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昨今のレコード人気は定着するのか?

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ホールフーズ・マーケットの片隅に新設されたレコードコーナーを初めて見たとき、私はひどく気落ちした。無農薬ケール、キヌア、変な形の人参など、結局使わずに冷蔵庫のなかでダメになる野菜でいっぱいのカートを押していると、私の脳裏を最悪のシナリオを次々と横切った。そして、ビジネスパートナーにメールした。「ああ、俺たちもう駄目だ!」

私たちの小さなレコード店の試聴コーナーには、カラシ色をしたヴィンテージのオンボロ椅子が設置してある。それは、アナーキストが不法占拠に使うような長椅子だが、奇跡的に座り心地も良い。隣の電気スタンドは、デヴィッド・バーン (David Byrne) 及びTALKING HEADSに敬意を表するため、『ストップ・メイキング・センス』(Stop Making Sense, 1984)で使用されたのと同じタイプを何週間もかけて探し出した。更に壁には、決して誰にも売らないMC5のサイン入りポスターが貼ってある。ここでお客様は、物理的に音楽と触れ合える。私たちスタッフは毎日、店に着くとオーディオ機器にスイッチを入れ、人生を変えるようなレコードを選び、二日酔いと闘いながら、レコードと自撮りする子供の対応に追われている。

だから、巨大なスーパーマーケットで、ホウレンソウを買うついでにレコードを買う客がいる、と考えると心が痛んだ。自分たちの店を特別な場所にしようと努力したのに。偶然見つけた多くの珍品も含め、色々とつぎ込んだのに。それを巨大企業は瞬く間に飲み込んでしまうのか。私たちの利益を巻き上げるのか。レコード店主としての自衛本能が働いただけではなく、レコードビジネスの将来もを案じたのである。

Stone's Throw Recordsの創業者で、ピーナッツ・バター・ウルフ(Peanut Butter Wolf)の名で知られるクリス・マナック (Chris Manak) は、熱心なレコードコレクターであるが、これらの大規模店舗のレコード販売については全く知らなかった、と語る。ホールフーズやバーンズ・アンド・ノーブルなどがレコード人気に便乗すると、業界にとってはマイナス効果なのでは、と彼に尋ねてみた。しかし彼は、「大規模店舗にとっては、ただの新機軸なのだろう。でもこのブームによって、私の親くらいの年代にも『レコードの人気が復活してるそうだ』って噂が広まるだろうよ」と答えた。

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ニールセンの調査によると、2015年のレコード売上は、前年に比べて30%増加したそうだ。売上枚数も919万枚から1192万枚に上昇。しかし、この人気がいつまで続くのかは予断を許さない。2015年、最高の売上枚数を誇ったレコードは、アデル (Adele)、テイラー・スウィフト (Taylor Swift) の作品で、両作ともに長くレコードを愛好していたコレクターより、気軽なライトユーザーに支えられている。小売業大手がこれに乗じて更に参入し、レコード製作コストも高騰した。これにより、レコード販売のバブルは弾けてしまうのだろうか。お客さんは、50ドルのラナ・デル・レイ (Lana Del Rey) のアルバムや、品質レベルの低い180グラムの再発盤のために、レコード店に通い続けるだろうか。レコード・ストア・デイ関連のイベントやリリースが、どれくらいあれば俄かファンに飽きられずに済むだろうか。サンタが1年中、子供たちにおもちゃを贈り続けても、子供たちはクリスマスにワクワクするだろうか。まあ、子供ならもちろんワクワクする。これは参考にならない。

これらの課題に対処するためにどうすべきか頭をひねっていると、思いがけず、勝手に店の売上が増加し始めた。まずはARCADE FIRE、THE XX、BLACK KEYSなど、人気のレコードを集めていた顧客のいち部が、中古盤の初回プレスを求め始めたのだ。同時に、1年前からの流行に乗ってレコードを買い始めた俄かファンたちが、自身のコレクションを売りに出し始めた。市場が回転を始めたのだ。

かつてはレコード・ストア・デイ万歳だったファンたちは、着実に中古レコードに興味を抱き始めている。私たちが愛情を込めて〈未来くん〉と呼んでいる高校生の兄弟ふたり組はTELEVISION、イギー・ポップ (Iggy Pop)、JOY DIVISIONなどのオリジナル盤を求めて、何年もうちの棚を漁っている。このように、目新しいものに飛びつくのではなく、自分自身の欲求を満たそうとする顧客がいれば、どんなバブルも乗り越えられるだろう。実際、レコード売上の60%を占めているのは中古盤だ。だからこそレコード販売業界は、公正な価格を維持し、顧客を引き止めておかなければならない。

Discogsは、真のゲームチェンジャーだ。彼らのおかげで、レコードがどんなに希少価値があるものかみんな知ってくれたからね」とマナックは語る。ある店で『サタデー・ナイト・フィーバー』(Saturday Night Fever, 1977)のサントラ盤が、30ドルで販売されていたとする。しかしDiscogs なら、1ドルで購入できる。更にそこには何百枚も存在している。Discogsのおかげで、すべてが白日の下に晒されたのだ。「その町では希少かもしれないが、eBayに出品するほど希少ではない。だから、店もそれに合わせて値下げしなくてはならない」とマナック。

インターネット経由で、簡単にレコードにアクセスできるようになったので、実店舗の見通しは悲観的に感じられるかもしれないが、マーケットの存在自体が大きく知れ渡ったので、音楽ファンのレコード概念が変化したのは確かである。これまで普通の人が触れなかったレコードは、ニュー・ノーマルとなりつつある。そして、ここから新たなオタクが生まれると予想するのならば、実店舗は重要な役割を果たす可能性もある。新たなレコード愛好家もまだまだ増えるだろう。品揃えのいい店をブラブラしながら、スタッフとのおしゃべりが好きな愛好家は常にいる。そして、熱心なコレクターはいつの時代にも存在し、彼らのおかげで多くの店は〈レコードの冬の時代〉を乗り切ってきた。つまり、現在のレコード人気は、古いファンはもちろん、新しい世代の音楽ファンのなかから、死ぬまでレコードを愛してくれるであろう、新たなレコード・ファンを生み出すきっかけになっているのだ。

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最新の統計がこれを証明している。イギリスのエンターテイメント小売業協会 (Entertainment Retailers Association) が2016年11月に発表した調査では、イギリス史上初めてレコードの売上がダウンロードを超えたという。もちろん、ダウンロードよりストリーミングが受けているという要因も大きい。しかし、レコード売上額も昨年の同時期に比べて2倍になった事実〔120万ポンド→240万ポンド〕を考慮すると、間違いなくこれは励みにしていい。とはいえ、新品レコードの販売数は、まだ全体の約5パーセントでしかない。ニュー・ノーマルにはほど遠い割合だが、この5パーセントが持続できれば、かなり良質なニッチマーケットになるはずだ。

大手レーベルによる40ドルの新品レコード、180グラムのマーブル・ヴィニール+豪華ブックレット付デラックスエディションの熱狂は、近いうちに冷めるかもしれない。しかし、そうなった場合もインディーレーベルは生き残っていく。しばしば報道されているように、現在のレコードプレス工場は、少数を注文するインディーより、大手レーベルとの取引を優先している。インディーレーベルは、尋常でない納期と格闘しているのである。彼らにとってレコードは、常に当たり前だったし、今後も当たり前であり続ける。創業20周年を迎えたマナックのStones Throwはその良い例で、2017年にリリースされる全レコードの販売サービスを、年間250ドルの定額制で始めるという。トレンド、ブーム、レコード・ストア・デイについて、マナックに尋ねると、「それについて語るには、Googleで検索しないとね」と真面目に答えていた。

レコード独自の魔法で、これからもレコードは生計の糧となり得るだろう。再び当たり前になる可能性も、無きにしも非ずだ。