日本の人口は「1億人」と思われてきたが、その常識を書き換えなければならない時代がやって来る。
現在の人口は1億2700万人だが、30年後に1億人を割り、100年後には4000万人台になる。江戸時代に近い人口規模だ。
地球にやさしく経済成長を目標としない社会の到来を歓迎する意見もあるが、問題なのは減少のスピードといびつな年齢構成である。100年間で3分の1にまでなる急激なしぼみ方は社会に深刻な影響をもたらすだろう。人口減少をどう考え、どのような対策を講じるべきか、国民全体で考えなければならない。
社会保障に大きな打撃
人口維持のためには出生率2・08以上が必要だ。ところが、この20年間は1・5を上回ったことがない。現役世代の女性はこれからも減っていく。現在の出生率のままだと生まれてくる子供は減り続け、人口減少に歯止めが掛からなくなるのだ。
地方では限界集落が増えていき、自治体の機能が維持できなくなることが予想される。すでに水道など生活基盤を維持するコストの地域間格差は大きく広がっている。
特に問題なのは現役世代の労働人口の減少だ。人工知能(AI)やロボットで代替できない人的サービスの労働力不足は深刻になる。海外からの労働力に頼ることを真剣に考えなければならなくなるが、急激な移民の増加が国内にさまざまな社会問題をもたらす懸念もある。
もっとも打撃を受けるのは社会保障制度だ。
戦後間もないころは農業や自営業を家族で営み、多世代同居の暮らし方をする人が大半を占めていた。老後の経済的保障である年金をあまり必要とせず、介護も子育ても家族内で賄うことができた。
ところが、今は雇用労働が全体の9割を占めるまでになり、核家族や1人暮らしが多数派になった。税や保険料を納める現役世代が減ると、年金や介護などの財源が確保できず、社会保障制度は維持できなくなる。自分で生活を守る経済力がない人や家族のいない人は生きること自体が難しくなるのだ。
一つの国の急激な人口増減は国家間のパワーバランスを崩すことにもなる。明治以降、日本は急激に人口が増加し、太平洋戦争直前までの60年間で人口は2倍になった。国内だけでは養うことができず、この時期の海外への移民は80万人近くに上った。満州事変の遠因にもなったとも指摘される。
逆に、これからの急激な人口減少で東アジアに「空白」が生まれると経済や安全保障にさまざまな影響が出ることが懸念される。
これまで人口減少が重要な政治課題にならなかったのは、国民がすぐに何か困ったことが起きているようには実感できないからでもある。都市部の過密な通勤電車や集合住宅で生活している人は、むしろ過密な人口に弊害を感じたりするだろう。
結婚や出産は個人の問題と考え、国家が介入することを嫌悪したり違和感をおぼえたりする人が多いことも挙げられる。戦前の富国強兵策の下での「産めよ、増やせよ」が国民の深層心理にトラウマを残しているのかもしれない。
家族の負担を減らそう
先進国の中で少子化対策に成功した国としてはフランスやスウェーデンが知られている。
20世紀になって人口減少が顕在化したスウェーデンでは、当初は楽観的に受け止められていたという。だが、長期的には社会全体に大きな危機をもたらすものとして、戦後の社会民主労働党政権の下で少子化対策を重視する政策へと転換した。
富国強兵のために出産を奨励するのではなく、結婚して子供をもうけるのに支障となっている要因を取り除くことに政府の役割を見いだしたのである。出産や子育てにかかる経済的支援、女性が出産後も働き続けられるような保育所の拡充、教育費の負担軽減などの政策だ。
日本でも高度成長期に年金制度が整備され、高齢者の支援を家族だけに任せるのではなく、社会全体で支える仕組みへと転換が図られてきた。一方で子育ては相変わらず家族に担わせてきたことが少子化を招く大きな要因となった。
賃金が低く不安定な非正規雇用の若者の未婚率は著しく高い。子供を産まない理由として経済的に苦しいことを挙げる人も多い。
フランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッド氏は毎日新聞のインタビューで日本の人口減少にこう警鐘を鳴らしている。
「日本が直面している最大の課題は人口の減少と老化だ。意識革命をして出生率を高めないと30~40年後に突然災いがやってくる」
私たちが気づかないうちに、人口減少は社会の土台を崩していく。今こそ未来志向の政策を大胆に実施し、急激な人口減少から日本を救わなければならない。