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<メディアの戦後史>ストーブ消火「水かけ論争」 消防の「常識」実験で覆す

「暮しの手帖」の石油ストーブ消火テストについて報じた毎日新聞1968年2月21日朝刊(東京本社版)

 「石油ストーブの火はバケツの水で消える」

     1968年1月30日毎日新聞朝刊3面(東京本社版)に生活雑誌「暮(くら)しの手帖(てちょう)93号」の大きな文字の広告が載った。そのころ年間1000件を超える石油ストーブによる火災が起きており、初期消火をどうするかは人々にとって切実な問題だった。

     当時は毛布をかぶせる方法が常識とされ、東京消防庁も勧めていた。暮しの手帖はそれに異を唱えたのだった。

     50年代から名物企画「商品テスト」を隔月発行する雑誌の主力記事に据え、各メーカーの電気掃除機を10万メートル動かしたり、トースターで食パンを4万3088枚焼いたりといった徹底した検証で、薦められる製品、薦められない製品を実名で書いていた。

     手帖は60年に各社の石油ストーブの性能比較をして以来、消火方法を調べていた。66年には古い住宅を実際に燃やすテストをして「消すのは水が一番。水が油の温度を下げて、燃えないようにするからである」と結論づけ、さらに93号の編集のために約60回のテストを重ねたという。若手編集部員として倒れたストーブの火を消し続けた林弘枝さん(78)は「毛布で消すには、完全に覆って空気を遮断しなければならず、普通の人には相当難しい。バケツの水なら確実に消えました」。

     ところが東京消防庁が暮しの手帖に反論し、まさに「水かけ論争」になった。名物編集長の花森安治さん(11~78年)は68年2月7日の毎日新聞朝刊に、「“水と油はダメ”という考えがほとんどの人の頭にしみ込んでいるのではないか。初期消火について、みんなが考え、批評し、役所は生活に密着したいろんな実験をして、もっと効果的な方法を知らせてほしい」とコメントした。2月21、22の両日に自治省消防庁が東京都内で公開実験をすると約50人の記者がかけつけたという。毎日新聞は21日夕刊で「暮しの手帖社の主張は裏付けられた形」と伝えた。

     編集部員だった河津一哉さん(86)は「お上に異を唱えることになったが、自分の目で確かめ、自分たちの手で試して伝えることが花森さんのやり方だった。素人が繰り返し実証すれば玄人の言い伝えを打ち破れることが分かった」。林さんは「花森さんは結果が間違っていたら(会社が)つぶれるぞと言っていた。実際の火事で水をかけても消えなかったら大問題になったでしょう。相当の覚悟だったはずです」と振り返る。

     支えたのは読者だった。編集部には実際に水で消えたという報告が手紙や電報で次々と届いたという。「『ガンバレ』ドクシヤ ココニアリ」【青島顕】


    商品テスト続けた「暮しの手帖」

     「暮しの手帖」(1948年創刊)は60年、57号の商品テストで各社の石油ストーブの性能を取り上げた。結果は英国製の独り勝ちで、倒れると自動的に火が消える構造になっていた。国産は倒れると火がついたり、一酸化炭素を発生させたりするものもあった。それを指摘すると、メーカー側から雑誌を非難する声が上がった。

     しかし2年後に再びストーブをテストしたところ、国産の製品も進歩していたという。

     NHKドラマ「とと姉ちゃん」の主人公のモデルになった創業者の大橋鎮子さん(1920~2013年)は62年の67号にこう書いた。

     「私たちはものずきに商品テストをやっているのではありません。メーカーにいやがらせをするためにやっているのでもありません。よい商品を作ってもらいたいからです」

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