支給額も必ず減額する。少子高齢化の進展に合わせて自動的に支給額を減らす「マクロ経済スライド」という仕組みにより、デフレで実施しなかった分を景気回復時にまとめて抑制する。
医療、介護も比較的所得の高い高齢者を中心に自己負担が新年度から上がっていく。
制度の見直し自体は避けられないとはいえ、昨夏の参院選ではほとんど議論されなかった。しかも、低年金の人への給付や65歳以上の介護保険料の軽減拡充は先送りされた。
今度は高齢者から不安や反発の声が上がっている。
今回の見直しもほころびを繕ったにすぎない。次世代へのつけ回しをできるだけ減らし、本当に必要な人に支援が行き届くようにするにはどうしたらいいか。
政治が将来を見据えて改革に動くには、世代間の信頼が築かれることが前提になる。
県庁のフードドライブから2週間後の祝日。長野市の教育会館で「信州こども食堂」が開かれた。
豚汁やつきたての餅を使ったお汁粉、洋菓子店から提供されたクリスマスケーキなどが並んだ。県庁で集めた食品も一部使われた。
<顔が浮かぶ支援で>
子どもと若い親など約100人がテーブルを囲む。食材の提供者に感謝の気持ちを込めて手を合わせ、「いただきます」。腹話術の披露もあり、子どもたちの歓声が響いた。
参加者の中に高齢者の姿もあった。1人暮らしの87歳の女性は「子どものにぎやかな声が聞こえるのがいい」と話した。
食事を無料か低額で提供する「こども食堂」は、東京の下町で4年前に始まった。共感を得て全国に広がっている。
長野県内でもNPO法人「ホットライン信州」が運営に関わっただけで昨年、116回を数えた。子どもからお年寄りまで延べ5千人近くが参加した。
子どもたちが支えられていることを実感すれば、大人になって積極的に支える側に回るだろう。高齢者が子どもの笑顔を見れば、未来のために何とかしたいという思いを強くする。
社会保障制度は支えている人たちの姿が見えない。こうした市民の活動によって顔の浮かぶ支え合いが広がっていけば、世代間の溝を埋め、制度改革への合意をつくる土台になる。
(1月1日)
困窮家庭やこども食堂に届けるため、不要な食品を持ち寄る「フードドライブ」が行われた。
県職員のほか市民が次々と訪れ、分類ケースに食品がたまっていく。クリスマス用のお菓子の詰め合わせ、正月に向けての切り餅も寄せられた。
レトルト食品や缶詰を入れた袋を手にさげ、ストックで体を支えながらやってきた男性がいた。
千曲市の59歳。ポリオで右足が不自由だ。長野市内の勤め先の昼休みに、左足でアクセルを踏めるようにした車を運転してきた。
<小さな取り組みでも>
職場では重い物を同僚が持ってくれる。地域では常会の草取りや水路清掃を手伝ってもらう。
支えられるだけでなく、自分のできることで支えたい。その思いが県庁へ足を運ばせた。
一つ一つの取り組みは小さくても、支え合いの心は、持続に黄信号がともる社会保障制度を立て直す芽になるのではないか。
高齢になって働けなくなったり、病気や要介護、貧困状態になったりした時、社会全体で助け合う仕組み。それが社会保障だ。
全国民を健康保険や年金の対象とする「皆(かい)保険・皆年金」は、池田勇人首相が国民所得倍増計画を発表した翌年の1961年に始まった。
高齢者が少なく、高度経済成長が進んだ時代。税収や社会保険料は増え、年金などの給付の水準は大幅に上がっていった。
だが、少子高齢化に転じ、経済が低成長時代に入っても制度の骨格は大きく変わらなかった。給付水準を保つため国債という借金を雪だるま式に膨らませた。
国と地方の借金は1千兆円を超え、なお増える。その負債は若い世代に引き継がれる。
政治が、投票率の高い高齢者を強く意識し、優遇策を続けてきた結果と指摘される。
年金は、現役世代の保険料と公費で高齢者を支える賦課方式だ。「仕送り」と表現される。
高齢者が増え、若い世代が減っていく人口構造では、仕送りする側の負担が増す。将来、受け取る年金の水準が下がることへの不公平感や不信も根強い。
国民年金の保険料未納が多いのは、その裏返しともいえる。厚生労働省の調査では「経済的に支払うのが困難」に次いで「年金制度が信用できない」が多数だった。
<社会保障の分断>
先月に成立した年金制度改革法で、年金の支給額は抑える方向に向かう。
現役世代の賃金が下落すれば支給額も必ず減額する。少子高齢化の進展に合わせて自動的に支給額を減らす「マクロ経済スライド」という仕組みにより、デフレで実施しなかった分を景気回復時にまとめて抑制する。
医療、介護も比較的所得の高い高齢者を中心に自己負担が新年度から上がっていく。
制度の見直し自体は避けられないとはいえ、昨夏の参院選ではほとんど議論されなかった。しかも、低年金の人への給付や65歳以上の介護保険料の軽減拡充は先送りされた。
今度は高齢者から不安や反発の声が上がっている。
今回の見直しもほころびを繕ったにすぎない。次世代へのつけ回しをできるだけ減らし、本当に必要な人に支援が行き届くようにするにはどうしたらいいか。
政治が将来を見据えて改革に動くには、世代間の信頼が築かれることが前提になる。
県庁のフードドライブから2週間後の祝日。長野市の教育会館で「信州こども食堂」が開かれた。
豚汁やつきたての餅を使ったお汁粉、洋菓子店から提供されたクリスマスケーキなどが並んだ。県庁で集めた食品も一部使われた。
<顔が浮かぶ支援で>
子どもと若い親など約100人がテーブルを囲む。食材の提供者に感謝の気持ちを込めて手を合わせ、「いただきます」。腹話術の披露もあり、子どもたちの歓声が響いた。
参加者の中に高齢者の姿もあった。1人暮らしの87歳の女性は「子どものにぎやかな声が聞こえるのがいい」と話した。
食事を無料か低額で提供する「こども食堂」は、東京の下町で4年前に始まった。共感を得て全国に広がっている。
長野県内でもNPO法人「ホットライン信州」が運営に関わっただけで昨年、116回を数えた。子どもからお年寄りまで延べ5千人近くが参加した。
子どもたちが支えられていることを実感すれば、大人になって積極的に支える側に回るだろう。高齢者が子どもの笑顔を見れば、未来のために何とかしたいという思いを強くする。
社会保障制度は支えている人たちの姿が見えない。こうした市民の活動によって顔の浮かぶ支え合いが広がっていけば、世代間の溝を埋め、制度改革への合意をつくる土台になる。
(1月1日)
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