「ブサイクの遺伝子は自分で絶やす」と話す人の気持ちが痛いほどわかる。
きっかけは婚前旅行で海外へ行ったときのことだ。せっかく来たのだから、と普段はとても行けないような三つ星の高級レストランを予約した。非常に楽しみにしていたので、ちょっといいワンピースを着て、いつもより丁寧に化粧をして出かけた。店内はたくさんの生花が飾られて、天井にはシャンデリアが煌めいていた。非日常の空間に、とても心が躍った。色とりどりの料理はどれも美しくて、これまでに味わったことのない美味しさだった。そんな風にして二人で楽しく食事をしている最中、酔いの回った彼が、私の顔を見て笑いながら突然こう言った。
どういった話の流れだったかはよく思い出せないし、私ももういい歳なので、笑って流せばよかった。そう頭ではわかっていたのに、私はレストランのど真ん中の席で、ぼろぼろと涙を流して泣いてしまったのだった。
幼少期に容姿のことでいじめられたのがフラッシュバックしたこともあるし、何より三年も一緒にいてそんなことを言われたことがなかったので、この人はずっと私のことをブスだと思いながら付き合っていたのか、とショックだったのもある。
感情が抑えきれず涙も止まらなくて、結局食事の途中で席を立ちホテルの外に飛び出してしまった。他人からしたら大したことないと思われるかもしれないが、私にとっては触れられたくない問題だったのだ。
泣きながら夜の繁華街を歩きつつこう思った。「好きな人にまで顔を馬鹿にされるような人生を子供に歩んでほしくない」と。
帰国してしばらくしたあと、結婚は考えられないという旨を告げ、お別れした。
とどめを刺されたのが上記の出来事だっただけで、容姿で嫌な思いをしたことは他にもたくさんある。学校でも、就活でも、恋愛でも、会社でも、理不尽な扱いをたくさん受けてきた。普通以上の大学を出て、化粧や服装を小綺麗にしても、頑張っても変えられないもの(骨格とか)があって、どうしようもないんだという絶望を目の当たりにし、私も遺伝子を残したくないと考えた。