研究者と勝負師のブレイクスルーには「勘」が必要だ。それこそが人工知能が持たない人間らしさなのだ。
11月某日京都大学iPS細胞研究所で行われた山中伸弥教授と羽生善治棋士との対談。iPS細胞研究の現在、医学界・将棋界の未来、そして人工知能の進化について、二人がとことん語り合った。
山中 羽生さんはチェスもお強いですが、囲碁は?
羽生 初段ぐらいです。子供のころにやっていたんですが、周りに相手がいなくて、あまり上達しませんでした。
山中 僕は去年からオンラインで囲碁を始めたんですよ。八級だから四級ぐらいの人にコテンパンに負けるんです。もう悔しくなってきて(笑)。
羽生 あはは(笑)。囲碁ソフトの「アルファ碁」がトップ棋士に勝ちましたね。今年、NHKの番組で私は人工知能を取材したんですが、将棋ソフトも想像をはるかに超えるスピードで強くなっています。
iPS細胞(人工多能性幹細胞)ができてちょうど10年ですが、現状はどこまで進んでいるんでしょうか?
山中 10年前はまだ実験室での基礎研究の段階でしたが、今は人間に応用できる入り口まできました。2年前にiPS細胞から作った網膜細胞を加齢黄斑変性の患者さんに移植する世界初の手術が行われて経過は良好だと聞いています。
羽生 素朴な疑問なんですが、研究開発が進むとiPS細胞は臓器にもなるわけですね。そういう段階まで現実に進むものなんでしょうか。
山中 もう僕の予想を超えたスピードです。ブタなどの動物の体内で人間の膵臓や腎臓を作る研究が精力的になされています。iPS細胞から臓器を作るなんて10年前には夢物語でしたが、あとは将棋で言うと、いかに詰めていくかという段階に到達しています。
羽生 将棋の世界でも、最近は対局中継でソフトが全部同時に解析しているんですよ。例えば今の局面がプラス300点とかプラス500点とか。
山中 へー。
羽生 私がソフトと同じ手を指すと、「それ正解」と一手ごとに同時添削されちゃっていますから恐ろしい世界です。
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