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【検証・文革半世紀(2)】サクラ総動員で習近平主席の「肉まん」逸話を喧伝…「自信のなさ」の表れか 文化・芸術の政治介入ますます

【検証・文革半世紀(2)】サクラ総動員で習近平主席の「肉まん」逸話を喧伝…「自信のなさ」の表れか 文化・芸術の政治介入ますます

習近平氏と毛沢東。2人の国家指導者

 ♪肉まんの店に入ったら、あのお方が私の後ろに並んだ

 中国の少女グループ「56輪の花」が5月2日、北京の人民大会堂で行ったコンサートで披露した新曲「包子舗」(肉まんの店)の一節だ。国家主席、習近平がテーマになっている。

 習は2年前の冬、北京市内の肉まんチェーン店を訪れた。笑顔でネギ入り肉まんを注文して21元(約340円)を払い、周囲の人々と談笑しながら肉まんをほおばった。このときの様子を描いた歌詞は「偶然の出会いが、真冬の暖流のように市民の心を温めた」と結んでいる。

 官製メディアはこぞってこの歌を宣伝したが、取材した中国人記者によると、店にいた客はほとんどが動員された人々で、リハーサルも行ったという。

 習に関する歌はここ数年、急増している。毛沢東をたたえる「東方紅」の替え歌で、習を毛同様に「赤い太陽」と賛美するものもある。これらの歌はまずインターネットに投稿され、数カ月後にはカラオケで歌えるようになり、やがて有名歌手のコンサートなどに登場する。

 歌を流行させようという当局の動きが見え隠れする。

 文化大革命(文革)後に復権し、1978年に中国の最高実力者となったトウ(=登におおざと)小平は、文革中の毛沢東に対する個人崇拝が社会に大きな弊害をもたらした-との反省から、政治家個人を賛美するのを厳しく禁じた。

 江沢民と胡錦濤はトウの方針を尊重したが、習政権の下、約40年ぶりに個人崇拝が復活しつつあるようだ。

 ある中国共産党関係者は、この傾向を「習氏の自信のなさの裏返し」とみる。地方指導者として実績が乏しく、派閥間の協議で最高指導者に選ばれた習は、「党内の意志を統一するために、個人の権威に頼るしか方法がなかった」というのだ。

 党内にはこうした動きに対する反発もある。3月の全国人民代表大会(全人代=国会)の期間中、「171人の中国共産党員」による公開書簡がインターネット上で出回り、「習近平同志の独裁と個人崇拝が党内組織をひどい状態にした」といった理由で、習に党総書記辞任を求めた。

 最高指導者に公然と反旗を翻す動きは近年なかったものだ。書簡に関係があるとみられたジャーナリストなど多数が拘束された。

 個人崇拝をめぐるせめぎ合いに加え、習近平政権は文革当時を彷彿(ほうふつ)させる文化・芸術の締め付けに乗り出している。

 4月のある日曜日の午後、北京市東部の映画館で「白毛女(はくもうじょ)」と題する映画の上映が終わった。約100人が収容できる館内から出てきた観客はわずか十数人。「休日は家でゆっくりしたかったが、会社の命令なので仕方なく来た。映画はつまらなくてほとんど寝ていた」。同僚と来たという政府系シンクタンクの30代の男性職員が話した。

 「白毛女」は中国共産党が宣伝に熱を入れ、3月末には全国の公務員に鑑賞を求める通達を出した。それは国家主席、習近平の夫人の彭麗媛(=ほう・れいえん※1)が、この映画の芸術指導を行ったことと無関係ではなかろう。

 ただ、無料でもらったチケットも捨てる人もあり、宣伝効果はそう芳しくなかったという。

 映画の基になった「白毛女」は文化大革命(文革)の時代、上演が許された8大革命歌劇の一つだ。中国国民党(※2)の統治下、地主から借金をした貧農が金利を払えず自殺する。その娘は山奥の洞窟に隠れているうちに、髪の毛が真っ白になってしまう。娘はやがて人民解放軍(※3)の前身である八路軍に救出され、国民党打倒の運動に参加する中で人間性を回復し、黒髪に戻る-という筋書きだ。

 「国民党支配下の旧社会は人を鬼(妖怪)にするが、共産党の新社会は鬼を人にする」というメッセージが込められている。

 1940年代に創作されたものだが、毛沢東の4番目の妻で女優出身の江青(※4)が毛沢東思想の正しさを宣伝する内容を大量に取り入れて改編し、全国で繰り返して上演された。「白毛女」の音楽を聴くと、迫害された体験を思い出す知識人も多いという。

 習近平は2014年10月、小説家や俳優、画家など著名な文化人約70人を集め、「今の文化・芸術界は拝金主義が蔓延(まんえん)している」と批判し、「文芸は社会主義のために奉仕しなければならない」という内容の講話を発表した。政権による文化、芸術分野への介入を公に宣言した形だ。

 習の講話は毛沢東が1942年に革命聖地の延安で行った「文芸講話」を強く意識したものといわれた。

 「文芸は革命的でなければならない」と強調した「文芸講話」は文革中に絶対視され、「革命的でない」と判断された作品は次々に「毒草」と決めつけられ、発禁処分を受けた。

 習の講話は「党の文芸に対する指導を強化しなければならない」と連呼する内容で、毛と同じような絶対的な指導者になりたいという強い思いがうかがえる。

 「白毛女」の映画化の話は、習の講話の発表を受けてにわかに浮上したという。3Dという新技術を取り入れ、若い時にこの歌劇のヒロインを演じた経験がある彭が製作に参加すると発表された。しかし、「文革中の毛沢東夫婦」を連想させるとして、「おそろいの夫婦が、またも中国を政治的混乱に陥れようとしているのか」といった書き込みがインターネット上でみられた。

 文革時代、鎖国状態だった中国では多くの芸術活動が禁止され、民衆の娯楽は8大革命劇の鑑賞などに限られた。

 「白毛女」が当局の思想教育工作で大きな役割を果たしたことは事実だ。しかし、インターネットで日本のアニメやゲーム、韓国ドラマなどが簡単に見られる現代に革命劇を持ち出して、当局が期待するような効果が上がるかは見通せない。(敬称略)

【用語解説】

※1 彭麗媛(1962~) 18歳で軍に入隊、国民的歌手として活躍。87年に習近平と結婚した。

※2 中国国民党 孫文らを中心に1919年結党。蒋介石が指導者となって南京に国民政府を組織したが49年、共産党との内戦に敗れ台湾に逃れた。 

※3 人民解放軍 中国共産党直属の軍隊組織。1927年の武装蜂起が建軍の起源。47年から現在の名称となった。

※4 江青(1914~91) 38年に毛沢東と結婚。文革時に権勢を振るったが毛の死去後に失脚。81年に死刑判決(後に無期懲役に減刑)。91年に自殺。

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