HOME > レビュー > 【麻倉怜士の2017 CESリポート】Vol.03 有機ELテレビ市場成長の鍵を握る、LGディスプレイの呂社長に直撃
2017年1月 8日/麻倉怜士
麻倉怜士さんによるCES 2017現地インタビュー取材の第三弾をお届けする。先日のリポートでもご紹介した通り、今年のCESではパナソニックやソニーの有機ELテレビが話題を集めている。そしてそれらの製品には、LGディスプレイ製の有機ELパネルが使われているのだ。今回は有機ELパネルのサプライヤーとしてトップを走るLGディスプレイのCMO(Chief Marketing Officer)兼社長の呂相徳さんを直撃した。(編集部)
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麻倉 今回のCESでは、ソニーとパナソニックという日本の二大メーカーから有機ELテレビが発表されました。これは、有機ELの発展にとって画期的なことではないかと思っています。
呂 このことは、3つの観点からものすごく意味のあることだと思っています。まず第1にソニーさんやパナソニックさんが本格的に有機EL製品を発売することで、有機ELのよさが認められました。2番目は寿命の確信です。これまで有機ELの寿命や焼き付きについて色々な批判がされていましたが、ソニーさんもパナソニックさんも、それらの問題点が解決されていなかったら製品は作っていないはずです。固定画素ディスプレイについても、パナソニックさんはプラズマの経験もありますし、ソニーさんは小型の有機ELテレビを発売していたことがあります。つまり両社ともパネルの寿命の重要性は熟知しているはずですから。今回製品が発表されたと言うことは、それらが既に心配しなくてもよくなったという証なのです。
麻倉 二社の参入は、問題点が既にクリアーされているという証拠だというわけですね。
呂 三番目は、どちらもハイエンドのマーケットにふさわしいブランドの製品ですので、販売台数的にも相当期待できます。このことは、有機ELのよさを最高に市場的に発展させてくれるのではないでしょうか。特にソニーさんには透明スピーカー(LGディスプレイのブランドは「クリスタル・サウンド・有機EL」。ソニーは「アコースティックサーフェス」という)も採用していただきました。DSPを組み合わせることで素晴らしい製品に仕上がったそうです。
麻倉 そうですね、ソニーは以前に平面スピーカーを発売したことがありましたから、その点は間違いないでしょう。
呂 二社さんとも、有機ELは色々な発展性があることをわかってくれていますので、今後もいい製品をリリースしてくれることを確信しています。
麻倉 パナソニックは、透明スピーカーは採用していませんが、画質にはかなり頑張っていて、昨年モデルやIFAでの参考出品からも絵が確実によくなっています。ひじょうに画質コンシャスで、有機ELのひとつのショウケースになっていると思います。片やソニーは、デザインのスマートさやアコースティックサーフェスなど、新しい展開を進めています。この両社の取り組みが違う点も面白い。
呂 その通りですね。有機ELの発展にとっては大いに意味のあることだと思います。
麻倉 さて、LGディスプレイさんの有機ELパネルは第二世代に入っていますが、生産性・画質ともに、ここにきて安定してきたのではないでしょうか。
呂 この一年の進化は大きかったですね。パネルの歩留りも4Kで85%を超えています。
麻倉 85%ですか? 確か一昨年は50%くらいだったような。
呂 45%前後でした。そこからぐっと頑張って追い上げたんです。枚数的にも月産10万を超えました。LGエレクトロニクスのテレビについても、昨年の後半に有機ELがハイエンドモデルとして認められましたし、アメリカでのクリスマス商戦の売上がとてもよかったと聞いています。
麻倉 新しいデバイスは、認知されるまでにある程度の期間は必要ですからね。でも、それが認められると口コミなどでだんだん火がついていく。
呂 有機ELはお店にいって実際に目で観てもらう、あるいは自宅で使ってもらうとよさが伝わりますので、それが広がってきたということでしょう。もちろん雑誌などの評価も影響がありますが、有機ELの場合は使っていただくことが第一だと思います。アメリカ市場では、一定期間内だとテレビも返品できますが、有機ELの場合返品率がとても少ないそうです。買ったら満足してもらえているということだと考えています。
麻倉 日本のユーザーは画質重視ですが、アメリカはそれほどではないように思っていました。でも、意外にそうではないようですね。アメリカにも画質を気にするユーザーはいて、有機ELテレビはそこにフィットしている。
呂 そうなんでしょうね。
麻倉 パネルの生産も順調に立ち上がってきて、黒の階調性も向上してきましたが、今回の展示を見て、第二世代パネル自体も初期より画質がよくなってきたように思いました。
呂 色再現はDCIで98%まで向上しましたし、表示速度も改善しました。HDRについてもピーク輝度も25%アップしています。輝度や表示速度はもっと改善していけると思います。
麻倉 表示速度は今も早いけれど、さらに改善できるということですね。
呂 そうです。
麻倉 色域に関しては、パネルを改善して赤を追加したそうですが、これはどういう仕組みなのでしょう? カラーフィルターを変更したということですか?
呂 いえ、レイヤーを変更しています。
麻倉 レイヤーというと、有機ELの層を増やしたということですね。
呂 はい。有機ELを一層追加して、色をもっと豊富にしています。最終的には白色で発光していますが、こちらの方が深い色が取り出せるんです。
麻倉 なるほど、それがDCIの色域を98%までカバーできた要因なんですね。
呂 これまでは有機ELはコントラストは高いけど、色域は液晶とあまり変わらなかったので、ある意味アンバランスだったんです。今回はその点も改善できました。
麻倉 輝度も上がっていますが、これは材料を新開発したのですか?
呂 材料もそうですし、素子の設計を変えて開口率を改善しました。
麻倉 なるほど、今のパネルの開口率はまだ低いんですね?
呂 低いというわけではありませんが、改善の余地はありそうです。他にも細かい工夫の積み重ねで実現しています。
麻倉 今回の有機ELパネルはLGディスプレイさんとして第二世代ですよね。次の第三世代は来年登場するのでしょうか?
呂 2年おきくらいで開発していきたいと思っていますので、第三世代は2018年になるでしょう。
麻倉 第三世代パネルになると色域も広がって、輝度も上がる。さらに懸案の黒の階調再現も向上すると期待していいですか?
呂 そうですね。そこを目指していきます。
麻倉 さて、今後の展望を伺いたいのですが、今の有機ELパネルの生産数はどれくらいなんでしょう?
呂 2016年の実績が約90万台で、2017年は170万台を目指します。
麻倉 生産数を2倍に増やす。これはたいへんなことですね。
呂 8.5世代の製造ラインであるE4-2が稼働しますので、ここで90万台くらいを見込んでいます。2018年度には250万台まで到達する見込みです。
麻倉 マザーガラス一枚で、パネルは何枚取れるんでしょうか?
呂 55インチであれば6面が可能です。
麻倉 製造方法として、そろそろ印刷方式も出てくるのではありませんか?
呂 それもひとつのテーマです。印刷方式のメリットは材料の効率がよくなるとか、画素構造もRGBW(ホワイト)からRGBになりますので、8Kのような超高精細パネルには有利になるといった点があります。ただし、RGBWでも8Kを実現する目処は立ってきていますので、そのあたりの見極めが重要になるでしょう。
麻倉 なるほど、製造技術も進化しているんですね。
呂 我々としては、印刷方式での開発装置も持っていますので、現在の蒸着方式とどちらが効率的かを探っていくことになります。
麻倉 ということは、今後は印刷、蒸着の両方を使い分けていくと。
呂 いえ、工場設備への投資や運用を考えると、どちらかを選ぶことになるでしょう。もちろん蒸着方式でもまだ発展の余地がありますので。
麻倉 日本では東京オリンピックが開催されることもあって、2020年が8K普及のひとつの目標になっています。2020年の有機ELとなると、既に8Kで、98インチサイズくらいは実現できそうですか?
呂 弊社としてはその前に8K解像度は実現したいと思っています。おそらく蒸着方式でできるでしょう。
麻倉 なるほど、それは期待したいですね。そういえば昨年は中国での有機ELセミナーにも呼んでいただきましたが、中国でも有機ELとQLED(量子ドットLED)がアツいですね。
呂 中国では多くのメーカーが競争を展開していますが、我々もプロモーションに力を入れて、有機ELの普及を目指します。
麻倉 日本では東芝に続いて今回のパナソニック、ソニーからも製品が発表されましたから、有機ELは市民権を得たと言えるでしょう。
呂 LGエレクトロニクスも頑張っていますし、ご期待ください。
麻倉 今日はお忙しいところありがとうございました。
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