2017-01-08
藤子・F・不二雄「中年スーパーマン左江内氏」実写化。幻の傑作の「昭和性」と「普遍性」を、福田雄一はどう料理する?
左江内(堤真一)は、藤子建設営業3課の係長。彼は責任を取るのが大の苦手で、部下にあきれられる始末。家庭では妻の円子(小泉今日子)に逆らえず、二人の子供・はね子(島崎遥香)、もや夫(横山歩)にも舐められていた。
ある日、左江内は、見知らぬ老人(笹野高史)から「スーパーヒーローにならないか?」と声を掛けられる。意味の分からない呼びかけを無視しようとする左江内に、つきまとう老人。まもなく、彼は空を飛んで去っていく。「ええええ!? ウソでしょー!」
まず最初に聞きたいのは、「福田雄一、どういうふうに時間をやりくりしてるんだ!」とね(笑)。つうか忙しさは、もう手塚治虫を超えるか超えないかじゃないか?
えと、なに…おれがきいたことあるのだけに限るぞ
俺はまだ本気出してないだけ(2013年)[24]
アオイホノオ(2014年7月 - 9月、テレビ東京)[19]
私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな(2014年11月 - 2015年2月、LaLa TV)
ニーチェ先生(2016年1月 - 3月、Hulu・読売テレビ)[20]
勇者ヨシヒコと導かれし七人(2016年10月 - )
いや……、どう考えたって、物理的にできねーだろ!!!
だいたい、原作も、かなり作品自体がヒットしている、出版社にとっての隠し玉…であると同時に、ちょっと癖が強くて、万人受けする王道と言うにはちょっとばかり微妙。
なんか、そういうのを担当するのは福田雄一、という流れがもうできているのかね(笑)
ほかは完成しているとはいえ
を同時に制作するって…誰か止めたらどうだ!どれも一本に絞ってやるに値するぞ!
そういうのを引き受けるのと同時に、そういうのを探し出して、実写化企画を通す突破力もおそらく相当なもので、そもそも彼が初の映画脚本を書いた島本和彦「逆境ナイン」も、当時原作は終了していたし、超特大ヒットでもないのにかぎつけて映画が実現したこと自体もすごい…あれは監督やプロデューサー主導だったのかな?福田氏はいつぐらいからかかわっていたのだろう。
福田氏と島本氏は、実際に親交も深く「何度も原作の実写化を持ち掛けて私を喜ばせる…だが実現しない!」と島本氏にいわれている(笑)
しかし、ついに実現させて面目を保ったのが「アオイホノオ」で、「登場する人物や作品の許可をひとつひとつとるのが難しい」という難題を、「島本さん、あそこに出てくる人物はだいたい直接の知人ですよね。さあ携帯があるので、この場で彼らにTELして許可をもらってください」という、チョー力技で解決したのであった。
そんな突破力も、ここはキープするがここは大胆に変えるというアレンジ力もすごくて、
今リンク先の第一話をみたら、相当に改変されているのですよ。まあもともと藤子F先生、アイデアは枝葉に行かずにぱぱっと中心部分のストーリーすすめるタイプだからね…(昭和の少年漫画のページ数に合わせたのだろう)。アレンジの余地は十分にあって、なかなか面白そうである…
彼の「勇者ヨシヒコ」、この前放送されたシーズン3が、本日深夜からBSジャパンで再放送だって。
第3シリーズ『勇者ヨシヒコと導かれし七人』BSジャパン1月8日(日)から毎週日曜日深夜0:00〜0:35(35分) https://t.co/g9ZYBJ3hFI いよいよBSでも『勇者ヨシヒコ』の第3シリーズが放送開始。
— YS@ゆうげん (@yuugen_) 2017年1月7日
と、ドラマ論や福田雄一論は当方じゃ役者不足だわ。それにそもそも作品はまだやってないしね。
では、原作を論ず。
ぼくは、藤子不二雄ランドが最終盤に突入した1990年刊行の版をもっているのだ。エッヘン…と思ったら1、2編ほど未収録なのねコレ。
中年スーパーマン左江内氏 (中公コミックス 藤子不二雄ランド)
- 作者: 藤子不二雄
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1990/07
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あとで全集を見て知りました。これは時間ループ物語「未来の想い出」と一緒に収録なのがオトクで、正直にいうと、みなさんが今回を機に同作を買うなら、これをお薦め。
藤子・F・不二雄大全集 中年スーパーマン左江内氏/未来の想い出
- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
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そして、てんとう虫コミックススペシャルとしてことし再刊されたほか、今発売中の漫画アクションに第一話が再録されていました。
中年スーパーマン左江内氏 (てんとう虫コミックススペシャル)
- 作者: 藤子・F・不二雄
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というか今週号、この作品に加えて「銀と金」「この世界の片隅に」が再録されていて、得なんだか損なんだかよくわからん(笑)
アクション発2大名作が連ドラ化!!
放送直前特集&第1話再録!!
中間管理職で真面目がとりえの左江内氏を付けねらう男の正体は…!?
すかんぴんの森田は、競馬場で謎の男・平井銀二に声をかけられたことをきっかけに、裏社会を知っていく…!
時代を超えて、心の琴線に触れる普遍性。
今回「アクション」に収録されている第一話で、すでに、これぞ藤子・F・不二雄的!なコマがある。
左江内氏がスーパーマンに抜擢された理由は
・力をもっても大それた悪事のできぬ小心さ
・ちょっと見、パッとしない目立たなさ
だったという…(笑)ひどい選定基準な気もするが、パーマンが選定されたのは、寝過ごしたバードマンが手近にいたミツ夫をテキトーにみつくろったのだから、それよりはしっかりと選定している(笑)
にしても。
正義感に満ちた人、崇高な理想に燃えた人、世の悪を絶対にゆるせぬ人…ではなく「最大公約数的常識家」を信頼する、というこの言明は、最初に読んだときにも強烈な印象を残したところだった。
「最大公約数的常識家」の人間性は、根本のところで信用できるはずだという信頼感は、「マイ・シェルター」という作品に結実していると思うのです。
※ストーリーはこちらをどうぞ http://plaza.rakuten.co.jp/neoreeves/diary/201009110000/
一方で…実を言うと、この藤子不二雄ランド未収録の作品に、まさにこのスーパーマンの能力を発揮する服が「強烈かつ不寛容で独善的な”正義”を持ち合わせた人」に間違ってわたってしまうという回がある。
これはどっちが前後か分からないが、傑作短編
「ウルトラ・スーパー・デラックスマン」
※ストーリーはこちらをどうぞ http://d.hatena.ne.jp/koikesan/20130509
ともつながるし、また一度は左江内氏も、このように道を踏み外しかけたことがあった。
なぜ「ぬけがけ」で左江内氏がこんなに怒るのか、そのへんは原作参照。
と同時に、このエピソードが今回、映像化されるかされないか、映像化されるとしたらどうアレンジされるのか、個人的には大注目している。
そんな時代から、こんな時代へ。
そして…やはり昭和52-53年に連載されたこの作品の、時代性がまたちょっと面白い。
この「あんなもの」というのが何かは詳細を略すが、とある「印刷物」です(笑)。それも、今はなき「西独製」であることに時代を感じさせますね。西独製がブランドであるのは、レイバーの「ブロッケン」ぐらいかと思ったら(笑)。
しかし、あの「印刷物」を無くしちゃった!家族に見られたらヤバイ! む、娘の部屋に?娘が見てるのか?
というのは、ガジェットがネットなるものの影も形もない昭和…であるかもしれないが、そこには普遍性というものもやはりある。
昭和50年代は、その統計数とは別に「荒れる少年」がクローズアップされた時代でした(貧困故の少年犯罪が生まれる土壌は確かに急減していたので、社会が統計数以上に戸惑うのには一定の理もあったろうが)
そして、このシリーズで、左江内氏が完膚なきまでにやられる回がある。いや、本家のスーパーマンでも、多くの悪とスーパーマンは戦ったが、ここまでぶちのめされたことはないはずだ。
という、左江内氏ご家庭の教育問題をまくらに、その後、幼児教育での高学歴をめざす家庭と、その弊害を憂える左江内氏の出会いが描かれる。
これもまた、80年代にクローズアップされたし、また当時は「てやんでえ! 勉強なんかなんだってんだ、子供は思いっきり遊ぶのが本道でぃ!ちっけえガキから塾だ家庭教師だなんてかわいそうだねぇえ」という、素朴な「反知性主義(いい意味です)」も…これは勘でいうが、いまよりかなり強かったように記憶している。
しかし…
この「ははあ…」というセリフと、その表情!!!こんな場面とセリフは、なかなか書けるもんじゃあないよっ。ほんとに、コレはすごいわ。
そして、締めくくるように、左江内氏はクライマックス(最終章)で、政治と関わる。
これも、両者のステレオタイプ、キャラクターが「びっくりするほど55年体制!」(※この「55年」は西暦です)で、そこはほんとに時代性、昭和なんだけれども、「正義と悪でなく、正義と別の正義」に翻弄される左江内氏。大衆的漫画としてはなかなかに高踏的でした。
そして、この作品の中でもとある人(注目)から「えらい純情なおっさんやな」と評される左江内氏は、そのナイーブさ…上にいう「最大公約数的常識人」だからこそ、常識を外れた行動に踏み切るのである。
このコマも、藤子・F・不二雄作品史上、屈指の名場面である。”最大公約数的常識家”が、政治家の(表面的な)言動に接し、自分の平穏で堅実な生活を投げ捨ててでも、社会と政治のために協力しようと決断するのである。それも、さらりと、
そして、これが報われるかというと、アレがアレしてむにゃむにゃがほにゃららで……だからこそ、逆にこのコマが万感迫ってくるのである。
「会社の描き方」もファンタスティックかもしれない。時代もあり、作家の資質もあり…ここもどうアレンジされるか。
会社の描き方に時代を感じる(今では通じない)ところもある、と書いたけど、たとえばまさに目につくのはこういうところだ。
部下を連れて飲みにいく上司は◎か〇、「仕事と私生活はまったく切り離して」勤務時間後に部下を拘束しない上司は×あるいは△……
いやー、昭和かよ!!と個人的には思うし、はてなやtwitter界隈
メンタルが弱る若手が増えていることの対策会議で「自覚なきパワハラの例示」「メンタル変調の認識」について協議してたところ解決策があるという課長の答えが「飲みにケーションだ」「うちでは月一の飲み会を開き若手に悩みがないかきいている」だったので、会議室中に「問題はお前だよ」感が漂った。
— ナスカの痴情ェ (@synfunk) 2014年7月2日
部下は仕事と思ってつきあうけど、上司は部下が飲み会が好きだと思っているという誤解。上司はそれをちゃんと認識すべきだと思うな。/新社会人:「上司との酒は仕事」6割 意識の差、鮮明 http://t.co/ZAXdJE5ywK
— 佐々木俊尚 (@sasakitoshinao) 2014年4月14日
しかし、SNSで目立つ発言というのは、おのずから「文化部的」な雰囲気というのも漂うものだ。(文章がそういうものだからね。)
一方で
ただの酒ほど
うまいものはない
というのも、また時代を超えた普遍性が消滅したわけでもあるまい。「たまには部下をのみにつれてってやれ」と忠告され、あまり気のりはしないが見よう見まねで「太っ腹上司」風にふるまう左江内氏と、さらにその場がぼったくりバーであったというドタバタ劇(原作「あの係長が!おごってくれた!!」)、たとえば2017年にはどう映像化されるのかしらね。
そしてまた「影の社長」ともよばれる大株主が、和服姿で身分をなのらずふらりと会社を訪れて…なんて話もある。
ところでぶっちゃけ、藤子・F・不二雄先生は、まっとうなサラリーマンの経験がほんのちょっとしかない。というか、なったんだけど全く向かなかった(笑)
藤子不二雄A先生のほうは、逆に地方では一流の企業でまっとうに稼いで色んな仕事も任され、漫画の才能もそれなりに職場で生かして「ここでサラリーマン生活も悪くないなあ。いずれは出世して…」と思っているところに、さっさと企業をドロップアウトしたF先生から「俺は東京で漫画家として勝負する!お前も一緒に来い!!」とむりやり?辞めさせられたという…。その後、漫画家になってからは破天荒にあそび銀座とゴルフ場に出没するA先生、サラリーマンも及ばないほど規則正しくきっちり仕事を(ハードに)したF先生となるのだが……
高校を卒業はしましたが、あのころ漫画家なんて、まだ”夢のまた夢”でした。漫画家を目指して上京するなんて時代ではありませんでした。僕はたまたま伯父が富山新聞の重役だったので、縁故で入れてもらうことができました。僕は絵が描けたので、社長と重役に会って、その似顔絵を描いたら、それが入社試験でした。藤本氏は親類がお菓子屋さんだった関係でしょうか、製菓会社に就職しました。
ところが藤本氏は、たった三日で会社を辞めてしまいました。彼はとにかく人見知りで、僕以外の人とつきあうとか、社交がほとんどできない人だったから、そもそも勤めなんて無理だったんでしょう。
だから、ここは石田衣良氏に分析してほしいところだが(笑、でもすぐ風化するな…)、藤子・F・不二雄先生はそもそも「サラリーマンの肌感覚」がほとんどない。
これはドラ、オバQ、パーマン、キテレツ…などのお父さんが、サラリーマンとしてのリアリティがほとんどない点も同じですな。
そして「中年スーパーマン左江内氏」のサラリーマン描写も、基本はこの延長線上にある。
とはいえ、作者の人生体験にすべて帰納させてしまっては、それこそこっちが石田衣良氏と同じ水準に落ちることになって、それもイヤだ(笑)
もともと「サラリーマンもの」を喜劇的に…特に漫画に描くときは、その会社がなにをやっているかはぼやっとした書き方をするのが通例で、サザエさんから植木等から、駅前シリーズからアサッテ君、フジ三太郎に至るまで……そういう描き方だった、ということもあるんでしょうね。
違う水準で、会社員のリアリティを描こうとしたことがたしかに人気の秘密だった「島耕作」も、なぞの大株主と個人的に知り合って…みたいな話はあるのだから、このへんはやはり作劇的な普遍性についてもいろいろ関係してくるのでしょう。
さて、そんなもろもろのこと…今となっては長所にも端緒になる個性…をかかえつつ、「中年スーパーマン左江内氏」が、今一番ノリに乗っている福田雄一氏の手によって実写化されます。
はたしてどうなるか。漫画の実写化におけるもろもろの前例も念頭においつつ、「アオイホノオ」の手腕よもう一度、と期待を先行させて待つことにします。
(了)
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