【検証・文革半世紀(6)】拡大する「十字架外し」 党員数越える信者に危機感
中国共産党機関紙の人民日報は1966年6月1日、1面トップで掲載した「牛鬼蛇神を一掃せよ」と題する社説で呼びかけた。
「数千年来、支配階級の手先として人民を毒してきた古い思想、文化、風俗習慣をすべて破壊せよ」
仏教の用語である「牛鬼蛇神」は、牛の頭の化けものや蛇身の魔物などを意味するが、この場合、各種の宗教の信仰対象である神仏や古い価値観を守ろうとする人々を指す。文化大革命(文革)の開始直後に掲載された社説は、紅衛兵に「宗教や古い文化を代表するすべてのものをたたき壊せ」という号令となった。
それからおよそ50年が経過した現代の中国で、浙江省を中心に、キリスト教の教会の十字架が「違法建築」の名目で当局に外される問題が相次いでいる。
その数は2千件以上ともいわれ、非公認のいわゆる「地下教会」に加え、当局に認められている教会も含まれる。信者と当局者が衝突する場面も多くみられるようになった。
「消えた十字架」という言葉をよく聞くようになったのも、半世紀ぶりのことだ。
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無神論を唱える中国共産党と宗教は、本質的に共存しえない関係にある。中国国民党と内戦を繰り広げていた時代や建国直後など、宗教に理解を示すポーズをとった時期もあったが、文革中に全面否定に転じた。
中国共産党史を研究する北京の大学教授は、「文革は毛沢東という神を創る運動でもある。毛を中国人にとっての唯一の神にするため、ほかのすべての神を否定しなければならなかった」と話した。
紅衛兵は、中国最古の仏教寺院といわれる河南省洛陽市郊外の白馬寺を襲い、後漢(※1)の時代から残る仏像を壊し、千年以上も保管されてきた仏典を焼いた。1600年前に建てられた山西省代県の天台寺の彫刻や壁画も破壊された。
各地のキリスト教の教会も、「帝国主義が中国を植民地支配した象徴」として攻撃対象となった。だが、木造でほとんどが壊されたイスラム教や道教、チベット仏教などの施設と違い、比較的堅牢(けんろう)な建物が多く、学生主体の紅衛兵らが壊すのは困難だった。
そこで、彼らは屋根の十字架だけを外して中国の国旗や毛沢東の肖像画などを掲げた。紅衛兵に外された十字架は全国で10万個以上ともいわれた。牧師や神父がつるし上げられ、殴られ、投獄された。
文革を経験したキリスト教関係者の間では、「消えた十字架」という言葉を聞くと、迫害の時代を想起する人が多いという。
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貧富の格差など社会矛盾の拡大にともない、中国では近年、キリスト教の信者が急増。プロテスタントだけで1億人を超え、総数8千万人の共産党員を上回ったとの推計もある。共産党員の中には理念を捨ててキリスト教を信仰する人も増えているという。
危機感を覚えた国家主席の習近平は、講話で「党員は宗教を信仰してはいけない」という党則を繰り返し強調するとともに、浙江省に対してキリスト教の取り締まり強化を命じた。「十字架外し」はその一環にすぎないとみられ、欧米メディアなどは地下教会の閉鎖や関係者の拘束、暴行といった事件を報じている。
浙江省は中国でキリスト教が最も盛んな地域の一つで、習のかつての勤務地でもあった。その浙江省で先行して取り締まりを実施した習政権は今後、ノウハウを生かして全国に締め付けを拡大する予定ともいわれる。(敬称略)