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人工知能を愛せますか?

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[Part3]人間は何を学べばいいの?



タウンリーグラマースクールでコンピューティングを学ぶ子どもたち
photo:Sako Masanori

人工知能(AI)と共に暮らす未来、コンピューターに使われる人間ではなく、使いこなす人間を育てなければ──。そんな危機感から、英国イングランドでは2014年、日本の幼稚園年長にあたる5~6歳児から、新科目「コンピューティング」を必修にした。


小さな子どもに、コンピューターの何を教えるのか。「先進校」の一つとされるロンドン郊外の公立校、タウンリー・グラマースクールを訪ねた。


教室前方の白いスクリーンに、フィットネスクラブの一室が映し出された。タンクトップにジャージー姿の女性がファレル・ウィリアムスのヒット曲「ハッピー」に合わせてノリノリで踊る。小学3年生のコンピューティングの授業は、YouTubeの動画が教材だった。


「このダンスを五つか六つの動きに分解しましょう」と、担当教師のトレバー・ブラッグが呼びかける。「体を揺らす!」「お尻と手を振る!」。元気よく答える子どもたち。この授業のどこが「コンピューティング」なの?



教育システムを変える


ブラッグの説明はこうだ。「現実を細かい要素に分解して、言葉で詳しく記述する。これが、コンピュータープログラムを書くための『論理的思考』の基礎なのです」


教員支援団体「コンピューティング・アット・スクール」のサイモン・ハンフリーズは「以前の情報通信教育は、ワープロや表計算ソフトの使い方だけを教えていた。AIを使いこなすには、コンピューターの動き方、動かし方を根本から学ぶ必要がある」と説明する。


今後AIが進化すれば、現存する仕事の多くが数十年後には消える可能性がある。かつて教育の中心だった暗記や分析は、進化を続けるAIにはかなわない。英下院の科学技術委員会は昨秋、AIに関する報告書で「新しいテクノロジーの波を乗り切るには、教育システムを変える必要がある」と指摘した。


英国科学技術芸術基金(NESTA)の政策調査部長、スティアン・ウェストレイクは「プログラミングの技術も重要だが、それ以上に大切なのは、人間にしかない創造性や、他人と協調して働く力を育むことだ」と強調する。



知能とは何か

キャンフォードスクール
photo:Sako Masanori

ただ、創造性や協調性をどうすれば養えるかは、定かではない。


イングランド南部の私立の中高一貫校キャンフォード・スクールで昨年10月、「知能とは何か」をテーマに特別授業が行われた。AI研究者やロボット学者、詩人、ピアニストらが講師に招かれ、生徒たちと議論を交わした。校長のベン・ベッシーは「AIの発達で、『考える』という人類の根源的な力が弱まる恐れがある。AIの言いなりで動く『奴隷』にならないように、多様な人間や考え方とであい、批判的に考察する機会を子どもたちに与えたい」と話す。


いっぽう、子どもたちの創造性を伸ばすために、むしろAIの助けを借りるべきだ、という意見もある。


「子どもたちから創造性を奪っているのは現在の試験制度です」と、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン教授のローズ・ラッキンは言う。「一発勝負の試験のために、不毛な暗記を余儀なくされている」。個々の生徒のふだんの授業での取り組みを、AIを使って記録・分析できれば、試験とは違う新たな評価システムをつくれる。個人データの管理など倫理的な課題はあるが、「技術的には可能だ」とラッキンは言う。

UCL教育学部のローズ・ラッキン教授
photo:Sako Masanori



AI家庭教師


英国の教育事業大手ピアソンも「AI活用派」だ。IBMのAI「ワトソン」を使い、19年までに、まず大学生向けの教材開発を目指す。同社の広報部長、トム・スタイナーは「AIを教師役にすれば1対1の個別教育を数百万人に提供できる。AIと会話する中で、わからないことを質問し、ヒントをもらえる。学生のやる気も引き出せる」と言う。さながら、「AI家庭教師」だ。


日本でも、AI時代の教育は議論になっている。20年度から始まる新しい学習指導要領に向けて中央教育審議会が昨年末に示した答申では、人工知能の進化を念頭に「主体的・対話的で深い学び」を強調した。昨年3月、囲碁AIが世界最強棋士の一人に勝ったことで、「囲碁愛好家が多い国会議員の間でも危機感が高まった」(文部科学省関係者)という。


(左古将規)

(文中敬称略)

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イングランドのコンピューティング授業

(撮影:左古将規、機材提供:BS朝日「いま世界は」)





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